やっぱりビビっちゃった
二週間などあっという間に過ぎるもので、保護者向けのパンフレットが渡され、服装規定やら生徒向けプログラムやらを渡され、今は大きなスタジアムの控え室にいる。
あと数十分で体育祭が始まる。

かつてのオリンピックと同等の人気を誇るそれは、大量のスポンサーがつき、メディアは場所を争い、観客が大勢押し寄せる。

母は解説に呼ばれているとかで、体育祭に来る。
「よく見える席から見てるから!」と激励を受けた。期待させるような動きは出来ないけど、母は分かっているだろうし、過去も運動が出来なくて何か言われたことはない。

父はメディア関係者として体育祭に来る。朝は誰よりも早く家を出て行った。どの局よりも一番いい中継で一番人気なのだと、父は言っていた。
家を出るときに言った「陶子の撮影は個人的にカメラマンに依頼した」という台詞はジョークであってほしい。

両親はいわゆる親バカで、学校行事というものは親バカが露呈する機会である。私はいつからか恥ずかしいと感じるようになった。
大規模な体育祭で、親バカが露呈したら今までとは比べ物にならないレベルで恥ずかしい。

控え室にいる今も「頑張れ!」というスタンプがポコポコ音を鳴らした。
これから開会式だから、と連絡して携帯の通知をオフにした。

娘が高校生にもなって親バカな行動はしないだろう、と祈って。


スタジアムに入場すると、観客の多さ、そして大きなスクリーンが目についた。ぐるっと取り囲む広告はスポンサーのものだろう。
体育祭にスポンサーをつけても競技自体にかけるお金などたかが知れている。何にお金を使うのだろう。

キョロキョロしていると、「前向きなよ」と、後ろから注意された。
頷いて、前を向いている限りではキョロキョロしている生徒などいなかった。みんな精神がつよい。私は好奇心に負けた。

開会式はパンフレットに記載された通りに進行した。選手宣誓の代表として選ばれたのはかっちゃんだった。

「あいつがヒーロー科の入試一位か」

入場の時から話し声が途絶えることはなかった。きっとマイクに拾われないし、スピーカーが大きな音を発し、観客は普通に喋っているせいだろう。
かっちゃんが前に進むときは、みんなかっちゃんのことを話していた。

かっちゃんはポケットに手を突っ込んだまま歩き、「宣誓」と言ったときもそれは変わらなかった。

「俺が一位になる」

かっちゃんは体育祭の宣誓ではまず聞かないような宣誓をぶちかました。

途端にざわめきは大きくなる。当然私にも話しかけられる。

「アレ陶子の幼馴染だよね?」

アレと呼ばれるかっちゃん。その気持ちも分からんでもないよ。

「そのはず……だね……」

これはちょっと、ちょっとだけだけど他人のフリしたくなる。
ビビんなよってこういうこと? ビビりまくってますけど。

「あんなこと言う奴なの?」
「まぁ、可能性はある……。多分だけど自分を追い詰めるためだと思うよ……。選手宣誓で言うことじゃないけど」

選手宣誓って私たちは〜ってアレじゃないの? 初めて聞いたわって周囲の声に私だって初めて聞いたわ! って言いたくなった。

かっちゃんの選手宣誓に続いてB組以下の代表も呼び出された。メディア意識か、選手宣誓が代表の言葉ではないとか色々あるのだろう。

「C組代表 目時陶子」
「――ハイ」

冷静を装って、それでいてハッキリと返事をした。頑張った。心の中は混乱でいっぱいだ。
えっ!? 私!? 私選ぶの!? っていう。
そこは学級委員を選んでおけよ。体育はクラス最下位なんですけど。

「普通科の入試トップは陶子ちゃんだったんだ」
「まぁ……うん」

自慢することでもないし、言ってない。
ミッドナイト先生の元へ向かいながら、クラスの人のざわめきが私のことを言っていた。
「勉強だけは出来るんだな」って。
まあそれはそうなんですけど、自分で言うのと他人が言うのは違う。形式上は無個性で体育も出来ないけどちょっと傷ついた。

その後も一年のクラスの代表に選ばれた人は順番に返事をしていく。だんだん返事に混乱が混じらなくなっていく様は少し面白いかも。

代表が一人ずつ揃ったところで、ミッドナイトは私にマイクを向けた。

私? 私が宣誓するの? みんなで……というのは小学生じゃないしナシ。
B組でもいいと思うんだけど、多分ヒーロー科じゃない生徒に言わせたいのだろう。

「宣誓。私たちはスポーツマンシップに則り、正々堂々と戦うことを誓います。C組代表目時陶子」

私に続いてB組以下の代表者が名前のを連ねていく。

代表だし、これでよかったんだよね? 不安になってミッドナイトの顔を見たら、ウインクされた。間違ってはいないようだ。
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