「なんで警察の人が学校に?」
「なにか事件?」
「えっ! 生徒が一人行方不明!?」
「女子高生連続殺害事件に巻き込まれてる可能性があるって!?」

先ほど模倣犯を逮捕した現場から、私達捜査一課第七班は銀兄の勤める学校へと直行した。署へ戻るより学校の方が距離が近かったこと、そして学校の方がそよちゃんに関する急な連絡が入りやすいと考えたからだ。
空き教室を借りて、急拵えの捜査本部を設置する。銀兄が根回ししてくれたおかげで許可は簡単に降りた。何人か残業をしていた先生たちがいたようで、何の騒ぎかと廊下に人が集まり出す。見知った顔も何人もいる。その中の二人に手招きされたので、私は土方さんに一言断って席を立った。

「何やら大変な事態になってるみたいね。大丈夫?」
「ごめんね、さっちゃん。なんだか騒がせちゃって」
「なに水くさいこと言ってんのよ。生徒が一人行方知れずなんでしょ? 私達も全力でサポートするわ」
「それよりも名前、お主先に着替えたらどうじゃ。その格好では動きにいじゃろう。わっちの予備のスーツでよければ貸すぞ」
「ツッキー······二人ともありがとう、助かる」

協力的なさっちゃんとツッキーに、思わず安心する。なんだかんだ言って、この学校の先生達は皆生徒思いの良い教師ばかりだ。
保健室を借りて、ツッキーが貸してくれたスーツに袖を通す。少しサイズが大きいので、余った袖は折って調節した。
下ろしていた髪をアップにまとめると、それなりに身が引き締まる。

「やっぱその格好のほうが落ち着くな」
「当たり前ですよ」

本部に戻ると、土方さんがからかうような視線を向けてくる。呆れて肩を竦めながら、私は教室の窓を開けた。煙草の煙で白く濁っていた空気が、風に流されてクリアになっていく。苛立っている時、煙草の本数が増えるのは土方さんの悪いクセだ。

「来てるぜ。女子供はお前の担当だろ」

土方さんが教室の奥をクイッと顎で示す。私は小さく頷いた。
白衣を着てだらしなく椅子に腰掛ける銀兄の前に、セーラー服を着た女の子がひとり。神楽ちゃんは、プリーツスカートを太股の上で強く握りしめながら、俯き加減で座っていた。
神楽ちゃん、と優しく呼びかける。ハッと顔を上げた神楽ちゃんの瞳は、不安げに揺れていた。

「名前······」
「ごめんね、遅い時間にわざわざ来てもらっちゃって」
「そんなことどうでもいいアル! そよちゃんは? そよちゃんは今どこにいるアルか!?」

膝を折って、神楽ちゃんと目線を合わせる。落ち着かせるように神楽ちゃんの背中に手を当てると、ひんやりと冷たかった。

「そよちゃんを探す為に、神楽ちゃんに来てもらったの。今日の放課後は、二人で遊んでたんだよね?」

動揺を悟らせてはいけない。焦ってもいけない。冷静に、落ち着いて。それが話を正確に聞き出すコツだ。
神楽ちゃんの顔は不安気なままだったが、コクンと素直に頷いた。

「今日は二人でいつものように駅ビルの中をウロウロしてたアル」
「どの店にどういう順番で行ったのか思い出せる?」
「えっと······そよちゃんが参考書が欲しいって行ったから、まず本屋に行って、次に服を見て、それからアイスを買って、二人でフードコートでずっと喋ってたアル」
「その間、誰かにつけられてるような気はしなかった? もしくは、不審な人物を見かけたとか」

神楽ちゃんは首を横に振る。私は努めて冷静に「そう」と頷いた。

「その後は? 二人でどこかに行ったりしたの?」
「ウウン、ワタシ今日はパピーに早く帰って来いって言われてたから、駅でそよちゃんとお別れしたネ。そよちゃん、まだ買い物したいからって、一人でビルに戻っていったアル」
「ひとつ聞きたいんだけど、今日そよちゃんのボディーガードの人は? 一緒じゃなかったの?」

神楽ちゃんが気まずそうに押し黙る。

「二人で巻いたわけね······」

思わずため息混じりの言葉が出た。

「よりにもよって、次の行方不明者が現総理大臣の妹君サマとはねェ。万が一のことがあったら俺たちのクビが容赦なく飛びそうだ」
「総悟くん!」

相変わらずの憎まれ口を叩く総悟くんを窘める。けれども犬猿の仲のはずの神楽ちゃんに積極的に絡みにいかないあたり、総悟くんもそよちゃんの身を案じているのだろう。

「防犯カメラの解析は?」
「今山崎に急ピッチでやらせてる。でも路地に入った所を車で連れ去られでもしてたら、どうしようも無いぜ」
「ケータイのGPSは?」
「電源が切られちまってるから反応ナシ」
「打つ手無し、か」

