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文化祭実行委員会


視聴覚教室に入るとすでに10人程が集まっていた。席はどこでもいいと前のホワイトボードに書かれている。誰か知り合いの近くに、と思って辺りを見回していると教壇に柳くんがいるのが目に入った。他にも数人いてその中には見たことのある人もいる。


(柳くんと、確か片倉くんだっけ)


どうやら中等部で生徒会に所属していた人たちが集まって打ち合わせをしているようだ。その中でも柳くんは背が高いから頭ひとつ出ている。先生みたいだな、なんて思ってしまった。


「歌、おはよう」
「!」
「何、そんな大袈裟に驚いて……ああ、なるほど。やっぱり思った通りだったわけか」


後ろから声をかけられて大袈裟に驚いてしまった。けど、声をかけた当の本人、乙女は私の視線の先に柳くんがいることに気づいて理由を察したらしい。
そんな話をしている間に視聴覚室に人が入ってきて、席が埋まり始めていたので慌てて並びで空いていた席に座った。


「さて、と。割り振りどうなるかな」
「割り振り?」
「うん。文化祭の実行委員っていくつか分担があってね。基本的にはその分担された係毎に動くの」
「係ってどんなのがあるの?」
「会計、広報、ステージ運営、会場設営、クラス担当……だったかな」


その中だと柳くんはどこになるんだろう。計算が得意だし会計かな? ああでも広報で宣伝の戦略を立てたり、ステージのタイムスケジュールを作るなんてのも出来そう。どこの担当になってもおかしくないくらい、私の好きな人は多才だ。
と、教壇側のドアが開き花野先輩や生徒会の役員、先生数人が入ってきた。ざわついていた教室は一気に静かになり、先輩がマイクを調整して話を始める。


「えーっと定刻になりましたので海原祭実行委員会を始めます。まず、今回実行委員長を務めます、3年1組の花野紅葉です。よろしくお願いします」


ぺこりと頭を下げると拍手が起こる。立海の生徒会長は色々な実行委員の長を務めるから相当大変だろう。他人事ながら先輩のことを心配してしまった。その後、この文化祭の趣旨やら伝統やらの話をした後、スケジュールや各係の説明などの本題に入った。


「次の全体会は来月10日の登校日です。それまで各係での活動をお願いします。では、各係の名簿を配布しますのでこの後は各係長の指示に従って行動してください」


先輩の指示に従って立ち上がったのは柳くんや片倉くんといった元生徒会の1年生たちだった。前の人からプリントを受け取って後ろに回す。まず探すのは自分の名前だ。


「私、総務……って何?」
「あ、私もだ、さっき説明にあったっけ?」
「てか、何この係、片倉、柳、幸村……仁王までいる」


乙女が驚く理由もわかる。この総務には幸村くんや柳くんといった人気のある人がかなり振り分けられていた。うちのクラスでも幸村くん目当てで立候補した女子たちは納得できないだろう。
他にも総務係について気づいたのかざわざわと話し声が大きくなってきた。


「えっとすみません、総務について説明し忘れていましたので説明させていただきます!」


騒ぎの理由に気づいた花野先輩がまたマイクを持って話始めると、教室内はすぐ静かになった。
説明によれば、総務は今年から作ったいわゆる生徒会の補佐をする係になるそうだ。
というのも生徒会の役員は係の長を担う以外にも受付や来賓の案内、当日の見回り、後片付けの手配までやることが多岐にわたり毎年忙しく動き回っている。だから手が回らず、毎年小さなトラブルがいくつか起こってしまうそうだ。それをなくすために委員から数人、補佐として人員確保した。
また、準備期間中は部活を優先してもらい、参加できる時だけ準備には参加してもらう、人手が足りない他の係への助っ人も頼む可能性があるらしい。


「なので総務係は当日動いてもらうことを前提に準備にあまり参加が出来ない部活所属の生徒と去年の中等部生徒会役員を中心に割り振らせていただきました。あと、推薦があった人、文化祭の役員に積極的に立候補した人も数人入ってもらっています」


