Dream | ナノ

敏感な聖書


俺が何とかするなんて大々的に宣言したものの何とかする当てなんてない。
家に帰って我に返った俺は自分がしでかした事の大きさに気づいた。


「どないしよ……」


歌の無実を証明ってどないすればええねん。
みんなに昨日のことを聞きまくる? いやいやそない大事にしたない。
基本的にみんな口軽いから変な噂がたって、逆に歌が疑われたらイヤやし。


「やからって、情報0やから誰かしらから話は聞かんとな」


とりあえず話を聞ける人間は俺が絶対の信頼を置いとるテニス部の奴ら。
それと事件の当事者である花野さんくらいやろか。
先生らは信用出来へんけど、オサムちゃんなら何か聞けるかもしれん。


「まあ手っ取り早いんは、花野さんやな」


それにしても何で学校は歌が犯人やと決めつけたんやろ。
花野さんから話を聞けば歌が犯人かどうかははっきりわかるはず。
まさか花野さんが犯人は歌やと言うたんやろか。いやいや、そんな訳ないやろ。


「んなアホな話、ある訳ないか」


混乱して軽く頭が痛くなってくる。
とりあえず、今日はすぐに眠て、明日みんなに話しを聞く事にした。







まず一昨日の出来事の目撃者探しや。
昨日考えた通り、まずテニス部の奴等に話を聞いたんやけど収穫なし。
みんな受験生やからな、何もなければ帰っとる時間や。


(まさかここまで盛大に空ぶるとは思っとらんかったわ)


まだ情報はない。せめて学校に残っとる奴がいれば……。ため息をついて教室に入ろうしたら入れ違いに白石が出てきた。


「お、ケンヤ。今朝は随分と遅いな」
「あ……ああちょっと他のクラス行っててな」
「ふ〜ん」
「お前は何や、もうすぐ予鈴やけどどっか行くん?」
「ああ、1組にな。水野さんに用があってん」


白石から出てきた歌の名前にびっくりする。が、俺の驚きに気づいてないのかそのまま話を続けた。


「今度の保健だよりでな、保健室解剖白書って企画やるんやけどそれに使う写真持ってきたんや」
「保健室解剖白書って、何やそれ」
「保健室にある器具とかの紹介。それの担当が水野さんやから早めに渡したらんと思って昨日持ってったんやけど風邪で休みらしくてな」
「あ、あー、そか」
「?」
「あ、なんなら俺渡しとくで? 今日お見舞い行こうと思っとったし」
「ホンマに? じゃあ頼むわ」


ほい、と軽く渡された写真は保健室のベッドやら身長計や体重計が様々な角度で写されとった。
どんな形でも対応出来るようにっちゅー白石の配慮やろ。さすが元新聞部やなあ。


「ん?」
「じゃあ、頼むわ」
「ちょい、待ち」
「何や? もうチャイム鳴るで」


席に戻ろうとしとった白石を呼び止める。
もう用事は済んだやろ、と言いたげな態度を無視して俺は詰め寄った。


「これいつ撮ったん?」
「一昨日の放課後やけど」
「インスタント?」
「デジカメやけど」
「これ以外に撮ったんある?」
「あるで。枚数は結構撮ってそっから俺が吟味して」
「データ今ある?」
「……あるけど」
「見せてくれへん?」


俺から矢継ぎ早にされる質問の意図が汲み取れない白石は首を傾げた。
まあそらそうやろ。保健室の写真を見たがる理由なんてわからへんもんな。
理由聞かれても、白石ならええやろ。ちゃんと話したろと思った。


「別にええで」
「へ?」
「へって何や」
「いや、理由聞かへんのかなって」
「……水野さんが休んでるのと関係あるんかなーって」


こいつ、鋭すぎやろ。さすが聖書や。いつも絶頂絶頂言うてる変態やないんやな。
デシカメを受け取ろうとしたら予鈴が鳴ったので続きは昼休みに屋上でということになった。
自分の席に着いてから、俺は改めて写真を見る。


