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好きという自覚


熱は下がったけど、学校に行く気にはなれなかった。さすがにあんな電話を貰っているのに行けるほど神経図太くない。
憂鬱な気持ちがほとんどを占めているけど、涙が出ないのはきっと謙也のおかげ。


「俺が何とかしてやる、か」


果たしてそんなことが出来るんだろうか。謙也を信じていないわけじゃない。
けど、どう考えたって犯人を探すことは難しい。うちの中学はかなり生徒数が多いんだから。


「そもそも、何で謙也は私のためにそんなにしてくれるんだろう」


私は謙也を振っているのに。それなのにずっと一緒に帰ってくれる。財前くんの時だって側にいてくれた。彼がそこまで私に尽くしてくれる理由がわからない。
そこまで考えたところで、ドアがノックされた。お母さんかと思ったが違った。


「歌、入ってもええ?」
「け、んや?」


ドア越しに聞こえた謙也の声に胸が高鳴る。いいよと言おうとしたが辺りを見てそれを止める。
荷物や服が散らかっていて、こんな部屋見せられたものじゃない。慌てて片付けを始めた。


「ど、どうぞ」
「邪魔するでー。って、何や今日は部屋綺麗やな」
「え」
「昨日はどこのゴミ捨て場かと思ったで」
「うっさい」
「昨日より元気やな」


私の反論に謙也は安心したように笑った。確かに昨日の私は酷かった。
今思い出しても顔が熱くなる。そんな私の状態など気にせずに謙也は話を始めた。


「一応今日わかったこと言うておいた方がええか?」
「えっ」
「何で歌が疑われたのかって理由はわかった。犯人はまだわからん。手がかりもなくてな、すまん」
「謙也が謝ることなんもないよ。私なんかのために、ありがと」
「なんか、とか言うたらあかんで。好きな人なんやから当たり前やろ」
「!」


またさらりと、私が好きだと言ってくる。
前はこんなに戸惑うことはなかった、と思う。


「どないしたん?」
「……何でもない。それより私が疑われた理由って?」


誤魔化すために話を続けるように促すと、謙也は今日あったことを事細かに教えてくれた。
白石くんが写真を届けに来てくれて、それを預かったこと。
そのデジカメのデータには何の手がかりもなかったけど、白石くんが機転を利かせて渡邉先生と話をさせてくれたこととその内容も。


「じゃあ、花野さんの言った知らない上級生って言うのが私だって、学校は勘違いしているってこと?」
「ああ。せやからその知らない上級生は歌やないってことを花野さんから話してもらえばええんやけど……」
「花野さんの居場所がわからない?」
「いや、それもわかっとる。だからこれから会いに行ってくるわ」
「えっ」
「花野さんな、俺ん家に入院しとんねん」


まさかこんな近所にいるとは思わなかった。もっと大きな総合病院とか、そういったところに入院してるのかと……。
それを言えば謙也も同じことを思っていたらしい。


「まだ会えるかはわからんけどな、面会謝絶って言われたらそれまでやから絶対とは言えんけど」
「……うん」
「ちゃんと助けたるから。心配せんで待っててくれ」


ポンポンと軽く私の頭を撫でながら謙也はニカリと笑った。そんな顔を見ていたら申し訳なさと同時にどうしてという気持ちが出てくる。
気づいたら、そろそろと帰ると言った謙也の腕を掴んでいた。


「ん、どうした?」
「あ……えっと」
「?」
「謙也って何で私のこと好きなのかなって、思ってて」
「えっ」
「私のどこに魅力があるのかなーって」


素直に聞いて、じっと目を見ると謙也の顔は一気に赤くなった。
ここまで照れてるってわかる顔見たの初めてかも。


「歌は覚えてへんかもしれんけど」
「うん」
「小学校の頃、1年だけ忍足侑士っちゅーのがおったの、覚えとる?」
「ああ、いたね。クールでかっこいい忍足くんって」
「そいつが俺の従兄やねんけど……あいつモテとったやろ。せやから女子によお比べられてな」


確かに彼ら2人はよく比較されていたかもしれない。
そういえば、その年の終わりに侑士くんが転校するって知らされて女子が半泣きになってた。
その時友達と話した内容が脳裏をよぎる。


「それが面白くなかったんもあるけど、あいつが転校するって話知った女子がな」
「転校するのが謙也だったらよかったのにね」
「……え」
「って、その頃よく話してた子いた。私も聞かれた記憶がある」
「ああ、それがきっかけやったんや」
「どういうこと?」
「歌がその話しとるの、実は近くで聞いてもてな。すまんかったわ」


苦笑いを浮かべる謙也は盗み聞きになったことに罪悪感を感じていたようだ。
今さらすまんと謝られても、昔のことだし。しかも私はその時のことを覚えていないのだから逆に困ってしまう。


「でも、私その時なんて答えたか覚えてない」
「そうなん? 俺の心をぐっと掴んだんやで、自分」
「えー……何だったかな」
「ま、そん時に貰った一言で俺は歌が気になって、気づいたら好きになってたんや」
「っつ」
「って、これ何や照れるな。顔あっついわ」


パタパタと手で自分の顔を扇いだ謙也は真っ赤だった。聞いたこっちまで照れ臭くなってくる。私も顔に熱が集まるのを感じた。


「じゃ、そろそろ行くわ」
「え、もう」
「おお。面会時間あるからな、もう行かんと」
「……うん」
「お、何や? 俺が帰るのが寂しいんか?」
「!」
「なんて、んなことあらへんわな」


冗談だと言いたげに笑った謙也はそのまま立ち上がり、ドアに向かって歩き出す。
見送るために私も彼の後ろに続くと、謙也は「ここでええで」と遠慮をしてきた。


「いい。下まで見送る」
「めんどいやろ?」
「いいの。私が見送りたいんだから」
「そうか?」


階段を降りながらもそんな話をしていた。リビングにいたお母さんに一声かけてから玄関に向かう。


「じゃ、これから花野さんに会うてくるから」
「う……うん」
「心配せんでええ。花野さんがちゃんと話してくれればそれで終いなんやから」


私が不安そうにしてたのか、謙也は私の頭にポンと手を置いた。
優しく撫でるように触った後、軽く頭を叩いてきた。


「じゃあ、また明日な」
「うん」
「今日もちゃんと飯食って、早めに寝るんやで」


昨日と同じことを言って、謙也はドアを開けて外に出て行った。
急いで2階に戻って謙也の家の方を見るけど、もう彼の姿は見えなくなっていた。


「相変わらず、歩くの速いんだから……」


少しでも彼を見つめていたい。それが後ろ姿でも、遠くに霞んで見えるだけだとしても。
最後まで見送れなくて残念だ、と思いながら部屋のカーテンを閉めた。

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