Dream | ナノ

これが真実


建物中からどよめきと共に拍手が聞こえる。どうやら勝負がついたらしい。
財前が買うてきたお茶を飲みながらため息をつく。
何か最近、こーいう勘違い系の話多くないか?


「思い出しました」
「ん?」
「何を」
「乙女が退院して、初めて保健室登校して来た時に話たんすよ。こっちにいる間に一度ここに来たいって」
「で、お前は何て?」
「……さっき水野先輩には少し言いましたけど、ここ変な展示しかない記憶しかなくて、行ってもおもんないって言いました」


なるほど、それで花野さんは財前を誘いづらくなったんやな。で、保健室でよお話すようになった白石を誘ったっちゅーところやろ。
恋愛感情なんて全くなかったから財前にもちゃんと報告したっちゅー話か。


「あのさ、謙也」
「うん?」
「さっき、白石くんのカブトムシの名前聞いてた?」
「カブトムシの名前?」


ちょっと怖い目で俺を睨みながら、歌はお茶を飲んでいる。財前は何のことかわからんのか首を傾げとる。
言われて思い出すが、花野さんと白石がカブトムシ相撲で対決している光景が強烈すぎて司会のおっさんが何て言っていたかまでは思い出せない。


「何やったっけ」
「カブリエル、だってさ」
「…………えっ」
「だから、カブリエルっていうのは白石くんの彼女なんかじゃなくてあのペットのカブトムシだったってこと」


歌の発言に財前は全てを察したらしい。ちゅーか俺も花野さんとの関係性に気を取られててそっちのことが抜けとった。
白石が彼女ではなく、ペットとの馴れ初めを話していたならあの話も全部納得がいく。


「白石くん、カブトムシだって前置きしてなかったの?」
「お、おお。もしかしたら言うてたかもしれんけどうっかり聞き逃しとったかもな」
「謙也のことだから、名前がカブリエルで外国人だって思ってそこでショック受けちゃったんでしょ?」
「お、さすがやな、歌。1こけしやるわ」
「結構です」


ずばりと断られてしもた。ふと、財前を見ると呆れたようにこちらを見ている。
この件については何とも言えん。完全に俺のミスやな。


「で、これからどうする?」
「このまま黙って帰るのもありかもしれませんけど……それじゃあかんすわ」
「せやな。ふたりが出てくるの待つ」
「ん、謙也? こんなとこで何してんねん」


俺の言葉を遮るように後ろから声をかけられた。振り返ればやはり、白石が立っていた。
どうやら中のイベントは終わったらしい。パラパラと人が出てきとる。


「白石」
「水野さんとデートか? って、財前もおるっちゅーことは……」


どうやら俺たちがここにいる理由を察したらしい。白石はふっと笑って振り返った。
そこには何か荷物を大切そうに抱えた花野さんが泣き出しそうな顔をして立っとった。







あの後、植物園のベンチに座りそれぞれに話をした。大体は俺の想像通り。
花野さんは昔からカブトムシが好きで、よお飼っていたらしい。で、この植物園で行われる月1回のカブトムシ相撲の大会に出たいとずっと思っていたそうだ。


「しばらくこちらにいると思っていたらあんなことになって……転校先は府外なのでもうここにも来れなくなるなと思って」
「で、それとなく俺を誘ったけど俺が難色示したからそれ以上言えんくなったんやな」
「……はい」
「それで何で白石部長と行くことになったんや?」
「それについては俺から説明させてもらうわ」


軽く手を挙げた白石が話始めたのは保健室での話だった。財前に難色を示された後、花野さんはひとりで行こうと思っていて、日程を調べていた。
それをたまたま当番でそこにいた白石が見て、声をかけたらしい。


「ここのカブトムシ相撲大会に興味持つ人がいるんが嬉しくてな、仕事ちゃちゃっと終わらせて話し込んでしもたんや」
「そんなことが何回かあって、光くんにも話の内容を聞かれたけど答えにくくて」
「何で?」
「……こんな、虫が好きなんて変でしょう? 私、小学生の時もそのことでからかわれて……嫌われたくなかったんです」


今にも泣き出しそうに、花野さんは俯いてしまった。まあ確かに、女の子にしては変わった趣味やからな。財前も虫はあんまり好きな方やないやろし。
すると、財前はため息をついたあとベンチに座る花野さんの前にしゃがみこんだ。


「乙女」
「……はい」
「もうこれ以上隠しとること、ない?」
「はい、ありません」
「ほなら、ええよ。最初に俺が植物園のこと断らなかったらこんなことにはならんかったんやし」
「そんなこと」
「乙女が行きたいっちゅーたんやから、嫌やて言わなければよかったんや。ごめんな」


ボロボロと泣き出す花野さんは勢いよく財前に抱きついて、財前もそれを受け止めてよしよしと背を擦っとる。
これ、俺等邪魔やな。軽く財前の肩を叩いた後、歌と白石に目配せをして俺たちはその場を離れた。







財前にチャリを一旦俺の家に持ち帰ると連絡していると歌に声をかけられた。
さっき、植物園の出口でバスと電車で白石と帰るように言ったのに何でここにおるんや。


「何で戻ってきたん? 電車で帰ってええんやで?」
「何で?」
「やって、こっから歩きって結構ある」
「いいよ」


乗って帰ろうにも財前のチャリは荷台のないタイプやったから、押して帰るようだと伝えても歌は構わないと言った。
まだお昼を少し過ぎたところやから寒くはない。いい天気やなあ。


「今日はおでかけ日和だって天気予報で言ってた」
「へえ、そうなんか」
「だから、帰るだけだとしても、一緒にいたいなって思ったんだけど」
「!?」
「謙也は……そんなことないの?」


慌てて歌の方を見れば、頬を真っ赤にしていた。一瞬風邪かと思ったけど違う。照れてるんだってわかった。


「じゃあ、今からどっか行くか」
「えっ」
「ええで、歌の行きたいとこどこでも。どっかあるん?」
「じゃあ……とりあえずお腹空いた」
「せやな」


昼飯食いそびれてたからな。これからデートやのに、腹空かしたまんまじゃああかんよな。
まずはどっかで飯食って、それからダラダラ歩いて寄りたいところ寄りながら帰るのもありかな。
俺は歌がおれば何しててもどこにおってもそれでええんやから。

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