キミが僕をヒーローにした
目時陶子は幼馴染だ。小学校入学前に、当時は現役のプロヒーローである陶子の母が参加するボランティアに陶子がいた。
母に頼み込んで自分も参加した。当然デクも来ていた。
陶子は近所に住んでいて、同じ音楽教室に通っていると知った。時間が違っていて会うことはなかったけど、発表会では互いの姿を見た。
陶子も俺も優秀者に選ばれて、選抜メンバーで演奏すると決まってから次の発表会まで同じレッスンを受けた。

それから、いつからか分からないけど一緒に遊ぶようになった。
晴れた日は外で、雨の日は陶子の家で遊んだ。陶子はお嬢様で、家は広くて駆け回ることを許してもらえた。

当時は知らなかったけど、両親は個性を生かして高額納税者ランキングにランクインするほど稼いでいた。

当然陶子も自分を活かせる個性が発現すると誰もが思っていた。
しかし、大抵の子どもに個性が発現していても陶子の個性が発現することはなかった。

足の小指の関節が二つあると個性の発現は絶望的だそうだ。でも、陶子は「自分の個性は足の小指の関節が二つあること」と言って堂々としていた。

小さな爆発を見せれば、すごい、と褒めて笑ってくれた。
個性がなくても手先が器用で、唯一自分と同じように大抵のことが出来た。陶子は運動神経だけは悪くて、走るのは遅かったけどどうでもよかった。
出来なくても早く走るコツを聞いてきたり、努力したりするのは陶子だけだった。

自分が転んだ時、大抵陶子も転んでる。自分も痛そうな怪我をしてるのに、痛くない?と聞いてくる。痛いって言うのもムカつくから、痛くないって嘘をついた。怪我をした陶子の手を引いて、一緒に帰った。

「かっちゃんは私のヒーローだね」

それを言われて嬉しくない筈がない。初めてヒーローになった瞬間だった。
小学校に上がり、足の小指の関節が二つあること、が個性として通用しなくなり、陶子が無個性と虐められれば、そいつらをとっちめた。

陶子には爆豪がいてヤバイ、とイジメがなくなった頃、陶子に個性が発現した。

個性が発現するのは喜ばしいことだ。陶子の個性の発現に喜びたかったけど、陶子は自分の個性を嫌っていた。
目を見た相手の未来を知り、人を傷つける。初めて発現した時、執事を石化させてしまったらしい。詳しくは教えてもらえなかったけど、家に行った時執事は機械義手をつけていた。

陶子は個性が発現してから眼鏡をかけるようになった。視力は悪くなかった。裸眼で相手の瞳を見ると、個性が発動してしまうらしい。
かっちゃんだけだよ、と秘密を教えてもらえたのは嬉しかった。
周囲には無個性のままと通していたようだし、優越感で気分が良かった。

小学校高学年になると、異性と一緒にいたら噂のターゲットになった。爆豪も陶子もターゲットになった。
しかし、周囲は陶子が爆豪を好きなんてあり得ない、と決めつけていた。だから爆豪が聞かれた。陶子ちゃんのこと好きなの?、と。
好きに決まってんだろ、と心の中で返答したけど、口には出さない。言ったら「いつ告白するの?」とか、色々言われて面倒なことになるのは目に見えている。
「俺が守ってやってるんだ」
ふうん、と興味をなくした同級生たちはターゲットを変えた。

それから少しずつだけど陶子と一緒にいることはなくなっていった。
卒業式の日、陶子は有名な女子校の制服を着ていた。陶子の母の母校だ。頭は良かったし、金持ちだし、無個性で通すには設備の整った私立中学に行く方がいい。それは分かっていたけど、別の中学に行くとは考えていなかった。

「かっちゃんがいなくても大丈夫になるから」って泣きながら笑っていた。携帯の連絡先を無理矢理手に入れて、定期的に連絡した。一応返事は返ってきたけど、陶子から連絡が来ることは滅多になかった。

絶対に縁を切ってたまるものか、とちょっとした執念があった。
親同士はちょくちょく会っていたようで、自分が会えないのに何で会ってるんだ、と癪だった。今度会おう、と連絡すればきっといいよ、と返事をしてくれる。それでも会えなかったのは、陶子に彼氏がいるかもしれないから。

一度だけそれとなく聞いてみたところ、「女子校だよ? 出会いすらないって」と笑っていた。クラスでも彼氏持ちは激レアだ、女子校ナメないでって少し怒っていた。自分はホッとしていた。
それから聞いたことはない。
彼氏がいるのは嫌だ。自分の方が先に好きなったし、いるとしても知りたくなかった。

母親に、「陶子ちゃんのこと好きなの? 恋?」とからかわれた事がある。「うるせえ!」って叫んで喧嘩になったけど、否定しなかったのが答えになっていたのだろう。それから陶子に関して言われることはなかった。

一言でも違うと言えば、陶子の親から陶子に伝わるかもしれない。もしも、もしもだけど陶子が自分のことを好いていたら勝手に失恋されてしまうかもしれない。芽を摘むのは嫌だった。

高校の入学式の日陶子を見つけた。陶子は中高一貫に行ったから、雄英にいるはずがないのに普通科の制服を着てそこにいた。眼鏡からコンタクトに変えていたけど、自分が陶子を間違えるはずがない。

クラスを確認して、待ち伏せした。A組より終わるのが遅くて良かったと思った。
久しぶりに会ったら、色々込み上げるものがあって、腕に触れるだけで心臓が踊った。だけど陶子はそんなことないみたいだ。

もう俺を頼ってこない。頼ろうともしない。信頼されていないのかもしれない。

俺より低い身長に、細い腕。靴のサイズだって小さくて、歩くのも遅い。たいして鍛えてないのか、入院していたせいか分からないけど、華奢というより弱々しい。階段ではたまに躓いてバランスを崩すし、満員電車で疲れる程度しか体力がないのも驚く。

陶子がこんなになっているなんて知らなかった。知らなかった自分にも腹が立ったし、この状態で守らなくていい、と虚勢を張る陶子にも腹が立った。その状態で放置したらこっちは悪者になるくらい弱いのに何を言っているんだ。

無理矢理、一緒に行く約束をして駅で別れた。幼い頃のように手を繋ぐ必要がないのは分かっている。だけどそれを思い出して少し寂しくなった。
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