Dream | ナノ

好きだと気づいた


部屋でぼんやりしていたら部屋のドアがノックされた。
ゆっくりドアが開いてお母さんが顔を覗かせる。


「……何?」
「忍足くん、来てくれたわよ」
「えっ」
「邪魔するで」
「じゃあ、お茶のおかわりとか欲しかったら呼んでね」


お母さんの後ろから謙也がひょっこり顔を出した。
手には見覚えのあるコップやお菓子の盛られた皿がある。来ることがわかってて事前に準備してたのかな、お母さん……。


「おう、大丈夫か」
「……うん」
「いや、大丈夫やないやろ。酷い顔やで自分」
「……」


じゃあ聞かないでよ、なんて言う気力もなくて黙っていると怪訝そうな顔をされた。
髪もボサボサだし、昨日あんまり寝てなかったから酷い姿なんだろうな。


「ちゃんと寝れたか?」
「んー、あんまり……」
「そか。腹減ってへん? 歌のおかんが色々用意してくれたんやけど」
「いいや、食欲ないし……それより学校はどう?」


今日学校に行けなかったからそれだけが気がかりだった。
部活をやってる時間帯にあれだけの騒ぎになったからかなり噂になってるんじゃないかな。だとしたら……花野さんが気の毒だと思っていた。


「一部の生徒が知っとるってだけでそんな大事にはなっとらんで」
「そう……ならよかった」
「歌?」


あんまり大事になってないならよかった。花野さんはこれから学校に復帰するんだろう。いじめられてプールに落とされた子なんて言われたら、気まずい気持ちにはさせたくない。
まあ、先生達はきっと彼女を守るだろうけど。


「歌、どないしてん?」
「えっ」
「さっきから変やで。 何かあったんか?」
「謙也って、本当鈍いように見えて鋭いよね」


何とか隠し通そうと思ったけどダメだった。
さっき、謙也がここに来るちょっと前に学校から電話があった。その内容を思い出すだけで、あちこち痛くなって涙が出てくる。


「先生から電話があって」
「えっ」
「昨日のこと聞きたかったんだと思う。今日、休みだったから」
「何聞かれたん?」


聞かれたことを思い出しただけで、息が詰まる。
ベッドの上で三角座りして縮こまって顔を隠した。こんな顔、謙也に見せられない。
見たらきっと、困るから。


「何で花野さんをプールに突き落としたんだって、聞かれた」
「!」
「私が突き落としたって判断されたみたいだね」


あふれて来た涙を袖でぐっと拭って顔を上げる。
何とか謙也を困らせないように笑ってみせる。
でもそれは嘲笑にしかならなかった。


「やってないって言ったけど、信じてもらえなかった。素直に認めるなら進路に支障が出るようにするとか言われた」
「何やそれ、圧力やんか」
「私、どうすればいいのかな」
「やってへんて言い続けるしかないやろ」
「……」
「濡れ衣着せられたまんまでええんか? あと少しやけど気まずいやん」
「先生は保健室登校にすればいいって」


先生や学校の対応に怒りを覚えているんだろう。謙也、すごく怖い顔をしている。
そんな謙也だから、きっと何とかしようとするかもしれない。
でも、これ以上巻き込みたくない。


「もう私と関わらないで」
「え?」
「迷惑かけるでしょ? 謙也まで悪く思われるかもしれないから」
「……歌、お前もしかして」
「もう私がやったって、明日先生に言いに行く。こうなったのは私が花野さんをひとりにしたせいだし」


あの時彼女をひとりにしなければ避けられたことだ。これはきっと罰なんだ。
それに両親と謙也は私がやってないと信じてくれた。それだけが幸いで、もういいって思った。


「……何やけになってんねん!」
「なってない」
「なっとる! 俺はそんな風にすぐ諦める歌好きやないわ!」


謙也の言葉にズキリと胸が痛んだ。
似たようなやり取りを以前したときはこんなことなかったのに。
大声を出して我に返った謙也は私の顔を見てハッとした。


「あ…………すまん」
「もう帰って」
「……わかった、また来るわ」


謝られたけれど、どうすればいいのかわからない。謙也は小さく頷いて部屋から出て行って、急に静かになる。それが心の痛みを強くして、涙と声が大きくなる。


「う……っ……く」


本当は諦めたくないし、やってもないこと認めたくない。誰かに……謙也に助けて欲しいと思ってる。
でも、謙也は優しいから言えばきっと助けてくれる。
そんなことしたら迷惑がかかる。進路にだって影響するかもしれない。
ぐちゃぐちゃになった気持ちを吐露するように泣いていたら突然部屋のドアをノックされた。
びっくりして、泣き声が止まる。


「俺が何とかしたる」
「えっ」


ドアは開かず、向こうからもう帰ったと思った謙也の声が聞こえてきた。
短い沈黙の後、謙也はさらに話を続ける。


「俺が歌の無実を証明したる。やから、簡単に諦めんな」
「……そんな、ダメだよ」
「ダメやない。俺が歌を助けたいんや。助けさせてや」
「!」
「じゃ、俺帰るから。ちゃんと飯食って寝るんやで」


嬉しい気持ちと申し訳ない気持ちがごちゃごちゃになって返事が出来ない。
階段を下り始めた音に慌てて部屋のドアを開ける。顔を出すと謙也は立ち止まってこっちを見た。


「……あ、ありがとう」
「何言うてんねん」
「え?」
「まだ助けとらんやろ。その言葉はその時までとっとき」


謙也はいつもみたいにニカリと笑って階段を下りて行った。
いつも見慣れているはずのその笑顔なのに、なぜか胸がドキリと高鳴る。


(何で?)


その胸の高鳴りは以前、財前くんとたまたま遭遇した時に感じたものと似ていた。ドアを閉めて、気を落ち着かせる。
落ち着いたところで再び謙也について考えると、やっぱり胸が高鳴るのを感じた。


(ああ、そっか。私……謙也のことが好きなんだ)


後悔に苛まれ、周りから悪だと決めつけられてやけになって、もうおしまいだと思っていた。
でも、そんな私でも助けたいと言う謙也はかっこよくて。ずっと前からそうだったのに。
今さら、私は謙也のことが好きだと気づいた。

prev  next
目次には↓のbackで戻れます。

BACK
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -