01.赤い夢の合図
眩しさにキツく目を閉じて。もう一度、と目を開けたその先は。
「な、何、これ…………」
煌びやかな世界が、広がっていた。
01:赤い夢の合図
いやいやいやいやいやここ何処よ。辺りを見回すと、全くと言っていいほど覚えのない、しかし見るからにハイブランドそうな店舗の数々。慌てて自分の体をぺたぺたと触るが、疲れ果てて帰ってきたあの時とおなじ、黒の地味なスーツ姿で。呆然とする私に、さらに追い打ちをかけるように館内放送が響く。
『豪華客船メイジ号での旅をお楽しみの皆様にご案内致します、先程の停電はーー…』
……豪華客船、メイジ、号って。おい、まさか。
頬を試しとばかりに抓ってみれば痛い。そんなことありえないありえないだろうと否定する自分と、あまりにも浮世離れした目の前の出来事にこれしかないと確信する自分と。
「……と、トリップした……?」
絞り出せたのは、この言葉だけだった。
なんとか状況を整理しようとフラフラとさ迷っていると、流れるような金髪の女性が困ったように歩いていた。その手には、何故かドングリ。
「(……っていうか待って、あの子はもしや)」
トメニアのレナ・K・グレーテルの異能によって成長した姿、クリームヒルトその人である。…思わず凝視していると、彼女と目が合ってしまった。
「そ、その手のドングリは……?」
「…………プリマリアが…」
……なるほどわからん。詳しく説明をするよう促すと、どうやら先程の停電で電気が消えたかと思ったら、隣にいたプリママがドングリになっていたらしい。なるほどわからん。
「元に戻さなきゃ……」
「そっか、頑張ってねレーナちゃん……」
しょんぼりして歩いていく彼女を見送ったところで、やってきた道の方を見てみれば。
「……まじかよ、ホストクラブキノタケ?」
何度もゲームで見た光景、豪華客船メイジ号にある高級ホストクラブキノタケの店がドドン、と鎮座していた。もう一度頬を抓ってみるが当たり前のように痛い。これはいよいよ、幻覚でも見ているのだろうか……
「幻覚?そんな訳ないだろう。君の手にあるその青い羽根が、その証拠さ」
その声に、振り返って。
心から、愛するキャラクターがいる。
イベントでも取り上げられた鏡写しの国のひとつ。イギリスの反転した国であるブリテンーー…大貌連合国。魔法と蒸気機関に彩られた真鍮色の世界は人々を魅了してやまない。
そんな国のとある男。21世紀の大魔術師、ドニャゴン愛好家、ワカメ、おしゃべりクソ野郎…たくさんのあだ名がついているその男に、私は恋をした。
その、男が。
「やっほーーーー!!君を待ってたよ、もぶ山君!!!」
なぜ、目の前にいる?
18,07,21
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