Dream | ナノ

苦悩の告白


歌が無事クラスに入ったのを確認して、俺はひと安心した。
約束が果たせたことも大きいけど、やっぱ彼女がまた元の場所で笑ってるのを見れたっちゅーのが一番でかい。


「お、水野さん来たんやな」
「!」
「おはようさん、ケンヤ」
「おう……」


ちょうど俺たちの後から登校してきたのか、白石が声をかけてきた。
どうやら俺たちのやり取りを見とったらしい。やや顔がニヤけとる。


「あ、何やその不満そうな顔は。俺が色々手ぇ回してやったんやからお礼言うてほしいくらいや」
「う……まあ、それについてはありがたいと思っとるけど」


立ち話も何なので教室に入りながら話を続ける。
俺が花野さんの入院先を知れたのは白石がオサムちゃんと話をさせてくれたからや。それは確かにありがたかったし、もしそれがなかったら未だに歌は学校に来れへんかったやろ。


「何か、裏あるん?」
「え、裏て?」
「……俺に頼みがある、とか?」
「さすがケンヤやで。正解、1こけしやるわ」
「こけしはいらんから、はよ用件言いや」


オサムちゃんの似てないモノマネを一蹴してやると、白石は少し不貞腐れたように見えた。
が、すぐに真面目な顔になると、先ほどより声を落として口を開いた。


「あんな、財前のことなんやけど」
「!」
「財前が部活休みがちなんやて。まあ、あんなことがあったからしゃーないとは思うんやけど……もうすぐ大会やっちゅーのに部長が出てへんってなあ?」
「わかった、俺も話したいことあるから財前と会うてくるわ」
「頼むわ。俺、今日委員会あるから遅れてくけど」


つまり俺に財前を足止めしとけっちゅーわけか。
あいつ、下手したら俺が呼び止めただけで逃げるかもしれんのに。
白石が自席に戻ったのを見てから、一応財前に放課後の予定を尋ねるメールを送った。







1限が始まる直前に歌からメールが来て、昼に誘われたのは正直驚いた。
今までそないなこと言うてくることなかったからな。しかも放課後待っててとか。


(何か、歌の中で俺の株上がってへん?)


ちょっと前から態度が軟化しとる気はしてたけど、最近それが気のせいの域を越えとった。 もしかしたら俺のこと、何て淡い期待を抱くほどに。
放課後は委員会やから教室で待っててと言われたけど、大人しくしとるのは苦手や。教室から出て校内をふらついとった。
まだ委員会は終わらんやろし、どないしようかなと思っとったら後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。


「お、財前や! 何しとるん?」
「!」
「な、金太郎……っ!」


『財前』という名前に振り返ればそこには金ちゃんに抱きつかれとる財前がおった。パッと目が合った途端、財前の顔が青ざめる。
……これ、チャンスちゃう? 金ちゃん結構重いしあいつも逃げれへんやろ。


「なあなあ、何で最近部活来ぃへんの?」
「何だってええやろ! っつ、ちょ、離せ!」
「金ちゃん!」
「あ、ケンヤや! おーい!」
「財前そのまま捕まえといて!」


ぶんぶんと大きく手を振りながらも片腕で財前を拘束する金ちゃんの腕力はやっぱりすごいな。
ちらちらと回りの生徒からの視線を浴びながらふたりに近づく。
金ちゃんはキラキラとした笑顔なのに対して財前はかなり苦い顔しとる。


「ケンヤー、久々やなあ。今度はいつ部活来るん?」
「あ、あー、もう少し落ち着いたら顔出すわ……逃げんな、財前」
「っ!」


金ちゃんの力が緩んだのか、逃げ出そうとする財前の腕をすぐに捕まえる。
と、そこで予鈴が鳴った。部活動開始まであと5分や。


「金ちゃん、もう部活始まるから部室行きや」
「えーっ、ほなら財前とケンヤも一緒に行こうや」
「俺は今日無理やけど、財前は後からちゃんと行かせるで」
「なっ……!」
「ホンマ!?」
「おお、せやから先行っとき。んで、ちゃんと準備運動しとくんやで」
「わかった! じゃあまたなぁ!」


