内緒のココロ

今年の暑かった夏もようやく過ぎ、秋を感じられる気候になった。この間ショッピングモールで一目惚れしたワンピースを着て向かうのはレイジングエンターテインメント。受付の女性に会釈をし、階段を登りながら今日相談をしに来た綺羅くんの曲を口ずさむ。自分の中では綺羅くんの本質を捉えた可愛い曲になっているとは思うけど、どう感じるかな。

「あ!名前だー!」

階段を登りきりドアを開けると、出迎えてくれたのはナギくん。私のことを視界に捕らえるなり、両手を広げて抱きついてきた。私とナギくんの身長はさほど変わらないから恥ずかしいのだけど、私に会う度にこれだから慣れてしまった。

「こんにちは、ナギくん」
「今日のワンピースカワイイー!名前によく似合ってる!」
「ふふ、ありがとう」
「ね、そんなカワイイ名前にお願いがあるんだけどぉ、課題教えてくれないー?」

抱き締められながらそんなことを言われる。ゆらゆらと揺さぶられながら課題を見てくれと催促されるが生憎仕事をしに来た身なのだ。しかもナギくんは本物の天才だから、学校の課題でつまずくことなんて無いのを私はちゃんと知っている。

好かれている自覚はあるし、そうやって構ってくれとアピールされるのは嬉しいけど、きちんと伝えなくては。

「私も仕事しに来たんだけど…」
「そんなこと言わないでさぁー」
「天才なんだからわからないことないでしょ…。しかも私なんかより綺羅くんとか瑛二くんのほうがいいんじゃないかな」
「そうかも知れないけどぉ、ボクは名前がいいの」

そうかも知れないけど、は失礼でしょうが。ドアの前でそんなやり取りをしていたら2階から瑛一と綺羅くんが一緒に降りてきた。綺羅くんはいつも通り無表情だが、瑛一はこの状況を見るなりニヤニヤと近づいて来た。

「瑛一助けて…」
「俺は助けないぞ」

瑛一はナギくんに抱き締められて身動きができない私の鼻に人差し指を当て、そう言った。

「瑛一の裏切り者」

頬を膨らませそう言うと瑛一は笑いながら綺羅くんとリビングのソファに座った。私はようやくナギくんから解放され、手を引かれる形で一緒にソファに座った。そこには先ほどまでやっていたのであろう課題が置いてあって、解けていない問題などない。やっぱり構って貰うための口実だったようだ。

「ちょっと、そんなにボクの課題みるの嫌なのー?」
「そんなことはないけど、お仕事が…」

困ったなぁと思いながら今日打合せする予定の譜面を出した。そのまま綺羅くんに渡すと隣に座ったナギくんがぶーっと唇を尖らせる。かわいく拗ねても私は仕事をするのよ。でもそんな思いと裏腹に、そんなナギくんの様子をみて綺羅くんは微笑んだ。

「俺は、…終わってからで大丈夫だ」
「ほら!綺羅もそう言ってるし、ね!」

このあとの予定も無いしな、と追い討ちをかけられた。まぁ絶対やりたくないって訳でもないし、多少家に帰るのが遅くなるくらいだから仕方がない。本当にナギくんを見てるだけになりそうだが了承することに。こういう小さな積み重ねが良くないことはわかっているけど、ナギくんの可愛さの前ではなんの意味もなさなかった。

「うーん、しょうがないなぁ」
「やったー!」

ナギくんは全身で喜びを表すと、飲み物持ってくる!と台所へと走っていった。相変わらず瑛一はニヤニヤとこちらを見ているから、なに、と問いかけると名前も随分ナギに対して甘くなったなと言った。確かに最初の頃は構って構ってしてきても仕事優先でナギくんとこうやって仕事以外のことをすることはなかった。しかし今となっては、押されて折れて結局一緒になにかすることが多くなった気がする。甘くなった、ではなく甘やかしたくなった。そんな感じ。瑛一にだけはそんなこと言わないけどね。

「ごめんね、綺羅くん少し待っててくれる?」
「あぁ、…構わない」

軽く溜息をつきながらそう言うと、綺羅くんは私を子供扱いするように頭を撫でてきた。私の方が年上なのに。そんな思いも込めて苦笑いすると、パタパタと走る音が聞こえてきた。

「あぁー!ボクの名前に手出さないでよね!」

綺羅くんに頭を撫でられてる私を見て、嫉妬なのかそんな言葉が咄嗟に出るなんてとてもナギくんらしい。自分のものに対する独占欲とか強そうだもの。彼は持ってきたお茶をテーブルに置くといそいそと私の隣に座った。

「私はナギくんのものじゃありません」
「そのうちなるもーん」
「そ、そのうちって…」

私の人生において中学生の男の子にそんなことを言われるだなんて思いもしなかった。確かにナギくんは宇宙一カワイイって言ってるだけあって本当に可愛いと思うけど、アイドルなんだからそういう発言は控えた方がいいと思う、と考えながらも内心嬉しく思ってる自分がいる。

ナギくんは私の左手を掴むとギュッとそのまま手を繋ぎ、自分の頬に近づけた。自分の手からナギくんの柔らかいほっぺの感触が伝わる。

「だって、名前隠してるけどボクのこと好きでしょ?でも年齢差があるからそこを気にしてるんだよね?」

一瞬何が起きたかわからなかった。私がナギくんのことが好き?

「だ、か、ら!ナギがもーっと大きくなったら、名前のことお嫁さんに貰ってあげるから、覚悟しておいてよね!」

その眩しすぎる笑顔に私は顔が赤くなるのが自分でもわかった。そう言ったナギくん自身も少し顔が赤く染まっていて、愛しさが溢れる。ここに瑛一と綺羅くんがいるにも関わらずそんなことを言われて私は赤くなった顔を隠すので精一杯。私はパタリとソファに倒れた。

「おい、倒れたぞ」
「キュン、死…」

もうどうとでも言ってくれ。ちらりと指の間からナギくんを見ると相変わらずニコニコと私を見ていた。彼はいつから気付いてたんだろう。

「ボクが名前を宇宙一幸せにしてあげる」

そう言った彼は宇宙一かっこよかった。



内緒のココロ
(あと数年、気づかないふりさせて)




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