神楽ちゃんと別れた後、完全に消息を絶ってしまったそよちゃん。現在手がかりもなく、私達第七班にも不安が募るばかりだ。

「せめて目撃情報でもあるといいんだけど――」
「······名前、俺たち教師で駅のほう見回ってくるわ。なんか進展あったら連絡してくれ」
「うん――ありがと、銀兄」

居てもたってもいられなくなったのだろうか。銀兄は席を立つと、廊下で心配そうにしていた先生達に話をしにいく。私達警察の方でも手分けして捜査しているが、人が多いことに越したことはない。誰もがそよちゃんの身を案じ、無事にいてくれることだけを願っている。

「この騒ぎはなんだ?」

廊下から聞き慣れた声が聞こえ、私は思わず視線を向ける。ジャージ姿の小太兄が、不思議そうな表情で、銀兄達と私達警察を交互に見ていた。銀兄が呆れ顔で小太兄を振り返る。

「ヅラ、お前今までとこ行ってやがった。何度もケータイ鳴らしただろうが」
「すまん、ちょうど今、恒例の見回り活動から帰ってきたところなんだ。えらく雰囲気が重いな。何かあったのか?」
「生徒がひとりいなくなったんだよ。例の事件に巻き込まれてる可能性がある」
「なんと!?」

小太兄は目を丸くして、驚いた顔をした。

「それは一大事ではないか!」
「だからケータイ何回も鳴らしたって言ってんだろ、バカ」
「現代機器は苦手なものでな。こうしちゃおれん、早く手分けして探しに行かねば」
「今からそうする所だったんだよ! ったくお前と話してると疲れるわ······」

あくまで真剣な小太兄に、銀兄が肩を落とす。小太兄は真面目な顔のまま、銀兄に向き直る。

「それで、行方不明になっている生徒は一体誰なんだ」
「俺のクラスの徳川だよ。徳川そよ」
「ああ、徳川君か。彼女なら先ほど繁華街で会ったぞ」
「だから今から皆で探しにいくんだって············え? ヅラ、お前今なんて言った?」

銀兄も、私も、警察側も、先生達も、みんなぽかんと口を開ける。

「徳川そよ君であろう? 先ほど繁華街の方を歩いていたのでな、声をかけたんだ。確か歌舞伎町の」
「ヅラァァァァァ!!! それ間違いないアルナァァァァァ!!!」
「げふっ!」

教室から飛び出した神楽ちゃんが、小太兄へと襲いかかる。神楽ちゃんは我を忘れたように、小太兄に馬乗りになって胸ぐらを掴みガンガンと揺さぶる。
ちょ、小太兄ガンガン廊下に頭ぶつけちゃってるけど。馬鹿がこれ以上加速するとマズいから勘弁してあげて!

「神楽、落ち着け! 仮にもコイツ先生! 教師だから!」
「デタラメこいてたらタダじゃおかねェからなァァァァ!!!」
「で、デタラメではない! 本当のことだ!」

銀兄が神楽ちゃんを羽交い締めにして、どうにか小太兄から引き剥がす。私は頭から血をダラダラと流す小太兄を支え、身体を起こすのを手伝った。

「ちょ、ちょっと小太兄。その話詳しく聞かせて!」
「えーっと、コホン、まずはなぜ俺が見回り活動を始めたかというと」
「そういう前置きはいらないから!」

悪いけど今は、小太兄の教育論に耳を傾けている暇はない。小太兄は少し不服そうだったけど、素直に話をしてくれた。

「だから、先ほど言った通りだ。歌舞伎町の繁華街で徳川君を見かけたので、少し話をした。それだけだぞ」
「それだけって、ヅラお前こんな時間にひとりで歌舞伎町をウロついてる生徒を、そのまま置いてきたのかよ!」
「置いてきたとは人聞きが悪いな。もし徳川君がひとりであったのなら、俺だってきちんと家まで送り届けたさ」
「つまり――」
「お兄さんらしき男性と一緒だったぞ。今から親戚に会いに行くと言っていた」
「······ッ、小太兄! それ本当に、そよちゃんのお兄さんだったの!?」
「彼女がそう言っていたんだ。そうだろう」
「そうじゃなくて! そよちゃんのお兄さんの顔くらい分かるでしょ!?」
「あのな名前、俺がいくら優秀で生徒からの人望も厚いスーパー教師だからと言って、生徒全ての保護者の顔を覚えているわけじゃ······」
「ニュースくらいは見るでしょ!? それか教師なんだったら新聞くらい読みなさいよ!」

