Dream | ナノ

彼等の恋


「改めまして、乙女の姉の花野紅葉です。3年生です」
「えっと……水野歌です。いつも乙女にはお世話になってます」


紅葉さん改めて花野先輩はペコリと頭を下げた。乙女と並んでみると確かにふたりは似ている。美人姉妹だ。
でも何で3年生である彼女がここにいるんだろう。1年生だけの集まりじゃなかったのかな。


「あの、花野先輩はどうしてここに?」
「幹事の片倉と佐藤に相談されてたんだ。あの子達とは中学の生徒会で面識があったから」
「生徒会で?」
「うん。引き継ぎした後もちょいちょい顔出してたから仲良くなってたの。それで、中間が終わった頃かな? こういう会をやりたいんだけどって相談されて」
「面白そうだからちょっと様子を見に来たわけね」
「そうそう。さすが私の妹」


満足気に笑う花野先輩の横で乙女がため息をついた。と、私たちの近くで固まって話していたグループのひとりがこちらを見ているのに気づいた。
その子は隣の子の肩を叩いて、何かを言うとその子もこっちを見てびっくりしている。何だろうと周りを見ると他にも数人がこっちに注目していた。


「ね、乙女何か私たち見られてない?」
「そりゃ当たり前でしょ。生徒会長がいるんだから」
「生徒会長って」
「はーい、私です。見つかる前に帰ろうと思ったんだけど見つかっちゃったね」
「おーい、どうした。何かあったか?」


騒ぎを聞き付けたのか幹事の片倉くんと佐藤さんが近づいてきた。そして、私たちと一緒にいる花野先輩を見て、驚いたように立ち止まる。


「え、花野先輩!?」
「何でいるんですか?」
「片倉、佐藤久しぶり! 気になったから見に来ちゃった」
「先輩〜」


佐藤さんが勢いよく花野先輩に近づくとそのまま抱きついていた。先輩もそれを当たり前にように受け止めている。
佐藤さんは花野先輩をそれほど慕っているんだ。よくよく見れば周りの内部生もちょっと浮き足立っているというか……。


「片倉、ビンゴの紙少なくなってきたんだけど」
「花野、先輩?」
「!」


先輩の人望の厚さに感心していた所に今度は幸村くんと柳くんも現れた。
柳くんを見るたびにドキッとしてしまう。でも今は幹事の仕事中みたいだから話しかけずに見守る。花野先輩を見つけたふたりもそちらに向かってしまった。


「お久しぶりです、花野先輩」
「……その顔、ひょっとして幸村と柳!? うわ、随分背が伸びたね」
「最後にちゃんとお会いしたの先輩の卒業式ですもんね」


困ったように笑う幸村くんの横で、柳くんは黙ったままだった。どうやらこのふたりとも面識があるらしい。親しげに話を始めた。柳くんが生徒会で面識があるのはわかるけど、幸村くんも? 不思議に思っている私に気づいた乙女が小声で話しかけてきた。


「お姉ちゃん、中学ではテニス部のマネージャーもやってたんだよ」
「え、そうなの?」
「うん。幸村たちと被ってたのは3ヶ月くらいだったんだけど、引退した後もちょいちょい顔出してたみたいで」
「花野先輩って何て言うか、行動的なんだね」
「……そうだね」


呆れる乙女との話を終えて、花野先輩たちの方に視線を戻す。中々話が終わらないなと思いながら見ていると、なぜか柳くんが花野先輩と話をしていないのに気づいた。生徒会とテニス部に所属していたなら柳くんと同じで、他の人より仲がいいんじゃないかと思うんだけど。


「じゃあ、私は帰るわ」
「え! 先輩も楽しんでって下さいよ」
「そうですよ、お菓子もジュースもありますから」
「いやいや。会費払ってないし。ちょっと見に来ただけだから」


周囲からも残念そうな声が上がっている。そのほとんどが内部生なんだろうけどすごい人望だな。
片倉くんと佐藤さんが引き留めるもんだから周りも同調してそうだそうだといい始めている。
でも、花野先輩は色々理由をつけて帰りたそうにしていた。その時だった。


「おい、先輩が困っている。その辺にしておけ」
「……柳」
「あとは俺たちだけでも大丈夫です。わざわざありがとうございました」
「……うん、こっちこそごめんね。お邪魔しました」


それまでずっと黙っていた柳くんの一声にみんな黙ってしまった。花野先輩もほっとしたように笑って、出口に向かって歩き出す。
その場にいたみんなが先輩に注目して、佐藤さんなんかは手を振っている。


「あーあ、先輩行っちゃった」
「しょうがないって、無理強いするのもよくないしな」
「そうだ、片倉。ビンゴの紙が足りないんだけど予備は?」
「え、あっちの段ボールに入れてあったはずだけど」


花野先輩が見えなくなって、幹事の佐藤さんや片倉くん、幸村くんがそんな話をしながら前に戻っていく。他のみんなもそれぞれ話を始めていて、騒ぎは収まった。
ふと、前方に戻る幹事たちの中に柳くんがいないことに気づいた。どこに行ったんだろうと辺りを見回すと


