真綿に包まれても青痣は残るね
画面の上から下までの不在着信はかっちゃんからで、留守番電話サービスには大量の音声メッセージが吹き込まれていた。ラインを開けば、やっぱり大量のメッセージが来ていて、開いた瞬間に既読になっただろう。
すると『どうした?』と短文が送られた。
「ごめんね」「まだ学校」「心配かけてごめん」「待っててくれたの?」と、メッセージを送った。なるべく早く送るために全て最低限の短文。

更に新しくメッセージを打ち込んでいる最中に、電話が掛かってきた。
そういえば学校で携帯使っていいのか分からないな。
念のため鞄の中で操作していたから、通話は大丈夫か分からない。でも通話が一番早く伝えられるか、と思って受話器のマークをタッチした。

『今どこにいる?』
かっちゃんの声は焦っていてだけど、ゆっくりと喋ろうとしてくれているようだった。
「学校。教室で、」
『今から行く。動くなよ』
「もう帰ったんじゃ」
『俺が行くまで動くんじゃねぇ』
「いいって。大丈夫だから」

大丈夫じゃないけど、かっちゃんに来てもらって私はどうするの?
かっちゃんを石化させたくない。だから目を合わせたくない。来て欲しくない。
かっちゃんは慌てていて、走っているのだろう。足音が聞こえて、誰かがかっちゃんに走るな!と、怒った声がした。

『まだ教室か』
「うん。来るなら私と目を合わせないように気をつけて。ごめん」
『謝んな』
「うん。ありがとう」

ガラッと大きな音を立てて開いた教室の扉。通話先で同じ音扉を開ける音が聞こえたから多分かっちゃんが開けたんだ。
そうじゃなければ先生かも。でも、ちょうど電話が切れたから来たのはかっちゃんだ。

「大丈夫か」
「うん。心配かけてごめん」
「何があった?」
「お昼に警報が鳴った時に倒れて、今まで保健室にいたの。コンタクト外れちゃって、予備の眼鏡は壊れてて、予備のコンタクトもなくて、探してた。連絡出来なくてごめん」

かっちゃんの足元を見て話す。顔は見れないけど、心配してくれていたんだろうな。心配させてずっと待たせて申し訳ない。

「体調は平気なんか」
「うん。運んでくれたのかっちゃん? そうだったらありがとう」
「おう」

おや? かっちゃん素直だな。
暴言吐かないとか私のこと病人扱いしてるのかも。そんな扱いしなくていいのに。私は平気なのに。


「ただ帰るのが難しそうだなって。夜になればマスコミもいなくなって電車も空くかな。だから先帰ってても――」
「もうマスコミはいないだろうな」
「え?」
「警報が鳴ったのはマスコミが入ったせいだったんだ。知らねぇってことは今まで寝てたんだろ。起きてて大丈夫なのか」
「大丈夫だよ」

あ、とちった。今まで寝てたのがバレてしまった。心配されたくないのに。
警報の原因が災害じゃなくて良かった。だからリカバリーガールも口に出さなかったんだな。

「家に連絡して迎えに来てもらうか?」
「そこまで悪くないよ」

体調は悪くない。ただ、眼鏡が手に入れは一人でも帰れる。手に入らないのが問題なんだけど。

「かっちゃん、眼鏡とか持ってない?」
「あー、持ってない」
だよね。かっちゃんは目がいいし、普段から裸眼で生活してる。

「目にタオルでも巻いて帰るか?」
「いやそれは無理」
全く見えない状態で歩ける能力は持ってない。残念ながら第六感とか持ってないんだな。

「おぶってやる」
「えっ!? いやいや、家までとか距離あって悪いし。てか私重いよ? それに目隠でおんぶされてるのって側から見てヤバくない?」
「そうか?」
「うん……。手を引いてくれるだけでもかなり楽になると思う」

「誰かから眼鏡借りに行くか」
「いやでももう学校に人少ないし、私の知ってる人は殆ど帰っちゃったし……」
「学級委員は今日残るらしい。A組の委員長が眼鏡してて、多分そいつは予備持ってる」
「いいのかな。その人、私のこと知らないよ」
「ヒーロー科なんだから貸してくれんだろ」


かっちゃんが私の鞄を持って、私の手を握った。

「自分で持てるよ」
「お前が持ったら人に鞄ぶつかんだろ」

全くもってその通り。言い方が狡い。重くないとか、体調を気遣われたら断れるのに、断れない。

私は下を向いたまま歩き出した。かっちゃんの手は温かい。
私よりも皮が厚くて、骨ばっていて、頼り甲斐のある手だ。私の箸とペンしか持たない弱々しい手とは違って、かっちゃんが鍛えた証拠だ。
距離が近いからふんわりと甘い匂いがする。柔軟剤じゃなくて、かっちゃんのニトロっぽい香り。

「世話かけてごめん。何から何までありがとう」
「気にすんなよ」
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