携帯電話の検索サーチを使って、名前を打ち込む。お目当ての人物はすぐ出てきた。

「これ! そよちゃんと一緒にいた男って本当にこの人だった!?」

そよちゃんのお兄さんは、日本の現総理大臣である。この国に住んでいて、その顔を知らない人は少ないだろう。

「······違ったかもしれない」

小太兄みたいな馬鹿は除いて。

「土方さん!」
「ああ! すぐに歌舞伎町へ向かうぞ! パトカー回せ!!!」

一緒にいた男を"兄"と呼んだのは、おそらくそよちゃんなりのSOSだ。この男が自分の兄ではないと気づいて欲しくて、そよちゃんは小太兄にそう言ったに違いない。
事態は一刻を争う。私達は現場へと急行した。



「こっちです! このビルに入っていくのを、向かいのカフェに設置されていた防犯カメラが映していました!」
「よし! 全員突入だ!」

歌舞伎町に着くと、すでに山崎が現場で待機していた。犯人が歌舞伎町にいる情報を聞いて、すぐに防犯カメラの解析を、駅ビルから歌舞伎町へと変えたらしい。普段は冴えないけど、地味に仕事のできる奴だ。
犯人らしき男と、そよちゃんが入っていったとされるビルへと私達は突入する。今は使われていない廃ビルだ。エレベーターも動いていない為、私達は階段を駆け上がる。おそらく二人がいるのは――、

「警察だ! 動くな!」

予想通り、犯人とそよちゃんがいたのは屋上だった。犯人が犯行場所を選ぶ時、もちろん人気の無い場所を選ぶ。地上から一番遠く、叫び声も気づかれにくい屋上は、犯行を行いやすい場所なのだ。
手首を足首を縛られ、口にも布を噛まされたそよちゃんの前に、中肉中背の男がひとり。手には注射器。今度は毒殺のつもりか。そう思った瞬間、足が動く。

「名前!」

土方さんの焦ったような声が後ろから飛んでくる。私は振り返らず、まっすぐに犯人の元へと走る。犯人は一瞬驚いたようにぎょっと目を剥く。しかし悔しそうに顔をしかめると、ヤケクソ気味にそよちゃんへと注射器を振りかざした。

「させるかァ!」

足に力を込めて地を蹴る。注射器の針がそよちゃんへと突き刺さる直前、私はそよちゃんを庇うように抱きしめる。
次いで、銃声。

「ううッ!」

犯人は呻きながら、ポロリと注射器を落とす。ボタリと、赤黒い血がアスファルトに染みを作った。

「確保ォ!!!」

土方さんの怒声に合わせて、屈強な男達が犯人の男へと飛びかかる。私は急いで、そよちゃんの口に詰め込まれていた布を取り去った。

「そよちゃん大丈夫!? 怪我は!?」
「あ、あ、わ、私······」

相当怖かったのだろう。目からポロポロ涙をこぼし、ガクガクと身体を震わせるそよちゃんを、力いっぱい抱きしめる。

「もう大丈夫。大丈夫だからね」

わっと、堰を切ったようにそよちゃんが泣き出す。私はそっと、彼女の綺麗な黒髪を優しく撫でた。

「おい! 怪我はねェか!」

土方さんが焦ったような表情で駆け寄ってくる。私はそよちゃんを抱きしめたまま、小さく頷いた。

「特に目立った怪我は無いみたいです。でも念のために病院に」
「被害者もそうだけど――お前もだ、名前。いきなり犯人に突っ込むなんて無茶しやがって」

土方さんの眉が心配そうに寄る。私は小さく肩を竦めて、おどけたように答えてみせる。

「誰かさんに厳しく仕込まれましたから」
「······俺のせいだってのかよ」

苦々しそうに呟く土方さんが面白くて、思わず笑ってしまう。イテッ。調子に乗るなと、頭を小突かれてしまった。

「勝算がなかったら私だってあんな事しませんよ。今日は名狙撃手さんがいたもんで。ねえ――総悟くん」

土方さんの後ろから、総悟くんがかったるそうに歩いてくる。手に持った拳銃を指に引っかけクルリと回転させた後、総悟くんは銃を腰のホルスターへとしまった。
採用試験トップの成績で、いきなり刑事部捜査一課へ配属されたエリート様――総悟くんは武道においては警察庁一二を争う程レベルが高い。剣道は一流、銃の腕もピカイチ。

