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親睦会


柳くんとはクラスが違うから毎日会うことはない。それでも、同じクラスの幸村くんを訪ねて時々現れることがあってその度こっそり見ることが出来た。幸村くんありがとう。
今も何か話をして、プリントを渡して出て行く彼を見送ってため息をつく。


「……はあ、かっこいい」
「本当に柳が好きだね、歌」
「好きっていうか、憧れ? そーいうんじゃないよ」
「いやいや完全に恋でしょ。目がハートになってる」


私の前の席でジュースを飲みながら乙女は呆れた顔をしていた。彼女にはもう柳くんの話ばかりしているもんだから私の気持ちはバレバレ。
恋なのか、と聞かれると違う気がする。多分、憧れってやつだ。重症だ、と思われているのはわかっているけど、それでもやっぱりかっこいいものはかっこいいのだ。


「花野と水野さん、ちょっといいかな」
「ん?」
「何、幸村」


そんな話をしていたらバインダーを持った幸村くんに声をかけられた。さっきまで自席にいたのにいつの間にここに来たんだ。
それより……話、聞かれちゃったかな。柳くんと仲良いから幸村くんには変な風に思われたくないんだけど。


「今度学年全体で親睦会を開くから参加人数を調べてるんだ。ふたりはどうする?」
「親睦会?」
「うん、片倉元生徒会長発案のレクリエーションみたいなもんだよ」


という心配は杞憂に終わって、幸村くんは普通に話を続けた。
発案者の片倉くんが言うには、うちの高校はクラス替えがない。だから交遊関係がクラス内で狭まりがちでそれはあまりよろしくないのではと思ったらしい。さらに外部生と内部生で別れてグループになっているのも気になって、皆の仲を深める親睦会を企画しているそうだ。


「歌は当然参加するでしょ?」
「えっ」
「参加すればさ、2組とも話す機会あるでしょ?」
「……あっ!」
「水野さん、2組に気になるやつがいるの?」


クラスを越えた交流、ということは柳くんとも話す機会が出来るかもしれない。
乙女の言いたいことを察したのか、先に幸村くんが口を開いた。幸村くんに知られて慌てる私を無視した乙女は「誰とは言わないけど」なんて意地の悪い笑みを浮かべている。


「なら、その彼と話すためにも参加してみたらいいんじゃないかな。相手が確実に来るとは限らないけどね」
「そっか、参加は任意だもんね」
「……ちなみに現時点で参加決定してるメンバーっているの?」
「各クラスの幹事は参加するんじゃないかな。4組は俺だね、1組は片倉、2組は蓮二で3組は元生徒会の佐藤さん、5組が鈴木くんで6組が高橋さん」
「!」
「どうする?」


蓮二っていうのはきっと、柳くんのことだ。ちらりと乙女を見ると笑いを堪えているのか変な顔をしている。
とりあえず、乙女が吹き出して幸村くんに悟られる前に参加の意思を伝えた。







親睦会の詳細がわかったのは、参加の意思を聞かれてから1週間後の朝だった。
今週土曜日の朝10時から食堂を借りて行われる。会費は500円。各クラスの幹事に金曜日までに払ってくれとのことで、昼休みが終わるちょっと前、幸村くんに声をかけた。


「幸村くん、これ会費の500円」
「ありがとう。水野さんが一番だよ」
「えっ」
「そんなに親睦会が楽しみ?」
「そ、そんなことないから! 忘れたら嫌だから早めに払っただけ!」
「ふふっ、そっか。意中の彼が参加しているといいね」


子どもっぽく笑いながら幸村くんは封筒に私の払ったお金を入れた。その後、表面に何かメモをしている。私が見ているのに気づいたのか、ちょっとだけその部分を見せてくれた。


「これ、すごいよね」
「え、あ……名前書いてあるんだ」
「うん。蓮二が作ったんだ」
「!」
「2組の柳蓮二って、知ってる? 幹事なんだけど、すごい奴なんだよ」


知ってるも何も、憧れの人です。その人目当てに親睦会に出るなんて口が裂けても言えない。曖昧に笑って誤魔化していると幸村くんの目がきらりと光った気がした。


「……もしかして、蓮二?」
「ぅえ!?」
「水野さん、わかりやすいね」
「…………まだ、恋じゃないし。憧れてるだけだし」
「そうか。でも……」


と、幸村くんが何か言いかけたのと同時に昼休み終了を告げるチャイムが鳴った。
うーん、幸村くん鋭いな。というより私がわかりやすいのかな? ちらりと後ろを振り返ると幸村くんが何か言いたそうな顔をしてこちらを見ていた。