(もしかしたら、やけど)


写真の端には窓があり、窓からはあのプールの入り口が見えた。
もしかしたらここに花野さんと共にプールに来とった奴が映っとるかもしれん。
写真を机に仕舞い、残りのデータに期待することにした。







昼休みになってすぐ、白石の所に行けば焦るなとデコピンされた。
2人で屋上に向かうと誰もおらんかった。今日も冷え込みが続いているからかもしれん。


「これが一昨日撮った写真や」
「見させてもらうで」


白石から受け取ったデジカメを起動する。さっき貰ったもの以外にもいくつか窓が写ってるもんはあったけどそれも少数でしかもボヤけとる。
最後の1枚にも何も映っとらんくて結果は収穫なしやった。


「収穫なし、か」
「空振りやったんか」
「ああ……。これ、ありがとうな」


デジカメを白石に返し、ため息をつく。これでまた振り出しに戻ってしもた。
どうすればええんやろ。他に何か手がかり……放課後にプール行ってみるかぁとか考えとったら屋上のドアが開いた。


「おーい、白石。話って何や」
「オサムちゃん!」
「おおケンヤ久しぶりやなあ。元気にしとったか」


何ともいいタイミングでオサムちゃんが来てくれたもんや。
何で屋上に来たのか聞けば、白石に呼ばれたらしい。
ならば先にそっちの用事を済ませるべきやろ。


「白石、オサムちゃん来たけど何の用やったん?」
「用があるのはケンヤやろ」
「!」
「俺は向こうで毒草の水やりしてるわ。オサムちゃん、ケンヤが聞きたいことあるみたいやから聞いてやってや」


……白石お前ホンマ男前やな。これは今度何か奢ったらなあかんな。
白石の姿が見えなくなったところで歌の話を持ち出すとオサムちゃんは渋い顔をした。


「やっぱ、その事か」
「なあオサムちゃん、先生らは花野さんから話聞いたんか」
「……まあ、ええか。俺から聞いたって誰にも言うなよ?」
「おお」


オサムちゃんは一度軽く咳払いをした。それから辺りを見回し誰もおらんのを確認する。声量を落としてから話を始めた。


「生徒指導部やないから詳しい事は知らんけど花野から話は聞いとるらしいで」
「んで、内容は?」
「……花野が言うには突き落としたのは女の上級生。名前は知らん言うたらしい。それであの場におった上級生女子は水野だけやったってことらしい」
「……それだけで歌が疑われたんか」
「もっと詳しく話聞きたかったらしいんやけど、花野の両親がもうこれ以上娘に辛い事思い出させるなって強く言うたらしくてな」


確かに当事者の花野さんが言うたことや間違いはない。
その発言を元に俺たちは簡単な面談で終わって、歌は疑われた。
花野さんも歌と話しとったのはほとんど放課後やった。だから2人が知らん間柄やないことを学校側も知らんかったんやろ。


(盛大な勘違い、っちゅーやつなんやろうか)
「俺が知っとるのはこれくらいや。あんまり生徒に話すな言われとるからもうこれ以上は何も言えへんで?」
「ああ、いや。ありがとうな、オサムちゃん」
「ん、ほな俺は職員室戻るわ」


俺に背を向けて、オサムちゃんは出口の方に歩き出した。
歌が疑われた理由はわかった。あとは花野さんから犯人の特徴聞ければ探せるかな。
でも、花野さんって今どこにおるんやろ。


「あ、せや! ケンヤ」
「な、何ですか」


ドアの前で立ち止まったオサムちゃんが突然俺を呼んだ。
びっくりして変な敬語になってしもた。けどオサムちゃんは気にすることなく口を開いた。


「花野、お前ん家におるやろ?」
「え?」
「やから、忍足医院に入院しとるらしいで」


花野さんの入院先は俺ん家だったんかい! それ最初に言ってーや!
今日の放課後、行って話を聞いたるわ!

prev  next
目次には↓のbackで戻れます。

BACK
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -