Dream | ナノ

弾けるアイスと苦い顔


アイスクリームショップの中は冷房が効いていて涼しかった。涼しさに癒される。ここが天国かーだなんて思っているとショーケースの前に10人くらいが列を成しているのが目に入った。ふと店内を見るとポスターがあちこちに貼ってある。そのほとんどがフレーバーをふたつ頼むと割引になるキャンペーンを知らせていた。


「結構混んでるね」
「いや、そうでもない。すぐに番は来るだろう」
「え、そうなの」
「ああ。カウンターの中の店員の数と客の数、受け渡しまでの時間が……。そうだな、3分程度だろう」


言いながら柳くんはすっと並んで、ショーケースの中を見ている。私も隣で中を覗いてみたけど、新作のフレーバーはどれもピンとこない。だからいつも食べているものにしようと決めた。
そして確かに柳くんの言う通り、前の人はどんどん進んでいく。こんなことも計算で求められるんだからすごいなと感心してしまった。


「水野は何にするか決めたのか?」
「うん。ポンポンシャワーと、ストロベリーにしようかなって思ってる」
「確か、口の中で弾けるというやつだったか」
「そうだよ。好きで結構食べてるんだ」
「なら俺も1つはそれにしよう」
「えっ」
「お次のお客さま、お待たせしました」


柳くんが私と同じものを選ぶなんて、ちょっと意外だった。いやいや前から気になってただけだよ。私が頼んだからとか関係ないよね。そんな風に自分を落ち着かせている間に柳くんがオーダーをしている。どうやら私の分も一緒に頼んでくれたようだ。


「あ、ごめん。ぼうっとしてて」
「カップにしたがよかったか」
「うん。大丈夫、ありがとう」
「そうか。席も空いているし、店内で食べていくか」
「だね。外暑いからすぐ溶けちゃいそうだし」
「ポンポンシャワーとバニラ、ポンポンシャワーとストロベリー。カップの方、お待たせしました」


とか色々話しているとレジの方で店員さんが呼んでいた。いつの間にか前には誰も並んでいなくて小走りで進む。
会計のため財布を出そうとしたらそれを柳くんに阻まれた。


「さっきも言っただろう。俺が奢る」
「けど」
「これは礼だからな。気にするな」
「で、でもほらぴったりあるし」
「すみません、これでお願いします」


それでも半分出そうと小銭を出した私を無視して柳くんは支払いを済ましてしまった。
結局私は手元の小銭を仕舞い、改めてお礼を言ってからアイスを受け取った。ちょうど店内の飲食スペースが空いていたのでそこに座ってから食べることにした。


「じゃあ、いただきます」
「ああ。俺もいただこう」


最初に食べたのはポンポンシャワー。パクリと一口含めば、口の中でパチパチ弾けるのと同時にラムネの味がする。すると目の前で突然柳くんが「ぐっ」と変な声を出した。


「どうしたの?」
「いや……これは……思っていたより刺激が強いな」
「あ、もしかして初めて頼んだ?」
「ああ。前から気になってはいたが中々踏み切れなくてな」
「最初は痛いかもねー。でも慣れれば美味しいよ」
「…………そうか」


何か考えるようにアイスをマジマジと見つめている柳くん。また恐る恐る口に入れては難しい顔をして食べている。時々バニラを間に食べて口の刺激を抑えているようだ。
そんな柳くんを可愛いな、なんて思ってしまって、ちょっとだけ幸せだと思ったんだけど。


(でも、柳くんは)


花野先輩が好き、なんだよね。こんなに色々なことを知ってどんどん好きになったって彼は私の方を見ることがない。わかっているのにこうしてふたりで過ごしていると忘れそうになる。


「水野?」
「!」
「どうした、ぼーっとして」
「え、あ……えーっと。そのプレゼントっていつ渡すのかなーって思って」
「ああ。今週の金曜日に渡そうと思っている。先輩の誕生日は来週の日曜日だからな」
「そ、そうなんだ。へえ……」


とすると、私の恋が終わるのは今週の金曜日になるわけか。その間にちゃんと覚悟を決めておかないと。こうしてふたりで話すのも今日で最後になるだろうし。柳くんが次に進むところを見届けたらきっと私は……。


「ねえ柳くん」
「何だ?」
「その、金曜日、どうなったか教えてもらっていい?」
「?」
「プレゼント、ちゃんと花野先輩が受け取って喜んでくれるか、気になるから」
「ああ、そういうことなら構わないが」


私のどう考えても言葉が足らないお願いを柳くんはすぐに理解してくれた。恋を終わらせる場所はどこがいいかと考えたら、すぐに図書室が思いついた。柳くんと色々話をした図書室で、静かに自分の恋を終えられれば綺麗な思い出になると思ったからだ。


「喜んでくれるといいね、花野先輩」
「そうだな」


そう言った柳くんの顔はちょっとだけ嬉しそうに見えた。花野先輩のことを考えているのがすぐにわかってしまう。
でもその直後にポンポンシャワーのアイスを口にいれた彼がまた苦い顔をしたので思わず笑ってしまった。







そして迎えた金曜日。昨日の夜は私まで緊張して眠れなかったからちょっと寝不足気味。幸いなことに今日の図書当番が1年4組で、調べものをしたいから図書室の鍵を預かっていいかと聞くと二つ返事で了承してくれた。


「最終下校時刻より前に職員室に返しに行ってね」
「うん、わかった」
「パソコン閉じて返却とかも出来ないから一応閉館の札かけとくね。出るときは電気よろしく」
「わかった。無理言ってごめんね」


図書委員の子たちも当番を終えて帰ってしまい、私ひとりになった。
さて、柳くんはそろそろプレゼントを渡しているだろうか。一応私が図書室にいることは伝えてあるけど、花野先輩と一緒に帰ることになったらメールで連絡が来ることになっている。
机の上に置いてある携帯を何度も開いてはセンターに問い合わせをした。その度画面には『新しいメールはありません』と表示される。


「遅いなー」


それともメールするの忘れてるのかな。柳くんだって舞い上がって忘れることくらいあるよね。あと10分くらいしたら柳くんにメールして帰ろうかな、と思っていたら廊下から足音が聞こえてきた。
足音の主はどんどん近づいてくる。今日はもう閉館時間を過ぎているからぎりぎり返却の人だったらがっかりさせちゃうけど。


「!」
「……水野」
「や、なぎくん」


閉館の札があったはずなのに図書室のドアは開いた。そして入ってきたのは柳くん。プレゼントを渡し終わったのにわざわざ来てくれたのだろうか。
と少しの嬉しさが心に広がったけど、それは彼の手元を見てすぐに薄れていく。


「え、なんでそれ」
「すまかった、水野」


柳くんの手元には日曜日に柳くんが持ち帰った紙袋があった。どうしてそれがそこに。空袋だけ持ち帰ってきたのかと思いたかったけど、中を覗くとあの包装紙に包まれたプレゼントがそのまま入っていた。


「……中身、気に入って貰えなかったの?」
「それは違う。花野先輩はこれの中身を知らない」
「じゃ、何で?」


紙袋と柳くんを交互に見る。すると柳くんはあの日、弾けるアイスを食べた時と同じ苦い顔をしながら話を始めた。

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