ゼロと過去の鱗片


会社に戻ると秘書から既に警察にガス栓のシステムと防犯カメラの明細な資料とを提出したと伝えられた。
「ネットが開通する以前の監視カメラの映像がないか聞かれましたが、うちはシステムを提供しただけで警備しているのは警察ですからねぇ、管理してたら問題ですよ」
「だよねぇ。でもあるんでしょ?」
「試運転の電源を切り忘れたと知られるのも問題です」
「ははは。見てもいい? うちのシステムのせいだと言われたくないし」
「そうですね。準備します」
「ありがと。助かる」

準備された映像を選ぶ。まずはガス栓のある料亭の厨房から。そこには毛利小五郎が進入していない代わりにある男が忍び込み調理器具を置いていく姿が映っていた。
両側に取っ手のついた大きな鍋、側面には黒く光る四角いガラスがついていた。
「これ、なんだか分かる?」
「あーーっこれ、IoT圧力ポットですよ! 買おうと思ってたやつです!」
「Iot圧力ポット?」
「圧力鍋をスマホから操作できるようにしたポットですよ! 圧力、温度、時間を設定すれば自動で調理してくれるんです!」
IoTとは「Interest of Things」の略で物が直接インターネットに繋がり、遠隔操作できるというものだ。
「どんなものか調べるために買って貰ってもいいかな? その後の管理は貴方に任せたいと思ってるんだけど」
会社にIot圧力ポットがあると知られたらまずい。ましてやそれが犯人しか知り得ない起爆剤だったとしたら更にまずい。
「それはつまり」
「支払いは私のポケットマネーか経費から」
秘書の顔がパァァと明るくなり、小走りで外に向かう。
「ついでにパンフレットも貰ってきますね!」
ドアに手をかけた秘書は振り向きながらそう言って部屋を出た。

経費で落とすとしたら、もちろん会社ではなくチェデフの経費だ。秘書の彼女は会社の社長としての秘書でもあるが、チェデフ所属の私の秘書でもある。だからこのような見つかったらアウトなことが出来るのだ。


優秀な秘書が電気屋に行ってくれている間に、防犯カメラの画像とネットのIoT圧力ポットの画像と照らし合わせる。何枚か試してみると全て見事に一致した。IoT圧力ポットが原因で間違いなさそうだ。
ただの圧力鍋なら、爆弾を中に入れて隠した方が厨房に違和感を感じさせない。しかしニュースにあった通り当日は警官が下見をしていたのだ。爆弾に気付かない可能性に賭けることはしないだろう。
もし中に爆弾が入っていなかったら、IoT圧力ポットそのものが爆弾の役割を担うことになる。厨房にガスが充満していたなら可能かもしれない。
サイトの紹介にあった温度等の数値をソフトに入力していき、爆弾に成り得るかどうか計算すると、理論上は見事に大規模な爆発が起きると示された。
もちろんこのソフトも見つかったアウト。しかし爆発の原因が分かった今ではIoT圧力ポットを持ち込んだ男も犯罪者だ。

あの男は誰だろう。映像を解析し、顔写真を印刷する。
男は忍び込んだ時しかカメラに映ることはなかった。現場に出入りする人間ではないのか。
確かにうちの社員なら国際会議場の見取り図を知ることが出来るが、男は社員ではない。爆発が起きた日、工事の為現場に行く予定の人たちはガス会社の人も含まれていた。接触できる範囲で工事関係者にこの顔を知らないか直接聞いて回るも見たことがないと言われた。

ガス栓のログを洗い、男が誰か突き止める必要がある。フロント企業として絶対に警察に疑われてはならない。

東京都内の防犯カメラの映像を解析ソフトにかける準備をしていると、電話が鳴った。蘭さんのお母さん、妃先生が資料を貰えないかという内容だった。私が行かなくても良いことだが、毛利小五郎が逮捕されたことを知るのも、それが冤罪だと知るのも会社で私しかいない。今から行くと約束をして、解析ソフトを閉じた。秘書に書き置きを残し、妃法律事務所へ向かった。

妃法律事務所には蘭さんとコナンくん、妃先生、そして眼鏡をかけた女性がいた。彼女は橘境子さん。毛利小五郎の弁護を引き受けた弁護士さんだそうだ。
「言われた資料、持って来ました。私も毛利探偵が爆破事件なんて起こすと思ってませんから! 橘先生、よろしくお願いしますね!」
「え、ええ。でも私、公安事件は全部負けてるからあんまり頼りにならないかも」
「公安事件ですからねぇ。勝つ方が難しいと聞きました。でもその前に犯人は毛利探偵じゃないと警察が証明してくれますって! ね!」
不安そうな蘭さんの不安を少しでも和らげようとわざと明るい声を出した。

「あ、僕、この事件知ってるよ。『NAZU不正アクセス事件』」
コナンくんは机の上に置かれた書類の纏まりを指差した。
「え? NAZUってアメリカで宇宙開発してるあの有名な?」
「『NAZU不正アクセス事件』は大々的にニュースに取り上げられた事件ですよね。確か──」
「ゲーム会社の社員が遊びでアクセスした事件だよね? 千代さん」
「そうそう」

その会社は白蘭が経営しているゲーム会社だった。白蘭は未来での出来事があった後ボンゴレの監視下に置かれたが、代理戦争の為に脱走した。当時よりは緩くなったが今も監視を続けているボンゴレに報告があった筈だ。

「この時の検事も日下部さんだったんです」
日下部さんと言うのは負け知らずの敏腕検事さんらしい。
「その裁判も──」
「もちろん負けてます」

橘先生がこの調子だと裁判に期待は持てなさそうだ。蘭さんの顔がどんどん沈んでいく。何とかして励まさなければ、このままでは蘭さんの心だけではなく身体にまで影響が出てしまう。

「大丈夫ですよ! きっとこれから真犯人が判明して、毛利探偵が犯人じゃない証拠が出てきますって!」
「だと良いんですけど」
「毛利探偵が疑われている今、犯人は絶対に油断してぼろがでます。アリバイが崩れたり、犯人しか知らないことを喋っちゃったりするんですよ! ね! コナンくん」
コナンくんと同じ苗字をした作家の推理小説に出てきたことだが、実際にもそのパターンはある。
「うん! おじさんもそうやって犯人を見つけてたもん」
「ほら! 毛利探偵の側にいるコナンくんがそう言うんだから間違いないよ!」
蘭さんはほんの少しだけ笑ってくれた。しかしそれは苦しそうで、無理に笑顔をつくらせてしまった。無理な励ましは逆効果だったと悔やまれる。
そして資料を渡してしまった以上、部外者はこれ以上踏み込めない。

帰る前に横にいる考え込んだ様子のコナンくんに小声で話しかける。
「ねぇコナンくん、この男の人を知らない?」
監視カメラに映っていた男の写真をコナンくんに見せた。
「うーん、見たことないけど」
「そっか。ありがとう」
コナンくんが知っていたら、犯人は毛利探偵の近くの人間で、わざと罪を着せるために犯行を行なったと思った。毛利探偵は有名人だが、指紋を採取する為にはある程度近付かなけれはならない。

「そうだ千代さん、ポアロの監視カメラなんだけど……」
「こんな大変な時にいいって。私も忙しくなりそうだし」
「うん、ありがとう」

帰る挨拶をして妃法律事務所を後にした。毛利探偵が無罪だと証明されたらポアロのケーキを食べに行こう。きっとその時は今食べるよりずっと美味しく感じられるだろう。しおりを挟む
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