ゼロと白


一人で来たことを主張するように約束の時間にオートバイが現れた。青と白のS1000RRはスムーズに停止する。フルフェイスのヘルメットを外す一連の動きはベルモットを彷彿させた。沢田千代は解放されたゆるいウウェーブのかかった茶色の髪をかきあげ、何の用、と気だるげに放った。
彼女は愛想が良い普段とは違い、笑顔ひとつ見せない。

「国際会議場の爆破事件についてあなたなら何か知っていると思いまして」
「疑ってるの? 悪いけど、今回は爆弾すら作ってない。犯人を除けば警察が一番詳しいんじゃない?」
「犯人は毛利小五郎だと聞いただろう。しかしお前は犯人が別にいると確信している。そうだな?」
「蘭さんを励ますための言葉がそう聞こえたのかな。でも安室さんに言った覚えはないんだけど」
「ふざけるな! 知ってることを全て吐け!」
「だから、私は犯人じゃないって」
背を向けて帰ろうとする沢田千代の腕を掴み、盗聴機を取り付ける。そして腕を手前に引き強引に振り向かせた。
「NAZU不正アクセス事件の犯人が出入りしてたゲーム会社を訪れただろう。その犯人もNorを使っていた。何か掴んでるんじゃないのか」
「貴方には関係ない」
腕から外した手で胸ぐらを掴んだ。それにすら動揺する素振りすら見せず冷たい目をしている。
「人が死んでるんだぞ! お前は感覚が麻痺して──」
「麻痺なんてしてない! 例えそうだろうが、どれだけの事態なのか十分理解してる! 事が起きてからじゃ遅いの!」
口調が強くなったが抵抗はしない。ばつが悪くなり、彼女の服を握った手を緩めた。
「ならばこちらに協力しろ」
「何か起きないと動けない警察に言うことはない」
沢田千代は強引に手を払い、襟を正す。冷たい視線は消え目に憎しみもない。ただの悲しそうな顔がそこにはあった。
「私にだってやる事がある。次も応じると思わないで」
彼女は安室が先ほど付けた盗聴機を突き出しながら言った。そこに悲しみはなく、眉を寄せ苦しそうな表情を浮かべていた。


△▼△


ぼんやりとした明るさの中、閑静な道路は対向車すら見えない。バイクの音だけが耳に届く。
私の腕を掴んだ拍子にスムーズに付けられた盗聴機。公安が関わっているなら盗聴器を取り付けることは出来る。探偵事務所の物を押収した時、取り付ける機会はあった筈。人か、場所か。人なら橘先生、蘭さん、コナンくん、妃先生。場所なら妃法律事務所だろうか。

安室さんがゲーム会社を訪れたと知ったのは秘書との電話だ。秘書曰く、今回の約束を取り付けた際に今すぐ来られない理由を求められたそうだ。私自身に盗聴機や発信機が取り付けられた訳ではない。多分だが私なら気付く。

日本の警察は優秀だ。ガス栓のアクセスにNorを使った形跡は調べられていた。毛利探偵が帰ってくる日も近い。

過去に行われた二十四時間体制の監視の結果、白蘭は危険性がゼロだと判断された。今日から人が増え、監視が厳しくなるが、今の監視は当時より緩い。例え再び二十四時間体制の監視を行おうとも白蘭は脱走出来る。結果によっては監視体制の更なる強化、拘束、拘禁。最悪の場合、殺害しなければならない。
正一くんと同様に、白蘭は友人だ。未来の記憶を含めるとかなり長い期間になる。人殺しは日常の出来事じゃない。特に未来の惨状を呈する世界を見てから、感覚が麻痺しないよう自分に言い聞かせて、ただ受け入れるだけの行為はしないよう注意しているつもりだった。
今も迷いは許されない。未来で正一くんも私も白蘭を止めることを選んだ。ボンゴレは自警団、人々を守る組織である。我々は白蘭を止めなければならない。

空は白み始めるも、太陽はまだ見えない。しおりを挟む
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