Dream | ナノ

苦しくて、ズキリと痛む


小学生の頃から俺は歌のことが好きやった。
せやから、歌を送って欲しいとおじさんとおばさんに頼まれて、歌本人が了承した時はめっちゃ嬉しかったんや。


(もしかしたら歌も俺のこと好きなんやないかって勝手に思い上がってたわ)


でもよお考えたら親に言われて仕方なく、だったんやな。他に好きな奴がいて、しかもその相手が知り合いだなんて思いもせんかった。


「財前なんて、なあ……」
「何や、財前と何かあったんか?」
「!」
「そんな驚くことないやろ」


教室で歌から借りた世界史のノートを見ながら予習しとったら白石に話しかけられた。
びくりとした俺を不審に思ったのか、怪訝そうな顔をしとる。


「さっきからノート広げたまま黒板見とるから何してんのかと思ったんやけど。財前とケンカでもしたんか?」
「いや、そうやないけど……」
「悩みあるなら聞くで」
「えっ」
「ケンヤには世話になったからな。部活ん時、俺の話聞いてくれたやろ?」


ああこいつ笑っても男前やな、惚れるわ。
って、昨日の事は話すなって歌に言われとるしなあ。名前出さなかったらバレんかな。
俺の友達の話っちゅーことにして、歌や財前の名前も出さずに昨日の事を話した。


「ああ、よくある三角関係っちゅーやつやな」
「こんなときどうすればええかなって、考えてしもてな」
「うーん。俺やったらとりあえず様子見、するかもな」
「様子見?」
「その、友達の後輩は付き合いたてほやほやなんやろ? もしかしたら些細なことで別れるかもしれへんし」
「そうか?」
「俺の姉ちゃんは割とそういうことあるで」


突然、遠くを見るように窓の外を見始めた白石。あ、これ以上聞いたらあかん奴や。姉妹に挟まれとるから何かと大変なんやろな。
で、不謹慎やけど別れたらまだ彼女にはチャンスがあるから応援してやれっちゅーことやな。


「あれ? でも俺にチャンス無くなるやん?」
「ケンヤ」
「ん?」
「友達の話、やろ? 何でお前が出てくんねん」
「……っあ!」


うっかり自分のことだと言ってしまった。
こらもう隠せへんな。けど、白石は歌のこと知らんはずやし。
歌との約束は破ってへん、大丈夫や。開き直って机に突っ伏す。


「せや、俺のことや」
「ご愁傷さまやな」
「……失恋した俺を慰めてくれ、白石」
「そこまでは俺もサービス対象外や」
「冷たっ! 白石冷たっ! あーもう今度からくーちゃんって呼んだるわ!」
「呼んだらお前がこんな話してたんやけど、って水野さんにチクるで」
「!?」
「友達の話、て前置きしたっちゅーことは水野さんには内緒にしといてとか言われたんやろ?」


さすが白石鋭い奴や。推理もんの話書いてるだけある。って、それより何で歌のこと知っとるんや。しかも一緒に帰っとるってことまで。
俺が目を丸くしとると白石はため息をついてから懇切丁寧に説明をしてくれた。


「ケンヤ、水野さんが何委員か知っとる?」
「保健委員やで?」
「このクラスの保健委員は?」
「……お前や」
「せやろ?」
「あと、何で俺が歌と一緒に帰ってること知っとるん?」
「この前の委員会ん後、水野さんと帰っとったの見ただけやで」
「ああ」


以前、先に帰っていいって言った歌を待っとったことあったなぁ。
あれ委員会やったんか。そして白石に見られとった、と。


「せやから、もう付き合うとるんかと思ってたんやけど」
「まさかの片想いなんや」
「さっさと好きって言えばええやん」
「振られんの確定で告る奴がどこにおるん?」
「確定やないで。一発逆転の大チャンスが……ないなぁ」


彼女が財前のことを好きでいる以上、そんな隙はどこにもないわけで。
白石が苦笑いを浮かべたところで、ちょうど授業の開始を告げるチャイムが鳴った。







放課後、歌の教室に行くと歌の友達に声をかけられた。
何でも今日は保健室の当番が入っとるらしく、先に帰って欲しいと伝言を頼まれたらしい。


「え、あいつそないなこと言ってへんかった」
「やっぱりねー。朝言ったけどボーッとしてたから聞いてなかったかもって言ってたよ」
「そっか、すまんな。ありがとう」
「いいえー。で、ちょっと聞きたいんだけど」
「何や?」
「歌と付き合うてるの?」


歌の友達は目をキラキラさせて聞いてきた。
財前に白石、そして彼女。俺たちが付き合うてるって噂は結構広まってるのかもな。


「残念ながら。ただのご近所さんやで」
「そうなん? てっきり歌が意地張って付き合うてないって言ってるだけかと思ってた」
「ははっ、あいつ意地っ張りやからな」
「……そうだね」


彼女はふっと笑いながら自分の鞄を持った。お礼を言って、俺も時間潰してこようと1組を出ることにする。
が、その前に彼女が話を始めた。


「噂で聞いたんだけどさ」
「うん?」
「白石蔵ノ介が歌のこと好きってホント?」
「えっ」
「知らなかったんだ。まあ、早く告白しないと取られちゃうよ? 浪速のスピードスターくん!」


じゃーねーと彼女は軽く手を振りながら俺の横を通り抜けて帰っていった。
白石が歌を好き? いやいやそんなことないやろ。昼に相談した時そないなこと全然見せへんかったし。
……でも白石が自分の気持ちを隠して、相談に乗ってくれてたんやとしたら?


(あかん、頭こんがらがってきた。とりあえず出るか)


いつまでも他クラスにおるのも気まずいしな。
何にせよ、歌の委員会が終わるまで時間は潰さな。どうするかと思いながら1組を出ると目の端に見覚えのある姿を見かけた。


「あれ、って」


そちらを見ればやはりやった。歌と隣にいるのは白石や。何や歌は、今日保健室の当番やなかったんか。
声をかけようか迷っていたその時、白石が歌の頭に手をやった。


「!」


さっき歌の友達の話を聞いてなかったら何も思わなかったかもしれん。
けど、今、この胸を締め付けられるこの感じは何や? 苦しくて、ズキリと痛む。
気がついたら俺は2人の元へ走り出していた。

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