ゼロと不正アクセス


ガス栓のログを洗っていると『Nor』を使ったアクセスがあった。『Nor』とはIPアドレスを暗号化し、複数のパソコンを経由することで辿れなくするブラウザソフトだ。ガス栓に匿名でアクセスした者がIoT圧力ポットを持ち込んだ男の可能性が高い。
Norといえば、確か『NAZU不正アクセス事件』にもそれが使われていたはずだ。何か参考になるかもしれない。
ボンゴレにある『NAZU不正アクセス事件』の報告書を調べてみよう。ボンゴレの報告書は当時の新聞よりもずっと詳しい。


『NAZU不正アクセス事件』の報告書は本部にある。持ち出し禁止なのだが、部下に所在を確認してもらうとそのような報告書はないと言われた。白蘭と少しでも関係がある公安事件の報告がないなどあり得ない。
その旨を上に伝え、白蘭に確認を取るよう伝えたのだが、彼は今日本にいると言われた。そして本部は本部で忙しく、日本に行く暇がある人員はない、私に行くよう暗に伝えられた。

今回の爆破事件と白蘭の間に関わりがあったのなら大変だ。なかったことにされているが、彼は世界征服をほぼ達成した前科がある。もう二度とあの惨劇を繰り返してはならない。

帰ってきた秘書に都内の防犯カメラに男が映っているかの検証を頼み、白蘭に会うアポを取りながら彼のいるゲーム会社に向かった。

「社員がやったことでボクは関係ない、だから報告にないんじゃない?」
机を挟んだ向かいで白蘭はマシュマロを食べながらそう言った。
「しかし、その時期に監視の人員の入れ替えもありませんでした。ニュースにもなった事件を誰も指摘しないのはおかしいです」
「そっかぁ。でもそれはそっちのミスでしょ」
白蘭の目は鋭い。しかしここで負けてはいけないのだ。
「そうかもしれません。なので今、貴方に話を聞きに来ました」
「詳しいことは忘れちゃったよ。NAZUって今度帰ってくる『はくちょう』を開発したところでしょ。遊びでアクセスする気持ちは分かるけどね」

戦争を遊びと呼ぶこの男の『遊び』の範囲は広い。今の『遊び』がどれほどのものを指すのか、最悪の可能性を考えなければならないのだ。もし今回の爆発がサミットの開催前ではなく、サミットの最中だったら? 今回の爆破はただの実験で本来の目的が別にあるとしたら?
「Norを試すため、貴方が社員にアクセスするよう仕向けたかもしれないじゃないですか……!」
「憶測でものを言うのはやめてくれないかなぁ。千代ちゃんは昔から想像力が豊かだよね」
昔から、それはパラレルワールドで得た記憶内の昔か、それともこの世界での昔だろうか。
「何が言いたいのですか」
「キミが僕の部下だった頃が懐かしいなって」
「ふざけないでください!」

確かに私はミルフィオーレファミリーで白蘭の部下だった。第0番部隊の隊長が白蘭で副隊長が私。友達だった正一くんに白蘭を止める協力を依頼されて入会した。今は亡きミルフィオーレファミリーをこの会話の中で持ち出すのは、白蘭が危険であると示唆することになる。

「そう熱くならないでよ」
椅子から勢いよく立ち上がった私に落ち着いて、と言われるがこれ以上会話を続けるつもりはない。
「この会話は本部に報告します。貴方は脱走したとはいえ監視対象です。安易な言動は慎んだ方が身の為かと」
結局、私がもう一度椅子に座ることはなかった。


高ぶった感情が落ち着いた頃、秘書から電話がかかってきた。防犯カメラにあの男が映っていた映像があった連絡かと思いきや、安室さんから会いたいと連絡があったと言われた。
安室さんは一方的に時間と場所を指定し、一人でここに来いと言わんばかりの強引な約束を取り付けたそうだ。時間は明け方。緯度と経度で指定された場所は海岸だった。
時間と場所から死体を捨てるのかな、と思う程、人がほとんどいない場所。犯罪現場を目撃したらどうするんだ。
因みに防犯カメラの映像から男を探すにはまだ時間がかかるらしい。この作業がバレたのかと思いましたよー、と秘書は電話越しに笑っていた。しおりを挟む
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