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ちょっと、おかしくない?


もう11月になるというのに、その日はとても気温が高かった。最高気温20℃、おでかけ日和だと言っていたのが余計に恨めしい。


「お、来たな」
「お待たせ。動きは?」
「まだあらへん。時間までは聞いてへんかったからな」


時計を見れば午前9時を指していた。午前中から動くならこれくらいに待ち合わせをするかなって時間だ。
花野さんが白石くんを迎えに来るって話だけど……普通逆だよね?


「ねえ、謙也」
「ん?」
「男子って普通デートの時に、女子に迎えに来て欲しいもん?」
「……えっ?」
「いや、何か引っ掛かって。本当にデートなら白石くんが迎えに行くでしょ? 彼なら尚更」


家に帰って頭が冷えたところで改めて考えるとやっぱりおかしいなと思った。
有り得ないって気持ちは確かにあるけど、何か恋愛感情とは違う理由があるんじゃないかって。白石くんなら好きになった女の子に迎えに来て欲しいなんて思わないんじゃないかな。


「うーん……言われてみればせやな」
「でしょ? だからこれデートじゃないのかも」
「俺も、そう思いますわ」
「「?!」」
「すんません。驚かせて」
「ざっ……財前!」


急に増えた声に驚き、謙也と共に振り返れば自転車に乗った財前くんがそこにいた。
一応顔を隠しているのか黒い帽子を被っている。財前くんのファンが見たらかっこいいって思うんだろうな。


「て、ちょお待て。最初に浮気や言うたんは自分やろ?」
「そうなんすけど、実は今朝乙女から連絡があって」
「連絡? 何て?」
「……今日、白石部長と出かけるけどあんまり詮索しないで欲しいって」
「えっ!」
「何で?!」
「いや、理由聞いたんすけど返事なくて。ほなら白石部長に直接聞いたろってここまで来たんすわ」


なるほど、だから自転車があるのか。って、そうじゃない。
何で花野さんはわざわざ財前くんにそのことを伝えたんだろう? 浮気とか、後ろめたいことがあるなら黙っているだろうし。


「で、先輩等は何してるんですか?」
「この前保健室で、白石と花野さんが今日一緒に出かけるて約束してんの聞いてな? さすがに止めたらなって思ってたんなけど……って、何やあれ」


驚く彼の視線を辿れば、住宅街には似合わない高級車が角を曲がってきた。
思わず電柱の影に隠れる。と、その高級車は白石くんの家の前で止まった。
運転席から黒いスーツを着た男の人が降りてきて、白石家のチャイムを押す。
何かやり取りをして、しばらくして出てきたのは私服姿の白石くんだった。


「し、白石!」
「!」


みんな気配を消して様子を伺う。スーツの男性は白石くんを後部座席の方へと導いた。
静かに、ドアが開く。中にいる誰かと言葉を交わしている。
そのまま白石くんは中に乗り込み、車は発進した。


「何やあの高級車」
「って、もしかしてあれ花野さんなんじゃないの?!」
「……え……あっ!」
「確かに、あれ乙女の家の車っすわ」
「財前くん、知ってるの?」
「ええ。付き合う前に何度か送ってもらったことあるんで」


なるほど、花野さんが車で迎えに来るってことなら白石くんが迎えを頼むのも納得だ。
て、これじゃあ追跡できない。タクシー拾って追ってくださいってそんなドラマじゃあるまいし。


「財前、チャリ借りるで」
「!」
「わかったら連絡するからとりあえず駅で待っとけ!」
「ちょ、謙也!」


私が呼び止めるのも聞かず、謙也は自転車を漕ぎ始めた。
自転車はあっという間に見えなくなって、さすが浪花のスピードスターだななんて感心してしまう。


「とりあえず俺等は駅行きましょ」
「う、うん」
「大丈夫っすよ、あの人スピードだけは頼りになるんで」
「スピードだけって……」


謙也はそれ以外にも頼れるとこがあるんだよ、なんて言ったら完全にのろけだよね。
曖昧に苦笑いを浮かべて、彼と共に駅の方へと歩き出した。







駅についたのと同時に謙也から連絡が来た。車は町外れにある植物園で停車してふたりだけで中に入っていったらしい。
言われた植物園は電車とバスで30分程のところだ。


「懐かしいな、ここ。小学校の遠足で来たよ」
「俺もっすわ。趣味の悪い食虫植物とか、昆虫の展示とかばっかで。変な臭いするし、はよ帰りたいって思いましたもん」


チケットを買って謙也に連絡を入れると、昆虫を展示しているコーナーにいると返ってきた。
園内地図を見て急いでそこに向かう。と、私たちの姿を見た謙也が早足で近づいてきた。


「遅い」
「しゃーないでしょ。こっちは公共交通機関で来たんですから」
「で、ふたりは?」
「中入ったきり出てきてへんで。もう30分くらいになるか」
「あの謙也さんが30分も待てるようになったんですか」
「すごーい」
「……お前ら、俺のこと何や思とるねん」


あの謙也が30分も同じところにいた感動を財前くんと分かち合った後、頷きあってそっと中に入る。
中は展示している虫たちが快適に過ごせるようになっているのか蒸し暑くて、特有の臭いが立ち込めている。
普通はあんまり長居したくない場所だと思うんだけど……。


「えっ」
「痛っ」
「うぉ」


少し進んだところで先頭を歩いていた謙也が立ち止まった。余所見をしていたからその背に思いっきり頭をぶつけてしまう。財前くんも同じだったのか、後ろから驚くような声が聞こえた。
どうしたの、と謙也の顔を覗きこもうとしたけどその前にわかってしまった。
私たちの目の前には人だかりが出来ていて、その中心でなぜか向き合う白石くんと花野さんがいたからだ。


「さあ、昆虫コーナー名物! 持ち込み可! 甲虫相撲大会! ついに決勝戦だ! 対するは前回チャンピオン白石蔵ノ介とカブリエル! それを迎え撃つチャレンジャーは、何と美少女! 花野乙女とビート丸だ!」
「ここまで上がってくるとはさすがやな、花野さん」
「全力で挑ませていただきます」


静かに闘志を燃やすふたりを横目に、私たちは顔を見合わせてしまった。
つまり、ふたりはこれに出るためにここに来たってこと? 目の前でゴングが鳴る。一気に力が抜けた私たちは一旦建物の外に出ることにした。

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