エニグマじゃない


安室透の指紋採取に成功した。携帯をポアロに忘れたことにして翌日に受け取る作戦がうまくいったのだ。彼は私のことを探ろうとしているし、爆発するかもなどと言えば梓さんに触らせることはないだろうと踏んだ。
余計な指紋がついていない綺麗な携帯は無事に一つの役目を終えたのだ。そんな優秀な携帯電話はこれからも私の携帯電話として頑張ってもらうつもりだ。

何故ディーノさんがポアロに来たのか聞けば雲雀さんとの戦闘に疲れたからだと言っていた。安室透と江戸川コナンの調査結果が出たので私を迎えに行くという体で抜け出して来たらしい。人が多い喫茶店に雲雀さんは行きたがらない。

密着したのは小声でやり取りする為であって恋人同士ではない。イタリアではカップルがそこらじゅうで抱き合っているので不自然にならないが、いかんせん日本では目立つ。しかもディーノさんほどのイケメンなら尚更。
お前の淹れたエスプレッソが飲みたいなど喫茶店に喧嘩を売っているようだが喧嘩を売るつもりはない。ただの緊急度を示す隠語だ。エスプレッソのようにコーヒーが濃いなら緊急度は高め、カフェオレならそれほど緊急を要さない。
つまりは二人についての調査結果が緊急を要するものだったのだ。


風紀財団の本部には雲雀さんと草壁さんが揃っていた。
雲雀さんは皺一つないスーツを着ていてさっきまで戦闘していたとは思えない佇まい。並外れた強さがないと出来ない芸当だと思う。

「二人とも偽名、江戸川コナンは戸籍すらない。日本で戸籍のない小学生は珍しいね」

安室透が偽名かもしれないことは薄々感じていた。組織内のデータによるとバーボンは安室透だったからだ。私も組織内では偽名と偽の履歴で通している。しかし江戸川コナンまでとは。名前の響きだけで偽名と決めつけるのはどうかと思ったが小学生ながら本名は別にあるとは。


「彼は江戸川コナンで小学校にも通ってる。キミだけに偽の名を名乗った訳じゃない」
「何か偽らないといけない事情があるんですかね」
「さあ、それは分からない。世の中にはアルコバレーノがいたりするからね。見た目年齢なんてあてにならないんじゃない」

アルコバレーノは世界最強の七人。呪いで赤ん坊の姿に変えられ成長しなくなった存在。現在彼らは呪いを解かれ普通の子どもと同様に成長し十代の子どもになっている。
江戸川コナンも実は大人だったりするのだろうか。

「それより、問題はキミだ。なに本名を馬鹿正直に教えてるのさ」

最初は安室透が本名だと思ってたから。警察関係者だと私に教えたようなものだしまさか偽名を教えられるとは思わなかったのだ。
それにポアロは本名で社長をしている会社の取引先の帰り道に寄ったので、取引先に偽名を名乗ったと知られたくなかった。

社長の名義が私の会社はボンゴレのフロント企業の一つと言ってしまえばそれまでで上層部はチェデフ含むボンゴレ関係者の名前がずらりと並ぶ。
マフィアがセキュリティ会社の経営など不正の為だと思われるかもしれないが一握りの社員以外はマフィア関係者の会社ということは知らないし、やってることは普通にまともな会社だ。
学生時代不良の頂点に立ちながら風紀委員長を務めた目の前の雲雀さんに比べれば違和感はない。
一応まともに社長としての仕事をしている。正直なところ、エンジニアとして働く方が性に合っているが。


「だって……」
「キミは潜入中なんだよ」
「はい。大変申し訳ありません」

雲雀さんはため息を一つ吐くと持っていた資料を置いた。

「ま、いいんじゃない。相手もこれくらい調べるだろうし信用は得られるかも。味方は多い方がいい。警察を味方につけられれば誤魔化しも効く。頑張りなよ」

顔を上げると雲雀さんは優しい顔をしていた。

「ありがとうございます。差し入れのハムサンド食べますか」
ハムサンドは差し入れの為に注文したのだ。もちろんお代はちゃんとロマーリオさんに返した。
本当は部下の人の分まで買うつもりだったが、思ったよりも早く結果が出てしまったので出来なかった。

「貰っておくよ」

相変わらず雲雀さんとディーノさんは修行という名の戦闘をしていたが、帰るときにはハムサンドを美味しそうに食べている姿が見られた。
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