跳ね馬


入店音と共に喫茶ポアロに足を踏み入れた外国人。モッズコートを着た金髪の男性は入るなり彼女の名前を呼んだ。
「ディーノさん! 久しぶりです」
彼女は笑顔で男に駆け寄った。男性もニコニコしながら彼女に身長を合わせるように屈み顔を近づけた。そして頬を合わせてリップ音を立てた。
「千代! 会いたかった!」
両手を広げた男に抱きついて私もです! もしかして迎えに来てくれたんですか、と返す彼女に寸劇でも見せられている気分だ。
店内では男がモデルでは?、俳優かもよ?、と客がさざめきあっている。
梓さんは僕と男を交互に見て心配そうに視線を向けてきた。
外には真っ赤なフェラーリが停まっている。持ち主が彼なら車は空になり路駐だ。駐禁切られるぞ。いやいっそ切られてしまえばいい。
「注文されたハムサンド用意できましたよ」
「あ! 安室さん。ありがとうございます」
思い出したようにこちらを向く彼女に腹が立つ。幸せそうな笑顔も自分には見せないものだ。
「なあ千代、千代の淹れたエスプレッソが飲みたい」
彼女の耳元で喋るディーノの声が聞こえた。カウンターの中にいたら聞こえなかっただろう。エスプレッソならポアロにもありますけど。そう言いたいのをぐっと堪えた。
「それは早く帰らないと」
「あと恭弥も待ってる」
彼女はいっそう笑顔を明るくした。
「ちょっと待ってて下さい。お会計がまだで」
「もう払いましたぜ。ハムサンドもこちらに」
レジには梓さんがいた。目があった梓さんには苦笑いをされた。
「すみませんロマーリオさん。後で返します」
「気にしないで下さい。昔からボスがお世話になってるからな」
「でも」
「ほら、行こうぜ」
そう言って彼女の荷物を持ってドアを開けた。
「ありがとうございます」
ディーノは店の外のフェラーリの助手席に彼女の手を引いて案内した。
真っ赤なフェラーリの持ち主はディーノだった。

連れてこればいいのに、とは思ったがまさかこうなるとは思ってなかった。
彼女が見えなくなった瞬間に店内がブワッと騒がしくなった。
様々な憶測が飛び交っている。二人は恋人なのか、恋人ならお似合いだの、恭弥は二人の子供なのか、など。しかし共通するのはディーノと千代に関すること。
先ほどから梓さんはちらちらとこちらを見ている。初めて僕が彼女に会った時梓さんもいたので僕が彼女に気があると思っているのだろう。
確かに彼女はお金持ちで外国との関わりがある。外国人の知り合いがいてもおかしくない。恋人の有無も聞いてなかったし結婚していてもおかしくない。
店内がうるさいからかコナンくんが入店してきたことに気付かなかった。
「さっきポアロから出てきた人、すごいね」
「あ、ああ。コナンくん。ごめん気がつかなかった」
「それより安室さん、顔怖いよ。どうしたの?」
「収穫が見込めればいいと思って」
「そ、そう」
ディーノ、ロマーリオに恭弥。調べることは多そうだ。しおりを挟む
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