Dream | ナノ

気づいた時には遅かった


顔が熱い、多分今真っ赤やと思う。
走って家に帰り、急いで部屋に入る。リビングからおかんの声が聞こえるけど、今は無視してベッドに寝転んだ。


(言ってもうた)


顔を両手で覆ってベッドの上でごろごろする程、恥ずかしい。
明日、どんな顔して歌に会えばええんやろ。
ちゅーか、会ってくれるんか? 突っ走って、勢いに任せて言うてしもたからこの後のこと考えてへんかった。







連絡してみようかと迷っとる内に朝になっとった。いつも通り、待ち合わせ時間にその場所に向かう。もしおらんかったら今日は先に行こう。と思いながら近づくと、珍しく歌がおった。


「歌」
「おはよ、謙也」
「め、珍しいな、先に来とるなんて」
「うん。先に来てないと謙也と会えない気がしたから」
「ハハッ、見透かされとるし」


いつもは鈍いくせにこーいうとこは鋭いんやな。
嘲笑気味に空を見れば、俺の気持ちとは真逆に晴れとる。
あー、もう歌が言うこともわかっとるし、これ以上話聞きたないな。


「えっと、はっきり言うけど、ごめん。謙也のこと、そういう風には見れない」
「やっぱそやろな」
「えっ」
「いやな、昨日方々から色々言われてな。焦ってもーたんや。変なタイミングで言うてすまんかったな」
「……」
「んな、顔すんなや。前にも言うたやろ? 笑てる方がええて」
「……うん」


やや泣きそうな顔をした歌を見てたら、俺も泣きそうになってきた。
朝から最悪や。けど、気まずくなるよりはマシかな、なんて自分に言い聞かせて学校に向かった。







学校に着いたんはええけど、歌と別れて教室着いた途端に一気にしんどなった。
自席で伏せとったら白石が声をかけてきて、今朝のことを話しとったら目の前が真っ暗になる。
気づいたら白石に肩を借りながら歩いとった。


「お、大丈夫か?」
「あれ、俺」
「話しとったら急に倒れたからビビったで。とりあえず保健室行くで」


辺りを見回せば確かにそこは廊下やった。
まだ足元がふらつく気がする。ゆっくり階段を降りて、保健室につくとベンチに座らされた。


「あれ? 先生おらんわ。とりあえず横になっとき」
「お、おお」
「歩けるか?」
「何とか」


保健室のベッドに身体を預け、大きく息を吐く。
白石が向こうで何しとるんやろ。ガタガタ物音だけが聞こえてくる。
あ、あかん。また頭重なってきた。何かあっても白石おるからええか。
そのまま俺は意識を手放した。







遠くから聞こえるチャイムの音で目が覚めた。
外を見ると日が高くなっとる。時間を確認しようと起き上がると、その気配に気づいた養護の先生が声をかけてきた。


「おはよう、気分はどう?」
「はあ……今朝よりは大分」
「よく寝てたからね。もうお昼だけど何か食べれそう?」
「は、はい」
「熱はないみたいだし、調子いいなら教室戻ってもいいよ。まだ気分悪いなら親御さん呼ぶけど」
「や、戻ります。ありがとうございました」


お礼を言ってから保健室を出る。階段を登りながらため息をついてしもた。
午前中まるっと寝るとかあかんな。やっぱり睡眠は大事、やなあ。ちゅーか、今日ちゃんと寝れるやろか。
とか思っとったら、頭上から声が降ってきた。


「謙也」
「!」
「今朝倒れて保健室で寝てるって白石くんから聞いたんだけど大丈夫なの?」
「お、おお」
「そう、よかった」


思ってもいなかった歌の登場にびっくりして、言葉が出なくなった。
俺の姿を見て、安心したらしい。微笑んでいるように見えた。
が、すぐ俺に背を向けてしまう。


「歌?」
「じゃ、私教室戻るね」
「え、ちょ」
「謙也もちゃんと戻りなよ」
「っ、ま」


ーーガン!


先を歩きだそうとする歌を引き止めようとしたら、上の階の踊り場から音が聞こえてきた。
柔らかい金属が潰れるようなそんな音。昼休みはみんな食い倒れビルとか教室で飯食ってるから誰もおらんはずなんやけど……。


「何? 今の音」
「お、俺やないで」
「いや、わかってるから」


やっかいなことに巻き込まれそうやな、と思いながら歌が階段を登っていってしまったから着いていく。
階段を登っていくにつれて、今度は話し声が聞こえてきた。多分、女子で複数おる。


「……財前……んの周り……すんな!」
「……」
「み……迷惑して……だから」


あー、これ財前絡みや。最近部長になって人気が出てきたとかファンクラブの抜け駆けがどーこーってこの前小春が言うてたもん。
ちらりと歌を見ると、彼女は怖い顔をしとる。
こういうのあんまり好きやないからな、歌は。


「どないする?」
「そりゃ、決まってるでしょ」


ああやっぱり。と思っとる間に歌は彼女達の背後に向かっていった。
先生呼べばええんとちゃうんか。なんて言う間もあらへん。


「何してるの?」
「!」
「あんた、確か1組の、謙也の彼女?」
「彼女じゃない!」


はっきり彼女やないって否定されて、今朝のことが頭をよぎる。この言い方だと、俺のクラスの奴かな。卒業前に何しとんのや。
ガクッとしながらも俺は顔を出した。


「げ、謙也もおるんか」
「やばっ!」


と言いながら2人の女子はその場から逃げるように去った。すれ違いながら顔を見ようと思ったけど逃げ足速いな。俺には敵わんやろけど。
取り残された女子はポカンとしとる。ちらりと見ると結構可愛い子やった。


「大丈夫?」
「あ、ありがとうございました」
「別に、たまたま通りかかったから。怪我とかはしてない?」
「はい。大丈夫です」
「そう、ならよかった」


うちの学年ではあまり見ない子だから、多分後輩だろう。
しかし、財前も罪な男やな。こんな可愛い子にあんな怖い体験させるなんて。


「よかったら教室まで送るよ」
「え、でも」
「途中であの2人に会っても嫌でしょ? ボディガードもいるからさ」
「え、ボディガードって俺のこと?」
「うん。他に誰がいるの」
「……ふふっ」


俺たちのやり取りを見ていた女の子はくすりと笑った。
緊張が解けたようで、俺も歌も安心した。
落ち着いたところで階段を降りて、お互い自己紹介をした。


「2年7組の花野乙女です」
「私は水野歌。3の1だよ」
「忍足謙也や。クラスは3の2。すまんな、俺の後輩のせいで」
「えっ?」
「謙也は財前くんの先輩だからね。あ、昼休み終わっちゃうから歩きながら話そうか」
「は、はい」


歌も考えとることは一緒やったらしい。あとで財前くんに謝ってもらわないとねー、なんて言うてる。
けど、何となく花野さんの顔は暗い気がした。何でやろ?
と、歩いている途中で気づいた。確か、2の7って。


「っ、あ!」
「何? 謙也」
「あ……えっと……」
「あれ、ケンヤさんや」


財前のクラスやん。と気づいた時にはもう2の7の前やった。
ひょっこりと顔を出した財前を見た歌の顔は見たことがないくらいに暗くなっとった。

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