ゼロと取り調べ


ボンゴレ内でNorを使ったNAZU不正アクセス事件や、その記録がボンゴレに存在しないことなど調査の結果、白蘭は行動的・思想的に危険性は0であると判断された。一連の動きは『はくちょう』を間近で見たいがための行動だったらしい。
私の勘は信じてもらえないが、私の中の勘は「イヤな感じはいない」と言っているので多分大丈夫だろう。

報告書を会議までに急いで仕上げてすぐに突入した会議に疲れたお昼休み、食堂が休みだったので昼食を調達するためコンビニにいる。レジは財布だけを持った社会人が列をなしている。それでも棚には数多のお弁当やおにぎりが並んでおり、新商品! と赤いシールが貼ってあるサンドイッチが目についた。それはハムとレタスがパンに挟まれたハムサンドだった。安室さんのハムサンドを食べた舌では満足できないだろうな、と思いお弁当の棚へ向かう。そこでいいな、と思った親子丼に手を伸ばすと、別のお弁当を取ろうとしていた人の手と当たってしまった。
「すみません」「いえ、こちらこそ」
当たってしまった手の方を向くと、スーツ姿の男性と目が合った。普段なら軽く会釈して親子丼を手に取りレジに向かったであろう。
しかし私は親子丼に再び触れることなく一目散に逃げ出した。スーツの男性はあの時私に任意同行を、と言った安室さんの部下だったからだ。
「ちょっと、待ってください」
待てませんってば。人が多いコンビニの中を縫うようにして出口を目指す。ギリギリ他のお客さんの迷惑にならない程度に駆け足で。
入ってくるお客さんの為に空いた自動ドアに勝利を確信したその時、正面から「待て」という聞き覚えのある声とともに肩を掴まれた。
「安室さん、」
「ちょうどいい。まだあなたに聞きたいことがありまして」
自動ドアはちょうどコンビニに入る安室さんのために開いたのだ。無情にも店内に戻され自動ドアは閉まった。

私は椅子に座らせれ、目の前の机の上にはカツ丼がある。ここは取調室、ではなく野外である。テーブルと椅子が設置されている休憩スペースにいるのだ。
コンビニで捕まった後、「ちょうどよかった。僕もお昼休みになったところです。一緒に食べませんか?」と笑顔で昼食に誘われた。背後には安室さんの部下が控えており、首を縦に振るしかなかった。ああ、この人の誘いを断る女の子はいないんだろうな、というのが素直な感想だ。逃げ出せるものなら再び逃げたかったし、私が仕事も立場も何もかもが彼の仕事と関係なく普通の女の子だったのなら勘違いして昼食を楽しめただろう。残念ながら逃げられなかったので素直にお茶とお弁当を手に取り、安室さんと安室さんの部下に挟まれてレジに並んだ。安室さんの部下と安室さんは豚肉と十種の野菜炒め弁当、私は親子丼が売り切れていたのでカツ丼を買った。

