「なまえちゃんの部屋はここよ」
そう言って与えられた部屋はサスケの隣の空き部屋だった。
「ありがとう、ございます…」
「ゆっくりでいいのよ。少しずつ慣れていきましょう?」
サスケのお母さんの優しさにはコクリとうなずくのが精一杯だった。
両親を失ったその日の夜は、全く眠れず一晩中布団の中で起きていた。
次の日、私を起こしに来てくれたサスケのお母さんが、私の顔を見て一晩中泣いた後の真っ赤な目を優しく撫でた。
「ご飯、食べましょうか」
両親を亡くしたのは私なのに、その私を見たサスケのお母さんも泣きそうな顔をした。
そしてその時やっと、自分の行動が他の人を心配させてしまっていることに気付いた。
「ミ、コトさん」
さっきまで私が寝ていた布団を畳んでいるところに声を掛ける。だが呼び方に困った。これから一緒に住むのに"サスケのお母さん"と呼ぶのも変な気がして。
しかしミコトさんは優しい声色で「自由に呼んでいいのよ」と言った後、「どうしたの?」と続け、私に目線を合わせた。
「ごめんなさい…ありがとう、ございます」
心配を掛けてしまったことを謝りたかった、私を家に置いてくれることにお礼を言いたかった。ただ言いたいことが全然上手く言えず、私の語尾はどんどん自信をなくして小さくなっていく。
そんな心情を察したのか、ミコトさんは何も言わず俯く私を力強く抱きしめたのだった。
その夜、部屋で寝ようとしていると、コンコンッという音と共に恐る恐る部屋の襖が開いた。
「なまえ…?」
サスケだった。
「あのさ、オレも一緒に寝ていい?」
私よりも数cm背の低いサスケが枕を抱きしめながら私の返事を待つ。
「うん、いいよ」
私たちは向かい合って布団に入った。きっと私を気遣って来てくれたのだろう。そんな気がした。
昨日から散々泣いたが、サスケを前にしたらまた涙が溢れてくる。
「何で私のお父さんとお母さんだったのかなあ…」
「…」
サスケが遠慮がちに私を見る。私も明確な答えが欲しいわけではなかった。それでも、黙って聞いてくれるサスケの優しさに、ポツリ、ポツリと言葉が出てくる。
「私の家族…いなく、なっちゃったっ…」
何もできず、ただ泣くだけな自分の無力さを痛感する。
すると、サスケがそっと私の手を握った。
「オレがいるよ」
俺がずっと一緒にいる、一人になんてさせない…そう言って寝間着の袖で涙を拭われたとき、少しだけ、安心した自分がいた。
小さな決意