お隣さまひとり
「は!? 爆豪彼女いんの!?!?」
校門付近で今日も待ち合わせをして、かっちゃんが来たからさぁ帰ろう、と少しだけ歩いたときだった。
後ろから大きな声をかけられた。かっちゃんは明らかに嫌そうな顔をして不機嫌な声を出した。

「うるせー! 大声で喋るな!」
「いやいやいや。だって、爆豪に彼女いんの!?!? コイツに!? あの性格で!? しかも彼女は美人でめちゃくちゃかわいいって何!?」
金髪の男子生徒はかっちゃんに詰め寄って質問攻めにする。
「私はただの幼馴染だよ。キミはかっちゃんのクラスメイト?」
「アッ、はい。そうです」

かっちゃんのクラスメイトさんは私が喋ると思っていなかったようだ。かっちゃんも否定すればいいのに。あと私は美人でもめちゃくちゃ可愛くもないと思う。

「てかクソを下水で煮込んだような性格で彼女いるわけねーか」

金髪のクラスメイトの言葉の選び方が遠慮ない。かっちゃんの態度でヒーロー科が務まるってことは、他のクラスメイトもそういう人がいるってことだ。この学校はヒーローに人間性を求めていないらしい。
もしかしたら、かっちゃんは嫌われているのかもしれない。まだ一学期が始まったばっかりなのに。

「かっちゃんは表面上は確かにちょっとアレだけど、かなり優しいよ」
「へー。やっぱ幼馴染だと違うんかな。あ、幼馴染なら名前聞いてもいい? 俺は上鳴電気。爆豪と同じヒーロー科!」
「私は目時陶子。普通科だよ。上鳴くん――」
「オイ、帰んぞ」
「えっ、あっ、うん。じゃあねー上鳴くん!」


かっちゃんに強引に手を引かれて歩き出す。早く帰りたかったのかな。それとも上鳴くんに嫌われてるとか、上鳴くんを嫌ってるとか。

「上鳴くんとかっちゃん帰る方向一緒なの?」
「知らねぇ」
「一緒だから話しかけられたんじゃないのかな。クラスメイトとか、男の子と一緒に帰りたかったら言ってね」
「俺はそんなこと思ってねぇから。気遣ってんじゃねぇよ」
「でも不便じゃない? 授業違うから終わる時間とか違うしさ」
「……陶子は不便に思ってるのか?」
「んー、別に」
「じゃあいいだろ」
「そうだね」

学校の周りには大量のマスコミが集まっている。登下校中の生徒や先生を狙って取材を申し込もうとしている。ここのところずっとそうだ。

オールマイトはいるだけでマスコミが集まる。オールマイトがテレビで放送されまくっているのだから、それだけマスコミもいると考えられるけれど、こんなに集まっているとは知らなかった。
多分、私ひとりでは揉みくちゃにされて動けなかっただろう。
かっちゃんが率先して道を切り開いてくれるから、私は歩ける。
守らなくていいから、と啖呵を切ってしまった割に、かっちゃんがいないと身動きが取れないとか恥ずかしい。
でもかっちゃんはそのことを口に出さない。からかうこともない。私を守るのが当然だという風に普通に接する。そういえば、小学生の頃は私も守られるのが当たり前だった。

かっちゃんから少しでも離れると容赦なく突きつけられるレコーダーやマイクが嫌になる。壊したら色々言われて大変そうだから、なるべく気をつけるけど、かなり大変だから壊しても許してほしい。

というか、制服で普通科って分かるんだから、私に取材しても大して成果得られないでしょうに。見た目がかっちゃんより私の方が大人しそうだからか、私の周りの方が取材陣が集まる。
取材陣が私たちを諦めて次のターゲットを見つけるまで、人混みから抜け出せなかった。
取材陣は日を追うごとに多くなっている気がする。生徒にも周辺住民にも迷惑だからいい加減にしてほしい。

家に帰ると父がいた。今日は夕食を一緒に食べる予定らしい。
父は家族が好きで、なるべく一緒にいようとしてくれているけど、いかんせん仕事が忙しくてあまり家にいない。
父は人の好みを知る個性と、財閥の一人息子の資金力を活かしてメディア王と呼ばれるまでになった。マスコミ業界を牛耳っていると言っても過言ではない。
私がお金に困ったことがないのは、父が稼いでいるからだと知っている。幼い頃から友達と遊ぶのに忙しかったから、寂しいと感じることは少なかった。

父なら学校に集まった取材陣の避け方知っているのかもしれない。

「ねぇ、パパ。学校の周りに沢山の取材陣がいて、通学の時に囲まれるんだけどどうしたらいい?」
「車通学……はダメだったんだよな」
「そうだよ。通勤ラッシュの電車に頑張って乗ってるからね」
「陶子は偉いなぁ〜。パパは通勤ラッシュが嫌で電車が嫌いになった」
「で、どうしたらいいの?」
「逃げろ。全力で無視していい。オールマイトが雄英高校に教師として赴任したのは大きな話題で、注目せざるを得ないニュースだ。取材陣の気持ちも分からなくないが、ひどいな」
「パパから見てもそう思う?」
「当然だ! しかも未成年だぞ! それに取材時の注意事項や禁則も守ってない。現場に届くか分からないが、出来る限り言える範囲には伝えておこう」
「ありがとね」
私がヒーローだったら、逃げるって選択肢以外もあるのかな。でもプロヒーローだったらマスコミに喧嘩売らないか。
ヒーローになれない人は大人しくヒーローの邪魔にならないように、自身の身を守るために逃げる。逃げるのが上手くなりたいな。
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