Dream | ナノ

いつもと逆だ


今にも泣き出しそうになっている歌を気づいたら抱きしめとった。
彼女が泣き止むまでずっと抱きしめて、背をさする。嗚咽が小さくなったところでゆっくりと彼女が俺の胸を押した。


「ごめ……ありがと……」
「お、おお」


何か言わないとと思ったのと同時に養護の先生が入ってきて、今日は帰るように言われた。
明日詳しく話を聞くことになる、とも。了承してぼんやりとする歌の手を引いて学校を出る。


「大丈夫、か?」
「……ん」
「……寒くないか?」
「大丈夫」


昼間は温かいけど夜は一気に冷え込む時期だ。俺はさっき返してもらった学ランを脱いでまた歌に羽織らせた。


「……謙也、冷えるよ」
「平気や、こんくらい」
「……ごめん」


会話をしたのはこれくらい。あとはずっと無言やった。いつもは短く感じる道のりが長く感じる。
家の前についたところで、歌は俺に学ランを返してきた。


「これ、ありがと」
「あー、うん。ちゃんと髪乾かすんやで?」


俺の言葉に歌は小さく頷いて家に入っていった。
大丈夫だろうかと心配しながら、俺も家に帰った。







次の日の朝、待ち合わせ場所ではなく歌の家まで迎えに行った。
チャイムを押して名乗ると、歌のおかんが申し訳なさそうな顔をして出てきた。


「ごめんね忍足くん。歌、熱が出て。今日は休むって」
「そーっすか」
「昨日何でかびっしょりで帰ってきてね。しかもそのまま部屋から出て来なかったのよ」
「えっ」
「……何か知ってる? あの子昨日は1人で帰ってきたって言い張ってるんだけど」


昨日の事を親に知られたくないんやろか。気持ちはわからんでもないけど……心配させるのはあかんやろ。


「ちょっと話すと長なるんで、帰りによらせてもらってもええですか?」
「いいわよ。歌にも伝えておくわね」
「わかりました、ほな俺はこれで」
「ええ。いってらっしゃい」


軽く会釈をして歌の家を出て学校に向かう。時間的にギリギリになってしもた。間に合うように全速力で走る。
慌てて教室に入って時計を見れば予鈴の10分前やった。


「っつ……はあー、間に合った」
「ケンヤ、おはよーさん」
「おお」
「何や今日は走ってきたんか」


席について息を整えとったら白石が声をかけてきた。
歌の家に寄っていたから遅れたことを言えばニヤニヤと気色の悪い笑顔で俺の肩を叩いた。


「ほぉー、もう親公認なんか」
「は?」
「家まで迎えに行くっちゅーことはそうなんやろ? 付き合い始めたんやろ?」
「……いや、付き合うてないし。元々歌の親に頼まれて送り迎えしてたんやし」
「あれ、そうなん?」
「って、これこの前話たよな?! 財前とのこと話した時に!」


最初に歌と財前のことを話した時に一緒に話したと思ったんやけど。
すると、財前の名前を聞いた白石の顔が一気に曇った。辺りをきょろきょろと見た後、声を潜めて話始めた。


「財前の彼女、昨日救急車で運ばれてたんや」
「え……」
「詳しくは知らんけど、いじめとかやったんかなあ」
「……」
「ケンヤ?」
「あ、ああ、そうやったんか。財前大丈夫、なんかな」


愛想笑いを浮かべる俺を見た白石は何か言いたげやった。けど、それ以上は何も聞かずに、ただ「せやなあ」とだけ言って自分の席に戻って行った。







朝のSHRが終わったところで担任に呼び出された。
周囲にはまた頭のことやろとからかわれたけど、実際は違う。昨日のことやとすぐにわかった。
担任に連れてこられたのは職員室横の進路指導室やった。入るとすでに財前と2の7の担任がおった。


「ざいぜ……」
「これで全員揃ったな、ほな話始めるで」


仕切り役は生徒指導のゴリやった。
最初に聞かれたのは花野さんとの関係性。財前が素直に付き合うてる言うとみんな驚いとった。そら、花野さんと財前はタイプが全く違うからな。


「で、財前はともかく何で忍足も一緒におったんや」
「花野さんの靴と荷物探すの手伝ってたんですよ。俺ともうひとり……1組の水野さんと」
「ああ、そういえばあそこにおったな。今日は休みや言うてたけど」


ずっと黙っとる財前の代わりに俺は昨日の出来事を順を追って話した。
話が終わると先生等は俺たち2人に教室へ戻るように言うた。


「え、もうええんすか?」
「おお。お前らが何で昨日花野がプールにおるって知ってたんかを聞きたかっただけやからな。ほらさっさと教室戻り」
「はあ……」


多分俺らはいじめに関与してへんってわかってたんやろな。挨拶をして財前と共に進路指導室を出る。
しばらく無言で歩いとって、2年と3年の教室で別れるとこで財前が話しかけてきた。


「ケンヤさん、水野先輩にはもう関わらん方がええと思います」
「は?」
「何が理由で乙女を突き落としたのかは知りませんけど」
「ちょお、待て。歌がそんなことするわけないやろ?」


突き落としたのを見てないってのもあるけど、そもそもそんなことする理由があらへん。
歌は花野さんを助けとるんや。それは財前も知っとるはずなのに。


「けどあの人、昨日否定しませんでしたよね?」
「突然言われて歌も驚いてたねんて」
「は……。でも違うなら一言くらい言えますやん」
「あの状況で違う言うて、お前は信じるんか?」
「!」
「今もやけど、ちょっと頭冷しや」


今の財前はいつもより熱くなりすぎとる気がした。
こうなった奴に何言うても仕方ない。
軽く肩に手をやると、財前は俺の手を払いのけた。


「とにかく俺はもう水野先輩と関わりませんから」
「おい、財前」


呼び止めるのも無視して、先に教室に戻って行きおった。
……これじゃあいつもと逆やな。普段は俺の方が熱くなって財前が冷静にツッコミしてくるのに。
好きな子が絡んどるからしゃーないんやな。


「お、帰ってきた。何やまた頭のこと言われたんか」
「白石」
「受験生なんやから黒くしといた方がええで? 自分そこそこ出来るのにそれのせいでアホっぽく見えるからな」


教室に戻ると白石が近づいてきて話しかけてきた。
まあ俺が呼び出される理由なんて大体それやしな。余計なお世話だ、とテキトーにあしらおうとしたら、先に白石が口を開いた。


「ま、何かあるなら相談乗るで。俺に出来ることがあればやけど、な」
「は?」
「大変やな、お前の友達」
「!」


俺の友達って最初に話したときのことやろ。わかっとったんか。
軽く手を振って自分の席に戻る白石はやっぱり頼もしいやつやなって思ってしもた。

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