先輩の選考基準に納得したのか、みんなうんうんと頷いている。確かに先輩のいう選考基準ならクラスで最初に立候補した私と乙女が割り振られるのも納得できる。
では各係の場所へと改めてアナウンスされて、総務の活動場所を見ると視聴覚教室と書かれていた。


「総務、か。お姉ちゃんもめんどくさそうな係作ったわね」
「え、そうかな」
「そうだよ。ま、歌は柳と同じ係だし、嬉しいか」
「なっ……うん、まあね」
「素直でよろしい」


好きな人のために立候補したのが報われた、花野先輩ありがとうだなんてちょっと前までは絶対に抱かなかった気持ちだ。その柳くんはどこか、と探せば窓際前方の席にいる。左隣には片倉くん、右隣には幸村くんがいる。ふと、幸村くんの右隣に今朝、見かけた銀髪の彼がいて何か話をしているのが目に入った。


「あの人、幸村くんの知り合いだったんだ」
「うん? ああ仁王?」
「乙女知ってるの?」
「知ってるも何も中学テニス部の元レギュラーだよ。仁王雅治」
「仁王ってすごい名字」
「それ言ったら幸村だってそうでしょ」
「俺が何だって?」
「ぎゃっ!」


急に聞こえた声に顔を上げれば、目の前に幸村くんがいた。どうやら私と乙女の話の中で自分の名前が聞こえたらしい。ニコニコしながら空いた前の席に座った。


「あんた、いつの間に」
「俺の名前が聞こえた気がしたから。何か用かなって」
「用なんてないからさっさと戻りなさい」
「辛辣だな」
「はい、そろそろ総務係の話始めます。席についてください」


乙女がしっしっと手で幸村くんを払う仕草をしたのとほぼ同時にまた花野先輩が話始めてしまった。戻るに戻れない幸村くんは仕方なくなのかそのまま前を向く。その後ろ姿に乙女は口をへの字に曲げて拒否反応を示していた。どれだけ幸村くんのこと苦手なんだ。


「まず、総務の係長を務めます花野紅葉です。よろしくお願いします。ってなわけで自己紹介しましょうか。これから2ヶ月近く一緒に動く仲間になるわけだし。名前とクラスと何か一言くらいでいいので」
「えぇ……」
「じゃあ窓際前から横いって、端までいったら後ろの人ね。じゃあ、そちらの彼からどうぞ」
「彼って、先輩俺のこと知ってるっしょ」


はあ、と大袈裟にため息をついて立ち上がったのは片倉くんだった。クラスと名前、去年生徒会長だったこととよろしくお願いしますとだけ言って席に座った。パチパチと拍手が起こり、収まったところで立ち上がったのは柳くんだ。


「1年2組、柳蓮二。テニス部に所属しているので準備期間はあまり参加出来ないかもしれませんが出来る限りのことはするつもりです。よろしくお願いします」


久々に聞いた柳くんの声は低めで落ち着きがあって心地よく響いた気がした。
軽く手を叩きながらもっと近くに座れればよかったなとちょっとだけ悔やむ。
その次に立ち上がったのは1席空いて隣にいた、例の彼だった。


「仁王雅治。1年6組。よろしく」


あっさりとした、というよりはしすぎている自己紹介に呆気にとられてしまった。けど、内部生の人たちはあまり驚いていないように見える。幸村くんなんかは「相変わらずだな」なんて呟いているし。
それから何人か自己紹介が続いてとうとう私の番が回ってきた。


「いっ、1年4組、水野歌、です。えっと……今年から立海に入ったのでわからないことがあって、迷惑をかけるかもしれませんが……精一杯やらせていただきます、よろしくお願いします!」


しどろもどろになりながらも自己紹介をして最後に軽く頭を下げれば周囲から拍手が起こった。一安心して席につき、前を見ると半身で後ろを向いていた柳くんと目が合った。


「!」


隣で乙女が自己紹介をしている声が遠くなったのは、柳くんが微笑んで、小さくだけど手を振ってくれたから。一気に心拍数が上がって咄嗟に目を逸らしてしまった。

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