2.ポアロの攻防


仕事で米花町に行った時のこと。仕事が終わり、どこか軽食が食べられるお店があるか聞いたところハムサンドが有名な喫茶店があると教えてもらった。コーヒーも美味しいと評判で、ランチタイムの終わったこの時間なら空いているだろうとも言われた。

その喫茶店の看板を見つけて、窓から中を覗くとなるほど空いている。ランチタイムは混雑して座れない程だと聞いたのでラッキーではないか。スキップしそうなくらい浮かれた手で入り口のドアに手をかける。
喫茶店、ポアロの入店を知らせるベルが鳴るや否や、バタンと強引にドアを閉めた。
ベルは想定されていない激しい動きに美しいとは言えない音を出した。
客が来たら店員は入り口の方を向くだろう。まさか店員さんが見たことのある顔で、今後会うことは組織内でしかないと思っていた。褐色の肌も、金髪の髪もどう見てもバーボンで、超直感が兄弟でも双子でもないと告げている。
前言撤回、ラッキーじゃない。

目の前のドアが内側から空いた。目線を下げると小学生くらいの子どもで、これまたあの時東都水族館の観覧車に掴まっていた子どもだ。無事で良かった。
「お姉さん、どうしたの?」
「中の店員さんの顔が心臓に悪くて」
「安室さんのこと? イケメンでポアロでモテモテなんだよ」
安室さん、なのだろう、バーボンは。心臓に悪いのはイケメンでモテモテとかそういうのじゃない。
「あ、そうなんだ。安室さんって名前なんだね」
「うん。安室さん目当てのお客さんも珍しくないし、中に入ったらどう?」
やっと心の余裕が出てきて、喫茶店の入り口付近の路上でつっ立ってるのは邪魔だと思い始めた。
「あ、入り口を塞いで邪魔だね。ごめん、入るよ」

ポアロの中に入ると喫茶店らしいコーヒーの香りがした。
「いらっしゃいませ、どうかしましたか?」
こんな偶然、どうかしてます。
「いえ、別に」
「そうですか。 おひとりでしたらカウンター席へどうぞ」
店内は空いているのにソファ席に行かせないのはそういうことだろう。早く帰りたい。メニューと水の入ったグラスを置かれて、時間がかかる食事を勧められた。逃してくれないみたいだ。
「アイスティーとハムサンドをお願いします」
「アイスティーとハムサンドですね。今の時間でしたらデザートの種類も多くてオススメです。このパフェは季節限定なんです」
「アイスティーとハムサンドだけで大丈夫です」
夕食でもないのに勧めすぎだ。奥の女性がこっちを見てる。きっと彼女はイケメンの安室さん狙いだ。視線が怖い。安室さんは尋問したくて言っているんですよー、と言いたい。
「今日はお仕事ですか?」
ほら来た。視線を寄越しながら紅茶を淹れるなんて器用さは披露しなくていいです。イケメンなのは分かったんで。
「ええ、さっき終わったところです」
「じゃあ時間を気にしなくても大丈夫ですね」
大丈夫じゃないです。仕事以外にも予定がある人も多いんですよ!
「えっと、予定がありまして」
「どんな予定が?」
怖い。安室さんグイグイ来る。でも紅茶は来ない。早くハムサンドに取り掛かってくれよ。しおりを挟む
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