パステルラヴァー

私がアイドル雑誌担当になったのは数年前の事で、その当時、現在はQUARTET NIGHTとして活動している“美風藍”が世の中の話題の筆頭だった。あの頃は、美風藍がシャイニング事務所所属だったから、よく早乙女学園や事務所にお邪魔したものだ。そして数年の時が過ぎ、今はそのQUARTET NIGHTを筆頭に、同事務所所属のST☆RISH、レイジングエンターテインメント所属のHE★VENSが世のアイドル誌の一面を飾っている。SSSも無事に終了し、あの時のような世間を、世界を騒がす話題は無いものの、日々彼らはアイドルとしての成長をしていた。

そしてその成長を書き綴るのが私たちの仕事だ。

「本日もよろしくお願いします」

レイジングエンターテインメントの会議室。期待の新人として紹介されはじめたころ、私はHE★VENSの取材によく行くようになった。彼らの独特な雰囲気は読者のウケが良い。鳳瑛一、皇綺羅、帝ナギの3人で活動したころからの付き合いで、うたプリアワードが終わったと共に失踪したときはとても驚いた。SSSの選考で戻ってきた時は、私個人に謝罪の連絡が来たくらいには親しい仲ではあった。

今日の取材はほとんど付き添い程度のもので、新人の子に大半は任せっきりだった。滞りなく取材は進み、無事に終わった。そのあとの撮影はうちの雑誌のものだったから新人には先に帰ってもらって私は撮影にお邪魔することに。

「名前はもう取材来なくなるのー?」

瑛一くんと綺羅くんが撮影している中、話しかけてきたのはナギくんだった。可愛いパステルカラーの衣装に身を包み、椅子に座って足をパタパタとしている。仕事してるときはとても中学生とは思えないが、裏では比較的年相応な彼にとても好感が持てる。

「どうしてそう思うの?」
「だって今日の名前完璧付き添いでしょー?交代するからなのかなぁって」
「まぁ、もしかしたらね。もともとHE★VENS担当とか、そういうことではなかったし、新人ちゃんがきちんと仕事出来る子だから可能性はあるかも」
「えー!ナギ寂しい!」
「そういってくれるのは嬉しいけど、こればっかりは私にもわからないからなぁ」

ぶー!とぷにぷにのほっぺを膨らまし、パタパタしている足が早く動く。近くで聞いていたのであろう瑛二くんも、俺も寂しいです、と呟いた。

「まだ決まったことじゃないし、大丈夫だよ」
「絶対変わらないって確証はないでしょー?……綺羅はどうするんだろ」
「え?」

なんでもない!と、ナギくんはそう言い残し瑛二くんと共にカメラマンのもとに走って行ってしまった。一人残された私をみてヴァンくんが不思議そうに近寄ってきた。

「名前ちゃん、ナギになに言われとったん?」
「いや、あの、取材来なくなるの?って…」

そう伝えると、あー、とヴァンくんは頬を掻きながらなにか考えていた。私が来なくなることが、なにかしらに影響するなら教えて欲しいんだけど。

「いやぁ、ワイが言うんはちょっとお門違いな気ぃして…」
「そうなの?」
「せやで。で、来なくなるんか?」
「まだわからないけど、今日一緒にいた新人ちゃんがお仕事できそうだったからそのうち変わっちゃうかもねって。そもそもHE★VENS担当って訳じゃないからいつ変わってもおかしくはないよ」

そうなんかー、と眉尻を下げなからあからさまに落ち込むヴァンくん。私たちの視線の先には先程まで撮影していた瑛一くんと綺羅くんがナギくんたちと交換してこちらに戻って来るところだった。その様子をみてヴァンくんが、ちぃと待っててな!と言い残しふたりのもとに走っていった。

瑛一くんと綺羅くんがヴァンくんに気づくと、何やらこそこそと会話している。瑛一くんは私をみると綺羅くんの背中を押してヴァンくんとどこかへ行ってしまった。

「少し…話がある」

私のもとに来たのは綺羅くんで、撮影用の可愛いスーツは普段のHE★VENSとはひと味違ってとても可愛らしく思う。綺羅くんは私の手を取ると、人気のないスタジオの端までつれてきた。

「ヴァンから聞いた…、取材に来なくなる可能性が…あると」
「決まったわけじゃないけど、可能性としてはね?」

そう言うとやっぱり決まって困った顔をする。だけどそれはすぐにもとの綺羅くんの顔に戻った。

「…聞いてほしいことが、ある」

パンプスを履いた私よりいくらか大きい彼を見上げるように、ゆっくりと視線を瞳に向けた。金色のその綺麗な瞳はまるで獲物を狩るかのような、そんな鋭いものに変わっていた。

「俺と…付き合ってほしい」
「………っえ!?」

物凄く間抜けな声が出た自信がある。どこに?なんて冗談を返す余裕もなく、ただただ純粋に驚いて恥ずかしくて自分の顔に熱が集中するのがわかった。

「ずっと…好きだった。会えなくなる可能性が…少しでもあるなら…、いま伝えるしかないと、思った。名前と、もしこのまま会えなかったら、一生後悔する」

綺羅くんの声が直接耳に入ってくるようなそんな感覚。私は口元を手で隠したまま、綺羅くんを見上げた。その顔は真剣そのもので、取材の時には垣間見えない新鮮なものだった。

「…答えを、聞いてもいいだろうか」

世界がゆっくりと動き出した。

「少し、驚いたけど…。私も、好き。綺羅くんと幸せになりたい、な」

たぶん、いまこの世で一番幸せな自信がある。職業柄、恋愛なんてものは避けてきた節があるが、今日でそれも終わり。

「ちょっとー!内緒話もいいけど、綺羅はそろそろ出番だよー?早く準備しなよね!」

突然うしろから聞こえた声はナギくんで撮影の順番を知らせに来てくれたらしい。その顔は先程よりすっきりした顔で、やけにニコニコしていた。綺羅くんの手をつかんで、ほら行ってきな!とナギくんと見送ると入れ替わるようにヴァンくんもこちらに来た。

「ちゃんと本人から聞いたんか?」
「うん、みんな知ってたんだね」
「そりゃあもう、綺羅ったらすぐに顔に出ちゃうんだから分かりやすいんだもん」

ナギくんとヴァンくんはふたりで顔を見合わせ、ねー!とニコニコと楽しそうに笑った。そんな様子にクスクスと笑いながら撮影中の綺羅くんを見ると、綺羅くんもこちらをみていて少し恥ずかしくなった。

「ま、綺羅をよろしくたのんます」
「いつでもナギに会いに来てね!」

出会った時から、道筋は見えていたのかもしれない。



パステルラヴァー
(これからの幸せな日々を想う)




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