「怪我しても責任とって嫁になんてしてやんねェからな」

照れたように、総悟くんは自分の後ろ頭をガシガシと掻く。全く素直じゃないんだから。私と土方さんは顔を見合わせると、クスリと微笑んだ。

「おーい! 皆怪我はないかー!」

土方さんと総悟くんの背後から、大きく手を振りながら近藤さんが駆け寄ってくる。全速力で走ってきたのだろう。近藤さんはシャツの色が変わるくらい、汗をビッショリかいていた。

「近藤さん!」
「遅くなって悪い! 無事犯人確保出来たみたいだな」
「近藤さんもありがとうございます。歌舞伎町への防犯カメラのハッキングに、許可のないビルへの突入――上に掛け合うの相当大変だったんじゃないんですか?」

現場に突入するには、何事にも許可がいる。私達がスムーズに犯人を確保できたのは、方々を駆け回り、あちこちに頭を下げてくれた近藤さんの活躍があったからだ。
近藤さんはガハハと豪快な笑い声を上げた。

「なあに、心配することはねェよ。新たな被害者が出る前に、犯人を確保出来た。それが一番だ」

人の上に立つ人は、きっと私達とは段違いの責任を負っている。けれどもそれをまるっと全部受け止めてしまうほど、近藤さんの器は大きい。
この人の下で働けて良かったと、心の底から思う。

「そよちゃん!」
「神楽ちゃん!」

屋上の扉が勢いよく開かれると同時に、神楽ちゃんが飛び込んでくる。縛られていた手と足の縄を切ってあげると、そよちゃんも神楽ちゃんへと駆け寄る。二人はしっかりと互いを抱きしめ合った。

「大丈夫アルカ!? どこも怪我してないアルカ!?」
「うん、うん、大丈夫だよ······! 心配かけてごめんね、神楽ちゃん······!」

涙を流しながら抱擁する二人を見て、思わずホッと身体の力が抜ける。後少しでも遅ければ、二人は二度と言葉を交わすことは出来なかった。本当に良かったと、今更ながら思わずにはいられない。

「お手柄だったな、名前」
「! 銀兄!」

いつの間にか、銀兄が隣に立っていた。銀兄の視線は、抱き合う神楽ちゃんとそよちゃんに向いている。いつも通り覇気のない顔をしているが、二人を見つめる瞳は、いつもよりどこか柔らかさを感じさせる。
あ、この人ちゃんと先生やってるんだ。当たり前のことだけど、ふと、そう感じてしまった。

「ありがとな、生徒を守ってくれて」
「まあ――これが仕事だからね」

銀兄に褒められると、少しこそばゆい気分になる。照れくさくて思わずそっけなく答えると、銀兄はフッと小さく笑った。

「なに?」
「いや――お前ちゃんと警察官やってんだなーって思って」
「なにそれ、どういう意味よ」
「別に? なんとなくそう思っただけ。ほら、アイツら何か言いたそうだぞ」
「え?」

銀兄が指さす方へと顔を向けると、神楽ちゃんとそよちゃんが揃って私達の方を見ていた。

「名前さん、助けていただいてありがとうございました」
「名前のおかげで、そよちゃんが無事だったアル。ありがとナ、名前」
「二人とも······」

改めてお礼を言われると照れてしまう。照れくささを誤魔化すように、私は小さく頬を掻いた。

「お礼なんていいのよ。警察官は市民を守るのが仕事なんだから」
「市民を守ることが仕事――それ、めちゃくちゃかっけーアルナ」
「え?」
「ワタシも、名前みたいに強くなって、自分の大切な人を守れるようになりたいアル」

神楽ちゃんの言葉がトリガーとなり、電撃が走ったように私の頭の中でフラッシュバックが起こる。
それは、遠い遠い記憶。まだ私が、うんと小さかった子供の頃の思い出。

『名前はなんで、おまわりさんになりたいんですか?』

今は亡き先生の優しい声が、頭の中で響く。ああ、そうだ。将来の夢を聞かれ、「おまわりさん」と答えた私に、先生に意外そうに尋ねたのだ。
そして私は、こう答えた。

『わたし、せんせいとかぎんにいとか、たいせつなひとたちを、わるいひとからまもれるような、つよいひとになりたいの!』

忙しい日々に忙殺されて、すっかり忘れていた夢の蕾。生きることに必死すぎて見失ってしまっていたけれど、ああ、なんだ、私――今、ちゃんと咲かせてるじゃん。

「ねえ、銀兄」

隣に立つ銀兄に呼びかける。銀兄はいつも通りの覇気のない瞳を私に向ける。

「私って、案外今幸せなのかも」
「は?」

きょとんとした銀兄に、意味深に微笑んでみせる。私、知ってるんだ。銀兄が、"先生"に憧れて、今教師やってるってこと。幼い頃に想像していた未来の自分とは少し違うかもしれないけれど、私達もそれなりに大人になれているのかな。
空を見上げると星空が広がっている。天国にいる先生も、少しは安心してくれていたらいいな。なんてね。


