心臓はあまりに凍えていた
放課後もかっちゃんと一緒に帰ることになってる。かっちゃんが強引に取り付けた約束だ。
A組はまだ終わっていないようで、校門で待っていると名前を呼ばれた。

「陶子さん! 久しぶり!」

久しぶりってことは、知り合いってことだ。声をかけてきたのは男の子だから小学校の同級生の可能性が高い。
ヒーロー科の制服を着ているから、彼もヒーロー科の筈だ。

「あ! 緑谷くん!?」

そばかすのある笑顔は変わってない。確か、小学校の時は無個性仲間で、個性訓練の間は一緒にいた。めっちゃヒーローについて話す男の子。定期的に連絡を取っていたかっちゃんと違って、卒業してから会わなかったから思い出すのに時間がかかってしまった。
緑谷くん私のこと覚えてるんだな。すごいな。

「覚えててくれたんだ!」
「うん。すごいね、緑谷くん! その制服はヒーロー科でしょ!? 個性どうなったの!?」
「じ、実はあれから発現して……」
「へぇー! 確かヒーロー好きだったよね! おめでとう!」
「えへへ。ありがとう」
「陶子さんは普通科?」
「そうだよー。ヒーロー科、頑張ってね」
「う、うん。ありがとう」
「陶子さんは何でここに立ってるの?」
「一緒に帰る約束してるんだー。緑谷くんも気をつけて帰ってね」
「うん。――じゃあ、さよなら」

緑谷くんが個性発現したってことは、無個性仲間がいなくなってしまった。ヒーロー目指してるのに無個性は辛いんだろうから、いいんだけど。無個性扱いされるの私以外にいないかな。いないんだろうな。

私は騙しているような申し訳なさを感じるけど、それ以外に辛さはないし。
緑谷くんが行ってしばらくするとかっちゃんが来た。

「待たせて悪りぃ」
「全然待ってないよ。帰ろっか」

今日の体力測定のことを話すとヒーロー科もそうだと教えてくれた。かっちゃんは運動神経いいし、多分平均値全部超えてるんだろうな、と思う。
とんでもない記録にすごいしか言えなくなっていると「当たり前だろ」と目を逸らされた。昔からかっちゃんにとっての当たり前は私にとって「すごい」なんだよなぁ。

「そういえばさ、小学校の同級生ってどれ位覚えてる?」
「全然覚えてねーよ」
「私も全然覚えてなくてさ。今日緑谷くんに会ったんだけど、思い出すのに時間かかっちゃってさ。緑谷くんヒーロー科らしいけどかっちゃんと同じクラス?」
「はぁ? デクが何だよ?」

うわぁ、顔がめっちゃ怖くなった。表情筋酷使してんなぁ、ここまで使う人ってあんまりいないよなぁ、と見当外れなことを考えてしまう。

「もしや中学も一緒だったの?」

返事はせずにふい、とそっぽを向いた。
違ったら否定するだろう。つまりは、肯定してるってことだ。
あーなるほど。だから入試結果教えてくれなかったんだ。地元中学から一人だけ雄英行ってやるって意気込んでたからなぁ。私も私ですごいなぁ、出来たら自慢のエピソードじゃんとか言っちゃったし。
かっちゃんは黙ってしまったし、何か話すべきかな。でも私は緑谷くんについて詳しくないから昔の話はしない方がいいのかも。単に私が忘れているか知らないだけで、かっちゃんにとって何かあったのかもしれないし。

そういえば緑谷くんほど印象に残ってないけど、かっちゃんもヒーロー好きじゃなかったっけ? 小さい頃、お菓子についてくるカードを集めていた記憶がある。確か、ランダムのオマケに一喜一憂してた。記憶に自信ないけど。

「そういえば、オールマイトが雄英に来てるんだよね」
「そうだな」

オールマイトが雄英の教師の一員に加わる、とメディアと学校を騒がせていた。ずっと一位を独走しているから、この先も永遠にヒーローでいる感覚になる。でも、オールマイトの活動期間を考えれば彼は若くない。次世代のために活躍するなんて、彼は引退を視野に入れてるのかなぁ、と思ってしまう。現在も第一線で活躍するヒーローは私の考えが及ばないところにいるのかも。

「かっちゃんは見た?」
「見てねぇ。姿が見えれば絶対話題になるしまだ来てねぇんじゃねーの」
「ヒーロー科の方が早く会えそうだよね」
「だろうな。もしかしたらヒーロー科しか授業しないかもしれないな。忙しそうだし」
「だよねー。個人的には普通科に教えるくらいなら休んでほしいな。他の先生もだけどさ、ヒーロー活動も忙しいのに教師も兼任するってすごいよねぇ。絶対忙しいのに、ヒーローとして体調管理とかもしなきゃいけないんだよ? 睡眠不足でもぶっ倒れたり出来ないし」
「オールマイトは負けないだろ。教師になった程度で弱体化しててナンバーワンにいられるかよ」

「――かっちゃんってさ、オールマイト好きだよね」
「んなもん誰だって好きだろうが」

そうなのかな。私だって好きだけど、信頼とか、尊敬とかはかっちゃんに負けると思う。
好きになったり、過度な信頼を寄せてはいけないのではないかと考えてしまう。
世間はかっちゃんのようにオールマイトが大好きで、尊敬している。

一人で象徴を背負って、唯一無二の存在として頼られる。ある意味では崇拝。
生身の人間を信仰の対象するのは危険だな、と何となく思う。信仰される側に危機が起きたら、信仰している側は心の拠り所がなくなる。
オールマイト以前のヒーロー社会では雑に言うと代替が利くヒーローだった。オールマイトは社会を安心させたけど、今まで誰もオールマイトを超えていない。彼は替えが利かないヒーローだ。
オールマイトに何かあったら、今の制度じゃ立ち行かなくなるんじゃないかな、って不安になる。
でも私はヒーローになれないし、ヒーロー科にも入れないし、未成年だから、何もできないってのは単なる言い訳だけど。

「かっちゃん、いいヒーローになってね。かっちゃんなら、なれると信じてるよ」
「急に何だよ。俺はとっくにヒーローになるつもりだよ」

何もできないくせに、救ってもらう側の人間のくせに、こうやって無責任に応援するなんて私はズルい。
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