そして迎えた当日。ちょっとドキドキしながらも集合時間ぴったりに向かえばかなりの人数が集まっていた。
先に来ているはずの乙女を探していると、少し離れたところから私の名前を呼ぶ声が聞こえた。


「歌こっち!」
「乙女、お待た……っ?!」
「水野さん、おはよう」
「……確か、外部生の」


乙女を見つけて近づこうとしたら、誰かが一緒にいた。ひとりは幸村くんで、もう一人は何と柳くんだった。思わず固まる私を見た乙女と幸村くんが私から目をそらす。多分、笑いを堪えているんだろう。


「あ……や、やなぎ、くん」
「? ああ。確かに俺が柳蓮二だが」
「っ……ふふ、ごめん柳。この子、水野歌っていうんだけど柳とずっと話してみたかったんだって」
「ちょっ……!」
「何?」


柳くんの眉間に少し、シワが寄った気がした。そりゃ、見ず知らずの女にいきなり話をしたいと言われたら困るに決まってる。
慌てて弁解しようとしたけどその前に柳くんはノートを開いた。


「1年4組、水野歌。出身中学は若葉区立若葉中学校の外部生。誕生日は」
「えっ、何でそんなに私のこと知ってるの?」
「外部生のパーソナルデータは大体調べてある。どこかで使えるかもしれないからな」
「どこか……って」
「はい、ちゅーもーく!」
「!」


何だか物騒なことを言われた気がしたけど、大声がして一瞬怯んでしまった。
声がしたのは食堂の受け取り口側。そちらを見れば、即席で作られただろう台の上に人が立っている。


「時間になったから始めるぞ! 幹事、前に来てくれ」
「じゃあまたね」
「うん、頑張って」


『本日の幹事』と書いてあるたすきをかけた男子の呼び掛けで幸村くんと柳くんはそちらへ行ってしまった。乙女も喉が乾いたのかジュースを取りに行ってしまう。ひとりになってちょっと心細い気もしたけど乙女もすぐに戻ってくるだろうし、静かに前を見ることにした。


「じゃあ親睦会始めるぞ! えーっとまず幹事の片倉です。今日は俺の思い付きに付き合ってくれてありがとうございます。色々考えてきたんで楽しんでってな! 次、進行よろしく」
「承知した。2組幹事の柳だ。今日のプログラムはこちらに貼った通り。30分後にビンゴ、その後ペアでのクイズ大会。両方参加は自由だがペアクイズ大会への参加は外部生、あるいは別クラスの異性と組むようにしてくれ」
「えっ」


それってつまり外部生はクイズ大会への参加がほぼ強制なんじゃあ。ちらりと辺りを見れば、他の外部生らしき子も難しい顔をしている。
その他にテーブルにあるものは好きに食べて良いことや、連絡先の交換も自由だけど、無理強いしてはダメということも告げられた。


(お見合いパーティーみたい)
「それじゃあまた30分後にアナウンスするからな。参加したい奴はビンゴカード前に置いてあるから取りに来てな」


片倉くんたちが壇上から降りると、どこからともなく拍手が鳴り始めた。さすが元生徒会長ってだけある。人望があるみたい。


「ふーん……即席の会にしてはうまくやってるみたいね」
「えっ」


後ろから聞こえた呟くような声に振り返ると、さっきまでは誰もいなかった壁に寄りかかった女子が感心していた。
……第一印象で美人だって人と会ったの初めてだ。普通にテレビで見るモデルさんみたいなスラッとした体に大きな猫みたいな目。顔も小さい。こんな綺麗な人、同じ学年にいたんだ。
と、思いながら見ていたらばっちり目が合ってしまった。


「親睦会だし、よかったらお話しましょ?」
「え、あ……はい」
「ふふっ。見た感じ外部生だよね? 私は1組の花野紅葉。よろしくね」
「はい。えっと、4組の水野歌です」
「うん、よろしくね」


花野って、乙女と同じ名字だ。確かに乙女も可愛いし、花野姓には美人が多いのかも。
とかひとりで感心していた時だった。


「……お姉ちゃん?」
「あ、もう見つかっちゃった。乙女の友達だったんだ」
「…………えっ」


驚いたようなその声に振り返るとコップを2つ持った乙女がいた。『お姉ちゃん』って、紅葉さんに言ってるの?
しかも本人もあっさり認めてるし。ポカンとする私の横でふたりが話を続けている。


「何で1年の親睦会に3年生がいるのよ」
「えへへ」


理由を問われても乙女のお姉ちゃんはどこ吹く風。ヘラヘラと軽く笑っている彼女は呆れ顔の乙女の盛大なため息も全く気にしていないようだった。

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