パッと財前から離れた金ちゃんはそのまま部室の方へ走って行った。
辺りの人がまばらになってくる。多分みんな委員会やら部活やらの活動場所に向かっとるんやろ。


「……何すか、俺帰りたいんすけど」
「用件わかっとるやろ?」
「心当たりがありすぎてわかりません」
「はあ……お前委員会は?」
「ありません」
「どうせ部活に顔出す気もなかったんやろ? ここじゃ目立つから移動するで」


そのまま財前の腕を引いて来たのは、うちのクラス。今日は珍しく誰もおらんくて、ここなら静かに話が出来るやろ。俺は自分の席、財前は隣の席に並んで座ったところでまたチャイムが鳴った。辺りがしんと静かになる。


「ええんすか、後輩勝手に入れて」
「大丈夫やって。誰もおらんし」
「……はあ」
「まずは頼まれ事から解決するで、お前何で部活出ぇへんの?」


率直に聞けば、財前は俯いてしまった。
まあ、大方の理由はわかる。花野さんのことやろな。


「花野さんのことか?」
「!」
「……お見舞い、行ったけど追い返されたて聞いた。原因はそれか?」
「さすが、自分の家のことは知っとるんすね」
「一昨日お見舞いに行ったら聞いただけや。何があったんや」


俺の質問に財前は顔を酷く歪ませる。思い出すのもキツイのかもしれん。でもだからって引き下がったら白石との約束を守れなくなる。
俺が引き下がる気がないことを察した財前は渋々といったように口を開いた。


「……俺のせいやて、言われたんすわ」
「えっ」
「あなたと付き合わなければこんな目に合わなかったって。それで俺、何も言い返せんくて」
「そのまま帰って、ずっと悩んでたんやな」
「はい」


静かに頷いた財前はそのまま俯いてしまった。
あの花野さんがそないなこと言うとは思えへんけどな。でも看護師が言うにはかなり取り乱してたって言うし。


「俺はそれが花野さんの本心やとは思えんけどな」
「えっ?」
「一昨日会うた時は随分と落ち着いてたし、今なら冷静に話せるんとちゃうんか?」
「また会いに行けっちゅーんですか。もし乙女が俺のこと嫌ってたらストーカーやないですか。無理っすわ」


意外にこいつ臆病やな。まあ、元々自分から前に出るタイプではないしな。
しゃーない、ちょっとだけ手伝うたるか。


「今日な、歌と見舞いに行くんや」
「は?」
「せやから、ついでに聞いてきたるわ。お前が会いに行ってもいいかってな」
「!」
「それでさっさと仲直りしいや。それで心配事がなくなれば部活にも出れるやろ?」
「それでもし、会いたくない言われたら」
「知らん、そうなったら自分で考えや。……お前の彼女やろ」


俺が財前に出来ることは多分、それくらい。それに会いたいって言われても会いたくないって言われても次に行動するんはコイツや。
まあ多分俺なら会いに行くけどな、どっちにしたって話さな何もわからんし。


「あと、もうひとつ」
「何すか」
「俺の用事はそっちが解決してからでええねんけど」


解決してから言おうとも思ったけど、流されそうやから今の内に言うとこ。
多分、財前の中ではそんなに重要なことになってへんやろし。


「お前、歌に言うたこと覚えとる?」
「!」
「それも間違いやったんやから謝れや」
「わかってます」
「やからさっさと花野さんと仲直りしいや。その後でええから」
「……はい」


ぐっと苦虫潰したような顔の財前はそれきり黙ってしもた。
と、廊下の方から歌と白石の声が聞こえてくる。もう委員会終わったんか。


「財前、ちょお隠れとき」
「え、何でです?」
「白石はともかく、歌とは顔合わせとうないやろ?」
「!」


俺の言葉に歌が廊下にいることを察した財前はすぐに教卓の中に隠れた。
慌てて机に突っ込んであった雑誌を開いた直後、歌と白石が一緒に入ってくる。


「あ、珍しくちゃんと待ってる」
「珍しくって何やねん。ほな行くで」
「はいはい、待たせてごめんなさいね」
「ケンヤ」


小声で白石が話しかけてきたから、ちらっと教卓に目配せをする。
それだけで白石はわかったようで、頷いた。
白石から言われた足止めもちゃんとしたし、これで貸し借りなしや。
ふたりを教室に残して、俺は歌と共にその場を離れた。

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