瞳に猛毒を孕んだあの子
目が覚めると、私はベッドに横たわっていた。消毒液の匂いがする。
ここは保健室だろう。
窓から射し込む光は赤くて、夕方だと知った。結局午後の授業をサボってしまった。

白くて清潔な枕から頭を浮かす。上半身を起こすと、少し辛くてまた横になりたくなる。
ベッドの下に置かれた上履きに足を引っ掛けて、カーテンを開ける。

そこにはリカバリーガールがいた。リカバリーガールといえば各地の病院から引っ張りだこで、医療のヒーローだった。

「あの、」

出した声は掠れていて、上手く喋れなかった。

「起きたかね。身体は痛くないかい?」
「大丈夫だと、思います。ありがとうございます」

身体はまだ痛いし怠い。でも動けない程じゃない。頑張れば家まで帰れそうだ。

「男の子があなたを運んできてくれたんだよ。名前とか全部書いてくれて、出席番号は分からないらしいから担任の先生にお願いしたけどね。焦っていたのか口調が乱暴で、ヒーロー科の薄い金髪の子だったよ」

かっちゃんかもしれない。ヒーロー科に薄い金髪の男の子とかかっちゃん意外にもいるかもしれないけど、かっちゃんはその条件に当てはまる。
食堂でかっちゃんが近くにいたのか分からないけど、近くにいたのかもしれない。周囲とか全然見てなかったから私が知らないだけで。

「髪にコンタクトが付いていたけど、見えるかい?」

慌てて自分の目を覆った。
やばい。個性が発動してしまう。
リカバリーガールを石化させたくない。私はリカバリーガールと目を合わせていなかったか、と心配になる。
でも視界の端で捉えたリカバリーガールの足は石化していなくてホッとした。そういえば、リカバリーガールはゴーグルをつけていた。
だから個性が発動しなかったんだ。

「予備のメガネは持っているかね?」
「鞄の中に、あります」

もしリカバリーガールを石化させてしまったら、と怖くてリカバリーガールの目を見れない。
鞄は教室にある。教室まで誰の目も見ずに行かなければならない。

「自分で取りに行けるかね」
「多分、大丈夫です」

リカバリーガールは私に鏡を渡した。確かにコンタクトは両方ともなくなっていた。でも顔色は悪くない、と思う。
髪もぐちゃぐちゃで、寝ていたせいでシャツはシワシワだった。
手櫛で適当に整えて、シャツを伸ばす。櫛は鞄の中にあるから、あとで髪を梳かそう。
緩められたネクタイとスカートを直して立ち上がる。
スカートもくしゃくしゃで、足跡がついていた。
布団を直して、忘れ物がないか確認する。

「お世話になりました。ありがとうございます」
「私は何もしてないさ。治すのに体力を奪うから患者が疲労時は使えないんだよ。私のお世話にならないように気をつけるんだね」
「すみません」

腕には痣が残っていた。確認出来ないけど、ひとつじゃないんだろうな。意識がはっきりするにつれて痛みもはっきりしてくる。
リカバリーガールに差し出されたペッツをいただいて、保健室を後にした。甘さが身体に染み渡る。

校内はお昼ほど人が多くない。夕礼も終わったのだろう。
かっちゃん待たせちゃってるかな。携帯で連絡入れないと。
下を向いてぶつからないようにゆっくりと歩く。
保健室は教室から少し遠いから時間がかかりそうだ。

人の肩に2回ぶつかって、同じ数だけ謝ってやっと教室に着いた。
私の席にかかった鞄から眼鏡ケースを取り出す。

ケースの中で眼鏡は壊れていた。
眼鏡のレンズはフレームから外れていて、自分ではめようとしてもはまらない。
予備のコンタクトの入ったポーチは探しても見つからない。

どうしよう。このままで帰れるのだろうか。
多分無理だ。
校内に人が少なくても駅や電車には人が沢山いる。
眼鏡を持ってきて貰うとか、迎えに来て貰うとかはマスコミが多くて多分無理。あと学校にもバレる。

どうやって家に帰ろう。誰とも目を合わせずに、誰にも目を見られずに家まで帰る方法を探さないと。
物理室か化学室か生物室にある安全眼鏡を借りる? その場合は先生に許可取らないといけない。職員室までは保健室から教室までの距離より遠い。誰かに声をかけて借りられても他人の予備の眼鏡は度が入っているだろうし歩けるか分からない。

鞄の中で使えそうなものがないか探していると、携帯の画面に通知が来た。
学校の中だからバイブも音も出ない。画面には大量の不在着信と、メッセージが来ていた。
通知が更新されてどんどん表示が変わっていくから、慌てて携帯のロックを解除した。
連絡してくれていたのはかっちゃんだった。
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