(えっ……)


柳くんはもう誰もいない出口をずっと見つめてた。いつもの涼しげな顔に見えるけど、ちょっと違う気もする。
幸村くんが気づいて柳くんを呼ぶまで、ずっと彼はその場から動かなかった。







その後、ビンゴ大会の後にペアクイズ大会が行われた。私は乙女と一緒に参加したんだけど、クイズ内容は立海の内部生が有利な問題ばっかりだった。


「去年の立海大学附属中等部の生徒会長は」
「はい! 片倉くん!」
「ですが、会計は誰でしょうか? 2名フルネームでお答えください」


結局この問題は隣の内部生ペアに答えられてしまった。私が答えられそうな問題あるのかな、これ。
うーんと頭を悩ませていると隣にいた乙女がため息をついた。


「外部生がクイズで楽しく内部事情を知れる、とかお姉ちゃんが考えそうなことだわ」
「えっ、花野先輩?」
「うん。中学時代からこういうの好きだったから」
「早押しはここまで! 次の問題からはフリップでお答えください。第1問、去年A組にいた男子テニス部のレギュラーメンバーふたりの名前を漢字フルネームでお書きください」


フリップと言われて渡されたスケッチブックに乙女がスラスラと名前を書いていく。
『真田弦一郎』と『柳生比呂士』なるほど確かに問題にしやすい。他のチームは源一郎になっていたり、博になっていたりでこの問題の正解者はうちともう2チームだけだった。


「……乙女がテニス部のことよく知ってるのもお姉さん絡み?」
「うん。私が入学した時に妹が入学してってあっちこっちに吹聴したみたいで。テニス部と生徒会がやたら絡んできてたの」
「何か……大変そうだね」
「本当にね。特に幸村はずっと絡んできてた」
「何で?」
「マネージャーやってくれって。3年間ずっと断り続けたけどね」


いつの間にか次の問題が発表されていたようで、答えをさらさらと書いている。『百川帰海』なんのことだかさっぱりわからないけど正解だったようで点が入っていた。
その後の問題もほとんど正解したけど、最初の早押しで点数を稼げていなくて私たちは予選敗退となった。


「やあ、お疲れさま。惜しかったね」
「幸村くん」
「これで4組チームはみんな予選敗退だね。残念だったけど」


手元にある用紙を見ながら幸村くんは苦笑いを浮かべた。確かに今壇上にいるのは1〜3組の生徒ばかりだ。4〜6組は比較的外部生が多いクラスだから仕方がない部分はあるのかも。


「問題全部、中等部のことじゃ外部生つまらないでしょ」
「俺も言ったんだけどね、外部生は答えるより答えを通じて中等部のことを知って欲しいっていう意図らしくて」
「中等部のことはサービス問題にするとか、穴空け問題にして外部生だけに答えさせるとかすればよかったんじゃない」
「ああ、それいいね。あとで片倉に言っておくよ。多分、来年もやるだろうから」
「……はあ、お姉ちゃんもこういうとこわざとなのか詰め甘いのかわかんない」


がっくりとため息をつく乙女と幸村くんを交互に見る。ていうかこの会来年もやるんだ。幸村くんはメモを取りながらさらに話を続ける。


「やっぱり花野に幹事回せばよかったかな」
「はあ、やるわけないでしょ?」
「でも俺たちじゃあこういう意見出なかったよ。ねえ、蓮二」
「ああ、そうだな」
「うわあ!」


いつの間に後ろにいたのか、振り返るとそこには柳くんがいた。私と乙女が驚いているのを無視して、何かをノートに記録している。
その姿はいつも通りで、さっき花野先輩を見送った時の違和感は気のせいだったのかな。


「来年はぜひ花野をと俺からも片倉に言っておこう」
「嫌よ絶対やらないから」
「大丈夫だよ、順調に行けば来年は花野先輩は来ないはずだから」
「お姉ちゃんは関係ない! もう、あっちでお菓子食べてくる!」


そのまま乙女は早足でその場から離れてしまった。追いかけようとしたら、幸村くんに止められて、任せて欲しいと言われてしまう。幸村くんは柳くんに持っていた用紙を渡すと乙女のことを追いかけていってしまった。


「全く、あいつは花野のことになると色々と不器用になるな」
「あの、もしかしてなんですが幸村くんって」
「中等部時代からずっと、花野を気にしている。まあ、恋情だろうな」
「恋情……て、あ!?」
「何だ、気づいていなかったのか」
「あ、いやそうじゃなくて」


恋情、という言葉にもしかしてと思った。柳くんが花野先輩を見ていた理由。それは幸村くんが乙女に対して思っていることと同じ気持ちなんじゃないかって。
でも、そんなこと本人に聞くわけにもいかなくて思わず頭を抱えてしまう。


「どうした、気分が悪いのか」
「いえ、大丈夫です」
「そうか。疲れたようならもう抜けても大丈夫だぞ、この後は昼過ぎに解散するだからな」


ただ憧れているだけの相手なんだから柳くんが誰を好いていようと関係ない。
関係ないはずなのに……なぜか胸の辺りがもやもやしてちょっと気分が悪かった。

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