***


「あのさあ、総悟くん」
「なんでィ。あ、ちょっとそこ、もっと席詰めてくんなせェ。これじゃあ全員入んねェ」
「確かにね、私言ったわよ。合コンを開いて欲しいって。でもさすがにコレ、バランス悪すぎでしょ!」

世間を騒がせていた事件が無事解決して数週間後。ガヤガヤと騒がしい大衆居酒屋の一角に、私はいた。
私だけじゃない。総悟くんや土方さん、近藤さん、山崎といったお馴染みの第七班メンバーに加えて、銀兄、小太兄、辰兄と見知った面々がズラリと並ぶ。私はまさに、むさ苦しい男共の中の、紅一点(自分で言うのはちょっとアレだけど)だ。
男数十人に対し、女は私ひとり。これって、あの、なんていうか、

「合コンって言わなくない?」
「まさに入れ食い状態ってやつでさァ。うらやましいねえ」
「思ってないでしょ。うらやましいとか全然思ってないでしょ!」

手酌でガンガンビールを飲む総悟くんは、完全に自分が飲むことしか考えていない。なんでもいいから適当に男集めただけだろお前! 馬鹿だ、私。頼む相手を間違えた。今更ながら後悔するが、全ては後の祭り。
そうです、わたくし名字名前、色々あって警察官を辞めることは思いとどまったけれども、未だ結婚という夢は諦めておりません。お願いだから早く迎えにきてくれませんかね、私の王子様! プリーズ!

「合コンだァ? ンな話聞いてねえぞ」
「もういいです、ただの飲み会でいいですから。これ以上惨めな思いにさせないでください、土方さん」
「あー······だから名前お前、今日変わった格好してんだな。なんだその服」
「題して『合コン必勝、男受けバツグンフェミニンワンピース』」
「······30点だな」
「5点でさァ」
「だからそれ何点満点中!?」

相変わらず無神経な男共め。

「っていうかなんで銀兄達までここにいるの?」
「警察庁の金でタダ飯食えるってきいたから」

そう言って銀兄は遠慮なくビールを煽る。ビールにチョコレートパフェって合うの? というか、この飲み会経費で落とす気か。色んなものに呆れながら横を向くと、なぜか沈んだ様子の小太兄がいた。

「小太兄? なんか元気ないね。どうしたの?」
「ヅラのヤツ、こないだ徳川と一緒にいた男が犯人だったのを見抜けなかったことにへこんでやがんだよ」
「小太兄······」

小太兄はちょっと馬鹿だけど、とても優しい先生だ。私は小太兄を慰めるように、空のグラスにビールを注いだ。

「今回の事件、小太兄が見回り活動を自主的にやっててくれてたから、そよちゃんを発見することが出来たんだよ。そんな落ち込むことないよ」
「名前······」

ゆるゆると顔をあげた小太兄は、なんだか感極まった様子で私からグラスを受け取った。

「お前は優しい子だな。兄貴分として嬉しいよ。名前、これからはこの小太兄のことを、マイスイートブラザーと呼んでくれてもいいんだぞ」
「それは勘弁して」
「あっはっは! でもまっこと名前は優しいのう。べっぴんさんじゃしスタイルも悪かない。どいて彼氏ができんのじゃ? 理想が高いんか?」
「別に普通だと思うけど······」
「それなら言うてみ。名前はどげな男が好みなんじゃ?」

辰兄があまりに声が大きいので、皆が注目してくる。え? 私ここで理想の男性像を語るの? なんの罰ゲーム?

「うーんと、優しくて、私より背が高くて、格好良くて············私より強い人」
「そりゃあハードル高すぎだろ」

銀兄が呆れて視線を向けてくる。ええ? だって重要じゃない? 確かに自分が並大抵の男の人より強い自覚はあるけど。

「そげなこと言うて、きんとき。おんし名前が嫁に行ったら寂しいんやないが?」
「······知らね」
「あーもう! 私の話はいいから! せっかくだから今日は飲もう! 経費を使ってトコトン飲もう!」
「職権乱用だな」

もし、子供の頃の自分に会えるんだったら、私はきっとこう言うわ。
上手く行かないことも沢山あるけれど、それなりに楽しい未来が待ってるよって。ね。


おしまい!

♪「サボテン」/ SHISHAMO


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