言の葉ロマンス

久しぶりに会えた日に限って仕事が入るのは珍しいことではなくて、だからこそ家で出来る仕事を選んでよかったとは思う。だからって二人きりの時間が少なくなってしまうのは寂しいし、でもお仕事をもらえるのは嬉しいし…。矛盾だらけだ。

今日も夕飯をうちで食べようって、買い物して帰ってきた矢先のことだった。私の仕事用の携帯が鳴ったのは。

「はい…、はい…、修正と追加分ですね。締め切りの方は…、あ、有難うございます」

電話越しの声は贔屓にしてくださってる音楽レーベルの人。この間提出したものの修正と追加をお願いされたのだ。買ってきた食材を冷蔵庫にしまっている綺羅を横目にメモを開いて言われたことを書いていく。

「では、いつも通り出来たものから送りますので、よろしくお願いします」

失礼します、と言う言葉と共に切られた電話に軽くため息をつく。立ったまま無言でテーブルに置かれたメモをみていたら、さっきまで台所にいた綺羅が私の背中に腕を回した。大きな影が、私に降り注ぐ。

「仕事…、追加か?」
「うんー、でも締め切りまで結構時間あるから大丈夫」

そういって笑って見せれば、少し考えるような顔をして言葉が紡がれる。

「名前は、夏休みの宿題を最初にやる、タイプ…」

真剣に考えてるからなにかと思えばそんなことだった。綺羅が抽象的なことを言うのが珍しくて面白くて吹き出してしまえば、綺羅は何が面白かったのかわからないような顔をしていたからなんでもないと言って、また笑う。

「でも良く知ってるなぁ、じゃあごめんけど少しだけ作業させて」
「あぁ、構わない」

確かに私は出来るものは早めに解決してしまいたい癖があるようで、友達には行き急いでるとも言われた。せっかく綺羅との時間だけど、少しでも進めたいのはたしか。一度ぎゅっと抱き締められゆっくりと身体が離された。

「夕飯は、俺が作ろう」
「え、綺羅ご飯作れるの?」
「簡単な、ものなら」
「ほんと?じゃあお願いしてもいいかしら」

そう頼むと、綺羅は微笑んで台所へと戻って行った。私はパソコンを取り出してすぐさま起動させ、作業に取りかかった。新しく買ったソファの座り心地がとても良くて、台所でせっせと動く綺羅をみながら私はヘッドホンを付けた。

いくらかしていい匂いがするなと思ったら、綺麗な形をしたほかほかオムライスが出てきた。確かに簡単なものではあるが完成度はもしかしたら私よりいいかもしれない。こだわり派な彼だからこそ成せる技なのかも。素直に誉めると綺羅は少し照れながら味の保証は出来ないが、といった。一口食べると、久しく他人の作った料理を食べていなかったせいなのか、それとも綺羅が作ったからなのか、とっても美味しくてたくさん誉めてあげた。

「作業は、どれくらい進んだ?」
「修正の方はいくらか。何個か作って送りたいからまだまだかかるかも…」
「…自分の気が済むまで、やるといい」
「ありがと」

微笑みながらそう言ってくれたけど、甘えていいのかな。もやもやと心の中に霧がかかったようなそんな気持ちのまま私はご飯を食べ終え、またパソコンに向かった。

そのあとは、私が座っているソファの隣で綺羅が前に私が奨めた小説を読みながら時間が流れた。キーボードを叩く音と紙の捲られる音。時折聞こえるのは、ヘッドホンから漏れる編集中の音楽だけ。しばらくそんな時間が流れた。

突然パタン、という本が閉じられる音がした。私は特に気にしなかったのだが…

「名前」
「ん?どうし…うわっ!」

突然ヘッドホンを取られ、驚く間もなくソファに倒された。頭は打たないように手に支えられて。大きな影が私を覆うが、ぽすっと綺羅の頭が私の顔の横に落ちる。

「やっぱり、俺のことを見てくれ」

小さく紡がれた言葉に頬が緩んでしまう。ゆっくり綺羅の背中に腕を回して抱き締めると、ぐりぐりと頭を擦り付けてきた。

「寂しかったの?」
「………」
「言ってくれなきゃわかりませーん」
「寂し、かった」

そういった綺羅の頭をくしゃくしゃと撫でてあげたら、ガバッと顔をあげた。その顔は微かに赤く染まっていて、彼の喉が動いたのが見えた。これは…、と思った時には横抱きにされて身体は宙に浮いていた。私は落ちないように首に腕を回すけど、すぐにベッドに下ろされる。

「名前は、本当に可愛いな…」
「綺羅もかっこいいよ?…ごめんね、仕事ばっかりで。なかなか綺羅にも会えないのに…」

私はベッドに横になりながら綺羅に頭を撫でられていた。空いていた片手を握りしめながらそう呟くと、ゆっくり身体を近づけて来てそのまま唇が重なった。

「んっ…ふ……」

先程まで私が握っていた手を押さえ付けられるように握られて身動きが取れなくなる。綺羅の舌が隙間を縫って口内に入ると、脳が痺れたような感覚になって心臓がギュッとする。

「会えないのは、仕方がない…。お互いの、夢のため。ただ、今日は俺が…少し寂しかった」

そのままもう一度口付けをされると、意地悪そうに笑う綺羅が私の腰に触れた。

「今日はもう…離さない」



言の葉ロマンス
(ずっと寂しかった)




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