太陽が輝き、風もなくいい天気。ピクニック日和のためこの場所に来るまでにいくつかのグループがお昼を食べている姿を見た。私たちの周囲は人がほとんど通らず穴場スポットなんだろうなと思う。
ピクニックなら仲の良いお友だちと行きたいのだが、悲しきかなお友達ではない男二人と女一人がテーブルを囲んでいる。三人ともスーツを着ているので同僚だと考えれば不自然ではない組み合わせになるのだろうか。
「それで、聞きたいこととは」
お昼休みは限られているので諦めてカツ丼の蓋を開ける。既に電子レンジで温めてもらったのでふわっと湯気が上がった。
「あなた、ライフル持ってましたよね?」
「日本には銃刀法があるから持ってるわけない──。あ、いや散弾銃は一応免許持ってるわ」
安室さんと私は昼食をとり始める。安室さんの部下の人は食べるのを躊躇しているのか恐る恐ると言った感じで割り箸を割った。
「ライフルを持っている前提で話をします」
「まって、逮捕されちゃう」
慌ててカツ丼の蓋を閉めて立ち上がろうとしたが、安室さんに手首を強く掴まれた。私は匣を使った戦闘以外は全く役に立たない非戦闘員だ。習った護身術を実践したところで痛い思いをするのは目に見えていたので、素直に座る。
「あなたは関わっていないことになっています。上に言われて」
安室さんの部下が悔しそうに言った。上層部と知り合いではないし、ボンゴレとの繋がりなどがあったと聞いたこともないので申し訳なくなる。何故そうしたのか、疑問に思うのは私も同じだ。
「逮捕されない?」
「出来ません。なのでこれは個人的な質問です」
「よかった。それなら逃げないので貴方もご飯食べてください」
安室さんの部下は箸が全くと言っていいほど進まない。すぐに動けるよう小さなものしか口に入れていなかった。私がカツ丼の蓋を再び開けて食べ始めると戸惑った表情をされた。
「風見、大丈夫だ。彼女は食事中に逃げない」
風見さんって言うのか。食事中は逃げないってポアロのことかな? ここが戦場なら食事中だろうが逃げるぞ。
ようやく食べ始めた風見さんを見て安室さんは箸を置き口を開いた。
「検証の結果、使われたのは散弾でした。散弾銃では構造上細かな狙撃は不可能。威力もガラスを貫通するとは考えにくい。しかし、僕とコナンくんには全く当たらず、ガラスにも貫通した形跡がありました」
「それなりに上手いでしょ。掠りもしないようにしたからね」
とうてい師匠に及ぶ気はしないけれど。
「弾が見つからなかった」
「ビルのガラスに撃った弾丸のこと?」
「そうだ。床や壁には数十ヶ所の弾痕があった。僕が撃った弾は発見されたが、貴方が撃った弾だけ綺麗になくなっていた。現場はごたついていて回収することは可能だが、瓦礫を一ミリも動かさず、床にも余計な傷をつけずに弾を回収出来るとは考えにくい」
「自然に分解されるBB弾とかどうだろう」
「とぼけるなよ」
「それなりの威力がある消える弾丸ってわけね」
安室さんは頷いた。それは私が撃ったもので間違いなさそうだ。どうしよう、死ぬ気の炎について言うわけにはいかないのだが、いかんせん言い訳が思いつかない。
喋る代わりにカツを口に入れる。最近のコンビニのご飯も侮れないな、と思ったが今は味について考えてる場合じゃない。
カツをもう一口食べた私を喋る気がないと判断したのか安室さんはため息を吐いてお弁当を食べ始めた。
「ガラスに映った貴方がガラスの壁に向かって撃った姿とオレンジ色の閃光を見ました」
「オレンジ色って……。あの状況でよく分かったね」
「ガラスに映ったあの美しいオレンジ色は忘れませんよ」
「お褒めいただき光栄です。こんなに開けた場所でする話じゃないけど」
「同感だ。しかしこの件については解決済みと上から御達しが下った」
つまりこれ以上の捜査は必要なし、警察として動くな、ということか。尋問にお昼休みを使っているのも理由のひとつだろう。
安室さんと風見さんの表情からやるせない気持ちが滲み出ている。さすが公安の人間、感情に訴えかけるのが上手い。
「なるほど。お互い不自由な身ですね」
「僕から見た貴方はとても自由に見えますがね」
安室さんは疲れを隠さずに言った。それに続けて風見さんも大きなため息をついて口を開いた。
「貴方のせいで報告書が全部書き直しだったんだ」
二人とも栄養ドリンクやサプリメントのCMに出演出来るようなポーズに変わった。視線は下がり、体全体で疲れてます、憔悴してますと主張している。
「あーー、お疲れ様です。二人のお弁当奢った方が良かったですか? あ、つまらないものですがどうぞ」
居た堪れなさと限られた昼休みから、チョコレートと野菜ジュースを差し出した。ちなみにチョコレートはコンビニのレジの横にあったもので、野菜ジュースはクジで当たったものだ。両方とも未開封、コンビニの袋に入れて机の上にずっと置いてあった。渡すのは惜しいが、全てを吐かされるより全然いい。
机に突っ伏した安室さんはチラリ、と差し出した食品に目を向けた。
「足りないな」
「そうですね」
安室さんと風見さん、絶対に心の中で悪い顔してると思った。少なくとも風見さんはそれが声色に表れている。
「今度奢ってくれませんか?」
「ポアロで?」
安室さんが安心して食事出来る上に踏み込んだ話が出来る店を私は知らない。知っている店の名前を挙げたが絶対にポアロではない。
「そうだな、高級レストランにしよう」
「個室でいいなら」
政治家などが利用するようなレストランでは高級になればなるほど毒の混入はされにくい。財布に与えられる打撃は大きいが、高級な方がこちらとしても安心だ。それに個室なら周囲に盗聴を妨害する装置を設置することが出来ると踏んだ。
「店選びと予約はこちらでします」
「はーい。コナンくんも呼んでいい? 多分知りたがってるから」
コナンくんは納得出来る答えがないうちは私を探り続けるだろう。そのため一旦私を探らなくても大丈夫、と思わせたい。その為にコナンくんを呼びたいのだ。
「分かりました。必ず来てくださいね」
私から見て安室さんが一番カッコよく見える角度で安室さんは微笑んだ。分かってやってるな、と悔しくなる。お返しに「ええ、楽しみにしてます」と最上級の笑顔で笑った。しおりを挟む
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