空きっ腹にハニーパンチ
テレビでは取材を受けた生徒のインタビューが流れたり、学校の外観を背景にレポーターがオールマイトの経歴を紹介していた。
肝心のオールマイトは映っていない。どのメディアも学校にいるオールマイトを撮りたいようだ。
父に相談してからもマスコミの勢いは止まらなくて、報道陣が詰めかけていた。

中には過激なメディアもいた。かっちゃんに「ヴィラン顔の方!」と声をかけて反応を貰おうとしていた。
ヴィラン顔って酷いな。顔立ちと敵が関係あるのはフィクションの中だけで、現実社会では顔立ちと敵の関係性はない。
怒りを表明して、叫びたかったけど、そんなことしたら声をかけた取材者の思うツボだ。睨むことは我慢したけど、表情は勝手にムッとする。
例えヴィラン顔に見えたとしても、連日大量の報道陣が学校の前に居座っていたら誰だって不機嫌になる。私だって今はマスコミの言うヴィラン顔だ。

学校にはゲートが設置されていて、部外者の侵入を防ぐ。ゲートをくぐれば一安心、もうマスコミは追いかけてこない。

「いつになったら諦めてくれるんだろうな」
「もうじき諦めるだろ。数は減ってもゼロにはならないだろうがな」
「ね、どうせ情報を得ても満足せずに取材を続けそう。オールマイトはこの量のメディアをいつも相手にしてるんだよね。大変だ」

ヒーローって敵と闘うこと以外も大変なことが沢山あるのだろう。かっちゃんもいずれそうなるのかな。
母は元プロヒーローだったけど、私はマスコミに嫌なことをされた記憶がない。やっぱり父親が権力者だと違うのかな。そもそもヒーローの娘に興味がないだけかも。

満員電車と取材陣の軍団に辟易して朝から疲れた。それなのに今日は午前中に体育もある。成績をつけるため、最低基準が爆上がりの超ハードな体育が。
午前中の授業が終わった時にはフラフラになっていた。
今すぐ何時間も眠ってしまいたいけど、お腹も空いている。
ランチラッシュの美味しさが約束された学食は「美味しくないから食べたい気分じゃないな」と思うことができない。
体調さえ良ければちゃんと食べる気になって、沢山食べられる。
食べるのは辛いけど頑張って何か食べないと、って思う時でも美味しいって感じられるのは恐ろしい。食事の暴力だ。眠って午後の授業をサボれれば良いんだけど、サボれないから食事をしなければならない。
なるべく胃腸に優しそうなメニューを選んで、学食の行列に並ぶ。今日も食堂は混んでいた。

立ってるだけでもしんどい。リゾットの載ったトレーが重く感じる。適当に空いている席を見つけて座ったら途端に眠気が襲ってきて寝てしまいそうになった。
体調が悪い時、一人は楽だ。
人に気を遣わなくていいし、角にポツンと空いた一人分の席にも遠慮なく座れる。歩く速度も他人に合わせなくていい。
周囲に誰もいなければ一人でいるのは危ないけど、ここは人が多い。もしも倒れても誰かが気付いてくれる。
ゆっくりと、確実にリゾットを食べる。咀嚼も嚥下も面倒くさい。直接胃に食べ物を流し込みたい。そういう個性とかありそうだな。大食いが出来そう。

リゾットが半分ほど減った頃だろうか。けたたましい警報が鳴った。

ついに幻聴まで聞こえてきたかと思ったけど、どうやら現実らしい。
食事やお喋りに夢中な生徒たちが顔を上げて、放送のスピーカーへ目を向けていた。
徐々に響めきは大きくなり、所々で大声が聞こえた。大きな声で喋らないと聞こえないのだろう。
生徒たちは立ち上がり、食堂を出ようと動き出す。食堂の中はパニック状態だ。
食堂がパニックの中でも私は椅子から立ち上がれない。
角の席だから座っていると色んな人に押されたり蹴られたりする。危ないのは分かっているが、椅子と身体がくっついたみたいになって動けない。

私の周辺でも人が増えて、少しでも前へ、スペースを確保しようと必死な生徒ばかりだ。
座っている私は当然邪魔で、せめてもう少し机の内側に行きたいと思ってるのに全然動けない。
たまたま誰かの足が私の座っている椅子に当たって、たまたま椅子の脚が浮いて、たまたま誰かが同じタイミングで私の肩を強く押した。

あ、倒れる。

ぐらりと視界が傾いて、すぐに片側に痛みが押し寄せる。このまま倒れててはいけない。蹴り飛ばされたり、踏み潰されてしまう。でも立ち上がるのも難しい。
誰かのつま先が私の身体に当たる。踏まれて髪が引っ張られた。
このまま眠ってしまいたいのに身体は痛くて、大丈夫かと声をかけてくれる人がいるから、私は意識を手放せない。
誰かが私を守ってくれているようで、「人が倒れている! 押すな!」とすぐ近くで聞こえた。
ガチャン、と私の食べていたリゾットがトレーごと落ちるのが見えた。そういえば、まだ半分しか食べてない。
リゾットは私の上に落ちてこなかった。食堂の床が冷たかったけど、やっぱり私は動けなかった。
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -