Dream | ナノ

ドキリと高鳴る


本当は学校に行きたくなかったけど休むわけにはいかない。
いつも通り、謙也との待ち合わせ場所に行けば彼はもういた。挨拶をして学校に向かい歩き始める。


「朝、涼しくなってきたね」
「ああ、せやな」
「運動部はこれくらいの気候のがやり易いだろうね」
「せやな」
「私、今日保健委員の当番だから先に帰っててね」
「ああ」


何を考えているのかわからない。あまりにも上の空だ。
学校に着いて、別れる前に昨日約束した世界史のノートを渡した時もぼんやりしていたし……季節の変わり目で体調を崩したのかな。


(今日は先に帰ってゆっくり休んでくれればいいけど)


当番、といっても怪我の手当ては先生がやること。私がやるのは他の雑務だ。
今日は学校内に貼り出されている保健だよりの貼り替えを頼まれた。だけど、そんな日に限ってもう1人の保健委員が休みでひとりだった。


「ひとりじゃ大変でしょ? 明日の当番に頼むから今日はいいよ」
「いえ、平気ですよ。そんなに重くないですし」
「そう? じゃあ悪いけどお願いね」
「はーい」


脚立と貼り替える新しい保健だよりを持って保健室を出た。
学校にある掲示板は全部で6個。もう部活をやっている時間だから校内には誰もいない。さくっと終わらせよう。


「水野さん?」
「白石くん」
「こんなところで何しとるん?」


最初の掲示板は保健室の壁面にある。そこに脚立を立てていると、白石くんが現れた。
保健室に何か用事があるのだろうか、彼の手には何かプリントがある。


「何って、保健だよりの貼り替えだけど」
「張り替えってひとりで? もうひとりは?」
「今日休んでるんだ。だから、私ひとり」
「そら大変やな。よかったら俺、手伝うで?」
「えっ、でも」
「これ渡すだけやし、放っておけへんしな。ちょお待っとって」


白石くんは私の返事も聞かずに保健室に入っていった。別に貼り替えるだけだし、そんな気にしなくてもいいのに。まあ確かに2人なら楽だけど。


「お待たせ。ほな、行こか」
「あ、うん」
「脚立はいらんかな、俺が貼ったるわ」
「えっ、でも白石くんは手伝いなんだし」
「俺の方が背ぇ高いんやから貼った方が早いやろ? せっかく2人でやるんなら無駄なく、な」
「ありがとう」


お礼を言えば、白石くんは優しく微笑んでいた。
その様はまさしく『王子様』で、皆がカッコいいと言うのも納得だ。







保健室の後は職員室前、下駄箱と貼り替え、次は各学年の掲示板。
1、2年の廊下は部活に行っているのかもう静かだったけど、3年の廊下はまだ賑わっていた。
もう引退したから部活はないし、みんなお喋り好きだから残って話をしているんだろう。


「よし、これでええやろ」
「ありがとう、助かったよ」
「いやいやこんくらい。大したことやないって」
「でも白石くん、背高いから脚立いらずなのうらやましい。私、上の方届かないんだよね」
「ハハッ、そら大変やな。そーいやケンヤも俺と同じくらいやで」
「え、そうなの?」
「俺の方が少し高いけどな。……なあ、今さらやけど、ケンヤ呼べばよかったんとちゃう?」


パンパンと軽く手を叩きながら白石くんは聞いてきた。
もしかして白石くんも私と謙也が付き合っていると勘違いしているんだろうか。


「もしかして、私と謙也が付き合っているって」
「いや、付き合うてないっちゅーのは聞いたで。でも、いつも一緒に帰ってるんやろ? ならどっかで待っとるんやないかなって」
「ううん。今日は先に帰ってもらった。今朝から様子が変だったから」
「変?」
「ずっと上の空で、話聞いてなくて。体調崩したのかなって思ったから」
「……」
「早く帰って、休んでもらった方が、って、何?」


突然白石くんの手が伸びてきて、私の頭に乗った。
びっくりして白石くんを見上げる。
どうしたのかと尋ねようとした、その時だった。


「ちょっ白石、何してんねん!」
「?!」
「お、ケンヤや」


声のする方を向けば、なぜか謙也がそこにいた。
先に帰っているはずなのに何で……? しかも怖い顔をしている。驚くことが連続で起こって、何も言えずにいると白石くんが話を始めた。


「何って、保健だよりの貼り替えやで」
「は、保健だより?」
「せや。今日1組の男子保健委員が休みらしくてな、水野さんがひとりで作業しとったから手伝ってただけや」
「そーやなくて! それで何で頭撫でてるん?」
「別に頭撫でてたんやなくて……」
「わ……っ」
「ほい取れた。髪にゴミついてたから取ろうとしただけやで」


白石くんの手にはかなり大きめの紙片があった。
多分、さっき保健だよりを貼り替えているときについたんだろう。呆然とする私と謙也を横目に彼はさりげなく私から古い保健だよりを取り上げた。


「貼り替えはこれで終わりやから、ちゃんと水野さん送ってやりや」
「え、ちょ」
「これ、保健室持ってっとくわ。ほな水野さん、またな」
「あ、うん。ありがとう」


改めてお礼を言うと白石くんは軽く手を振り、保健室の方へ歩いていってしまった。
残された私と謙也はそれをただ黙って見送る。しばらくしても謙也はぼーっとしていた。


「謙也、大丈夫?」
「!」
「先に帰ってって、紅葉ちゃんに伝言頼んだんだけど聞かなかった?」
「……聞いたけど」
「じゃあなんで先に帰ってなかったのよ」
「せやかて、歌が心配やし」
「不審者のこと? それなら大丈夫だよ。まだ明るいし」
「や、それやなくて」


いつもならもっと早く返事をするのに、今日はやはり歯切れが悪い。
やっぱり調子が悪いんだろう。謙也は私がいないと帰らないようだし、私も帰ろう。
白石くんには、明日ちゃんとお礼を言おう。


「今日は私も帰るから一緒に帰ろ?」
「お、おお」


謙也が返事をしたので2人で下駄箱に向かう。
一緒に歩いている間も、謙也は無言だった。いつもやかましいくらいしゃべり倒すのに。
調子が悪いなら私から何か話しかけて、負担になるのも嫌だから黙っていた。


(やっぱり体調悪いのかな)
「……なあ、歌」
「んあ?」


謙也が急に話しかけてきたもんだから、変な声で返事をしてしまった。
いつもなら何やその返事、とか言うんだろうけど、今日はそんなことせずに話を切り出してきた。


「昨日、俺が失恋したって話したの覚えとる?」
「うん。覚えてるけど、それが?」
「……その相手、教える気なかったんやけど今教えとくわ」
「えっ」
「俺が失恋した相手はお前や、歌」
「!」


謙也はそれだけ言うと一気に顔を赤くして、走り去ってしまった。
突然された謙也からの告白に、私の胸はドキリと高鳴った。

prev  next
目次には↓のbackで戻れます。

BACK
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -