Dream | ナノ

白石の彼女


白石と花野さんの浮気疑惑に加えて、白石の彼女のことまで探ることになった。
っちゅーかみんな俺使い荒くない? 俺は何でも屋やないっちゅーに。


「さて、まずは白黒がはっきりしそうなことから片付けるか」


ふたりの浮気疑惑は実際見とらんから何とも言えんけど、白石の彼女の有無は聞けばわかることや。ちょっと早めに教室に戻ってみれば、白石はもう自席について授業の準備をしとる。


「なあ白石、ちょっとええか?」
「ん? 何や?」
「……あんな、お前って彼女とかおるん?」
「えっ?」
「ああ、いやそんな噂聞いたもんやから。話とうないなら話さんでも」
「彼女、っちゅーか大事な奴はおるで」


話さなくていいと言われればそれまでだと思ったんやけど、白石は普通にそう答えた。
やっぱりおるんか、さすが白石。っちゅーか俺におってこいつにおらんわけないもんな。


「どんななん?」
「え、何が?」
「やから、その、大事な奴?」
「……ああ、そーいやまだ謙也には紹介してへんかったな。ええで、教えたる」


パッと白石の表情が明るくなった。そして急に目を閉じて昔を懐かしむような顔をする。
あ、もしかしてこれ話長なるパターンか? と気づいたけどもう遅く、話を始めていた。


「俺とあいつ、カブリエルが会うたのは夏の暑い日やった」
「え、ちょ待って何?」
「何や急に」
「カブリエルって何? 名前?」
「せやで」


白石の口から飛び出した名前がどう聞いても日本人名ではなく絶句した。何やカブリエルて。天使かっちゅーに。


「でな、俺の指をつかんで離れへんくて。振り払えないどころかよくよく見たらかわええなって思って。で、家に連れ帰ってん」
「はあ!?」
「……今度は何や」
「いきなり家連れて帰るって何なん!?」
「やってあいつ何処に住んでたのかわからんし。帰るとこもないんとちゃう?」
「……」
「はい、こっからは質問とツッコミなしな。最後まで話聞いてや」


白石、それ拉致監禁なんやないの? カブリエルさんの家族探しとるんとちゃうか?
いやけど家出人っちゅー可能性もあるんか。何かその間にも色んなこと話してた気がするけど頭に入って来なくて。気付けば白石はカブリエルさんの魅力を語り始めてた。


「カブリエルの一番の魅力はやっぱり体やな。艶やかなブラウンのボディに頭からしゅっと伸びた一本角。まさにエクスタシーやで? それとな目もつぶらで中々にかわええんや」
(艶やかなブラウンボディって何や、色黒っちゅーことか? 頭から一本角てつまりポニーテールのことやろなぁ)
「それとな、体めっちゃしっかりしてんねん」
「……グラマラスっちゅーこと?」
「グラマラス……うーん、まあそんな感じかもな」


照れたように笑っとるけど、白石お前……。人畜無害そうな顔しとるのにそんな犯罪を犯しとるなんて。
けど、何で花野さんとも仲良おしとるんや? そんな必要あらへんやろ。彼女おるんやから。


「……カブリエルさんの魅力はわかった」
「お、マジか。ほなら今度のにち」
「それと、花野さんと最近よお話とるっちゅーのは何でなん?」


何か言おうとしてるのを遮る形で質問すれば白石はポカンとしてしもた。
あ、今遮ったらあかんかった気ぃする。怒るかなって思ったんやけど、白石は普通に笑っとった。


「悪いけど、それは俺の口からは言えんわ」
「なっ」
「また財前と花野さんのことに首突っ込んどるんか。こればっかりは2人の問題やと思うで?」
「ふっ……ふたりて」


何で白石はこないに無関心なんや。ちゅーか自分もがっつり当事者やんけ。
こんな修羅場大したことないとか思うとるとしたら……こいつとは絶交や!







その日の放課後、わざわざ迎えに来た歌に聞いたことを話したら案の定な反応をされた。
まあ普通そういう反応になるわな。さすがにカブリエルさんを拉致監禁しとることは伏せたけど、な。
それから財前の言うことを確認するために保健室に行って、そこで見たんは……。


「なあ今のって」
「もしかしなくても」
「「だっ……W不倫っ!」」


こんな言葉、歌とハモらせなあかん日が来るなんて思いもせんかった。
白石が去った後、そっと保健室を覗けば花野さんは少し落ち込んどるように見える。


「どないする?」
「一応話聞いておいた方がいいよね?」
「せ、せやな」


歌と頷きあって立ち上がる。そっと保健室のドアをノックすれば花野さんと目が合った。
彼女と会うのは本当に久しぶりになる。


「失礼しまーす」
「花野さん、久しぶりだね」
「水野先輩、忍足先輩、お久しぶりです」
「退院したって財前くんから聞いてね、おめでとう」
「ありがとうございます」


礼儀正しく頭を下げる花野さんはどう見ても浮気しとるような子には見えない。うーん、やっぱり勘違いなんかな? けどさっきの白石との話はやっぱり聞き捨てならへん。


「あ、そういえばさっき白石くんが保健室から出てきたじゃない?」
「えっ」
「私たち反対から来たから顔合わせなかったんだけど白石くんと何か話してたの?」
「……!」


色々考えとる間に歌が突っ込んだ質問をしていた。慌てて意識をそちらに戻す。花野さんは白石と言う名前にかなり反応しとった。


「……いいえ? お話したこともありませんけど」
「そうなの?」
「はい。ああ、でもご挨拶はしました。光くんの先輩ですし」
「そっか。テニス部新旧部長だもんね」


笑顔で話とるけど、誤魔化すっちゅーことは何か隠したいことがあるんやろ。
同じことを思っとるんやろ、歌の顔は少し暗くなっとるように感じた。







そのまま保健室で財前が来るまでテキトーに話をして、俺たちは保健室を出た。
校門をくぐるまでの間、ずっと無言やった。誰かに聞かれたらまずいっちゅー気持ちがあったからやろ。



「……これってもう確定なのかな」
「せや、な」
「嫌だな、やっと仲直り出来てふたりでやり直して行って欲しかったのに」
「歌」
「こんな形で終わるの見たくない」


ぎゅっと唇を噛み締める歌の手をそっと掴む。と、びっくりしたように顔を上げて俺の方を見た。
あ、そーいや付き合い始めてからこういうのするの初めてちゃう?


「……せめて俺らで止めたらんとな」
「えっ」
「白石と花野さんのこと。やり直せるかどうかはわからんけど、間違うてることは伝えんと」
「……」
「それが友達の俺らが出来ることやと思うで?」
「うん」


小さく頷いたのと同時に歌の手をぎゅっと握り返す。したら歌もぎゅっと握り返してきた。
財前が怖い顔して来た時、先に歌を帰しとけばよかったかな。こんな気持ちになるの俺だけでよかったんや。

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