サバイバル演習。いや、これは下忍選抜試験だ。
朝8時、私はヤマト先生に指定された場所に来ていた。トビオとアヤも同じ頃に着き、程なくしてヤマト先生がやってきた。
「昨日も軽く説明したけどもう一度するね。この演習はボクから鈴を取る試験だよ。忍術、体術、幻術…何を使ってくれても構わない。本気でおいで。ただし…鈴は2つだ」
「誰か1人失格…ってこと?」
アミが問うと、ヤマト先生は頷いた。
「そうだね。午前も午後も失格、あるいは先に他の2人に鈴を取られた場合はアカデミーに戻ってもらうよ。最低1人、誰も鈴を取れなければ3人ともだ。」
「はあ!?何でだよ!オレたちアカデミーは卒業しただろ!」
ほら!と額当てを指すトビオ。
私も横で驚きを隠せずにいた。アカデミーに戻る?冗談じゃない!私にはそんなことで後戻りしてる時間はないのだ。
しかしこの演習、もとい下忍選抜試験が他の班でも行われているのであれば、必ず合格者もいるはず。相対評価だろうが絶対評価だろうが、アカデミーを首席で卒業した私とサスケが受からずして誰が受かるのだ。私にはそんな自信があった。
少なくとも、この班でヤマト先生から鈴を取れる確率が一番高いのは私だろう。
落ち着いた私は、喚くトビオやアヤを宥めるヤマト先生に向けて演習の開始を促した。
「なら早くやりましょう、時間がもったいないです」
「3、2、1…スタート!」
ヤマト先生の合図で私たち3人はそれぞれ茂みや木の陰に隠れる。私はヤマト先生の方から追ってくる素ぶりが見えないことを確認すると、腰のポーチからワイヤーを取り出し、張り始めた。
「あとはどうやってここに誘き寄せるか…」
ボフン、と分身を出す。分身には私とヤマト先生の対角線上に行かせた。
その時だった。
シュッ
ザクザクッ
私の背後から、顔スレスレのところをクナイが飛ぶ。チラ、と確認するとアミのようで、アミの投げたクナイはヤマト先生の身体に命中した。
途端、ガッツポーズと共に駆け出したアミはすぐさまヤマト先生の元に駆け寄り、鈴を目掛けて腕を伸ばす。が、そこにあったのは変わり身用の丸太のみだった。
「残念」
アミの背後に現れたヤマト先生は、腰のポーチからロープを取り出し、アミを木にくくりつけた。
ヤマト先生はパンパンッと手を払う。
「(ここだ!)」
ヤマト先生の隙を見つけた私の分身は、寸分の狂いなく真っ直ぐにクナイを放つ。
「同じ手は通用しないよ。」
ヤマト先生はそれを片手で弾き飛ばすが、私は攻撃をやめなかった。
茂み少し奥まったところまで移動し、ヤマト先生を中心として両手で左右60度ずつのところに向けてクナイを放つ。その2つのクナイに向けてさらにもう2つのクナイを投げ、2度目のクナイで初めのクナイの軌道を変えた。昔、イタチ兄さんに教えてもらった技だ。
分身による1度目の攻撃と本体による2度目の攻撃。2度目の攻撃はヤマト先生の視界に入る前にクナイの軌道を変えているため、私の居場所は特定されないと思いがちだが、私はヤマト先生は気付くと確信していた。
「そこだね」
案の定、本体であるこちらに突進してきたヤマト先生を向かい打つべく、先程トラップを張った場所の奥へとさがる。
クナイを構えながら足元に光るワイヤーを踏め!踏め!と念を送っていると、ヤマト先生の口角がフッと上がった。
「殺気がダダ漏れだよ」
目の前にいたはずのヤマト先生が背後にいる。頭では分かっているのに身体が反応出来ず、私は手元のクナイを数センチ動かすだけで精一杯だった。
グサグサグサッッ
ヤマト先生と私にクナイや手裏剣が刺さる。
ヤマト先生が背後に来た直後、私は僅かにクナイを動かし、ピンと張られた手元のワイヤーを切ったのだ。
「なまえ!!!???」
私の安否を案じたトビオが茂みから飛び出す。だがヤマト先生と共にクナイの餌食となったのは私の2体目の分身だった。
私はトビオに構わず、潜んでいた木の上からヤマト先生の頭上に向けて降り立つ。そのまま手をクロスさせ防御の構えを取るヤマト先生の腕に足を引っ掛け、手では鈴を取ろうとしていた。
チリンッ
掠った。確かに指が掠ったのに取れなかった。ヤマト先生に吹っ飛ばされた私は受け身を取り着地する。
それと同時に私は確信した。
上忍相手に下忍が鈴を取れるか?私やサスケは独自に鍛錬を積んできたが、私でこれでは大半の受験者が合格することなどできないだろう。これはチーム戦を望まれているのではないか…??
ジリリリリリリリリ
私の仮説は実行に移されぬまま、午前のサバイバル演習の終わりの合図が鳴った。
負けられない戦い