Dream | ナノ

無意識に甘える


次の日、謙也は家に来なかった。
やっぱりうまくいかなかったのかな。どうなったのか、連絡してみようかとも思ったけど私は何もせずに謙也に頼ってばかりで……ずるいと思って出来なかった。


(もしかしたら何か迷惑かかった、かな)


先生に釘を刺されたとか。もう私には関わらないでおこうと思うような出来事があったのかもしれない。
そんなことを考えていた時、持っていた携帯が鳴った。慌てて画面を見るとそこには『忍足謙也』の4文字がある。


「も、もしもし?」
「おう歌。すまんな、今大丈夫か」
「うん、どうしたの?」
「朗報やで、花野さんがやったのは歌やないって先生に言うてくれたんや!」
「え……」


電話越しにも謙也が笑っているのがわかるくらい声が高かった。
花野さんが私ではないって言ってくれたってことは……。


「やから! お前は無実やってやっと先生等もわかったんやって!」
「!」
「明日の朝迎えに行くからな! ちゃんと支度しとけよ!」
「え、ちょ……」


謙也は私の呼び止めも聞かずに電話を切ってしまった。
本当に私の無実が証明されたのか。嬉しいような、でもまだ確信が持てない。
もやもやした気持ちのままとりあえず携帯を手放した。







次の日の朝、謙也は本当に迎えに来た。
あの後、親にも学校から電話があったらしい。よかったね、と言われたけど心のもやもやはまだ晴れない。


「ねえ、本当に大丈夫なの?」
「あ? 何が」
「……あの事件のこと、本当に広まってないの?」
「大丈夫やて。みんな歌は風邪引いて休んどるって思っとったで」


でもそれは謙也が私と親しいからみんな気を使ったのかも。
そうこうしている内に1組の教室前に着いた。ドアを開けようと手を伸ばすけど、まだ怖い。
もし開けた途端に黙られてヒソヒソ話なんてされたら。


「大丈夫やて」
「!」
「俺、ここで見ててやるから。早よ教室入れ」
「……う、うん」


一度大きく深呼吸をして、久しぶりに教室のドアを開く。みんなの視線が私に集まった。
一気に緊張が高まって思わずぐっと拳に力が入った。


(謙也はああ言ってるけど……)


本当は私がやったと噂が流れているんじゃないか。みんな白い目で見てるんじゃないのか。
ドキドキして、いつも教室に入る時に言う挨拶が出来ない。


「あ、歌、おはよう」
「え?」
「風邪引いたんやって? この時期に大変やったな」
「う……うん」


自分の席に座っていた紅葉ちゃんが普通に話しかけてきた。
私がポカンとしているのにも気づいていない。本当に久しぶり、といった雰囲気だ。


「ノートとかは全部取ってあるから、あとでコピーやるわ」
「あ、ありがと」
「あとなー、自分が休んどる間色んなことあったんやで?」


ちらっとクラス全体を見回すけど、特にみんな私のことは気にしていない。本当に私が風邪で休んでいたと思っているらしい。
一気に緊張が解けて、ホッとした。それと同時に力が抜けた。


「わ、歌どないしてん!?」
「えっ」
「泣いてるやん! 何? まだ体調悪い? 保健室行く?」
「……いや……違う」
「?」
「……紅葉ちゃんと会うの久しぶりでしょ? だから感動しちゃって」
「はあ? 何やそれ、新しいネタ?」


紅葉ちゃんが笑ってくれたところでちらりと後ろを見る。
教室の外で待っていた謙也は小さく笑って頷いた。私も微笑み返すと、安心したのか2組の方へ歩いて行った。







朝のSHRが終わった後、職員室に呼ばれて先生達から謝罪を受けた。
一応事の顛末を聞くと、花野さんを突き落とした子達はすぐに特定されて、キツいお説教と卒業式まで登校禁止ということになったらしい。
それと休んでいた間の小テストの再試やらの話をして教室に戻った。


「あ、歌おかえりー。先生なんだって?」
「ん、ああだいぶ長く休んだから小テストとかの再テストの話してきた」
「そっか、受験生やしな、うちら」
「そうだよー。ここで休んじゃったのはかなり痛いよね」
「ねー、あ、そうそう歌は知らんと思うけどさ」
「うん?」
「2年の花野さんって知っとる? 3年にいじめられとったんやて」


一応学校側の配慮で花野さんがいじめられていたことと、いじめた生徒の名前は公表されなかった。
だけどいじめた生徒と仲が良く、いじめに加担していなかった子から噂が流れたらしい。


「あー……花野さん、かわいいからね」
「けどプールに突き落とすんはあかんやろ。もう水も冷たいこの時期に」
「そうだよね。風邪引くよ」
「しかも、花野さんって心臓弱いんやて? 下手したら死んでたってんで学校側もかなり重く受け止めて、登校停止にしたんやて、いじめてた方を」
「そう、なんだ」


登校停止ってことは進路も絶望的なんだろうな。
もし、私があのまま疑われたままだったら……。考えるだけで寒くなる。
謙也と花野さんには改めてお礼を言わないといけない。


「そのせいで、花野さん2学期終わりで転校するらしいで」
「えっ!?」
「何でそんな驚くん?」
「あ、いや」
「まあいじめた奴がいなくなったとはいえ、やっぱり居づらいもんなー。こんな噂流れてたら」


紅葉ちゃんは呑気に言っているけど、やっぱり関わりがあったから自然と気持ちは重くなる。
財前くんの耳にも入ってるよね。こんな一般生徒も知っているくらいに広まっているんだから。


「どうするんだろ、財前くん」
「え、財前くん? ……そっか、あの2人付き合うてたんか」
「あれ、紅葉ちゃん知らなかったの?」
「いや、知ってたっちゅーか噂にはなってたけど……そっか、それで花野さんはいじめられてたんやな」


そこで授業開始を告げるチャイムが鳴って、紅葉ちゃんは自分の席に戻って行った。
先生が来るまでまだ少しありそうだ。携帯を取り出して、謙也に昼休み一緒にご飯を食べたいとメールをした。







昼休みになり、謙也と落ち合って向かったのは食い倒れビル。
私はお弁当だけど、謙也はいつも学食らしい。


「お弁当、おばさんつくってくれないの?」
「弁当なんてもう食ってもーたわ」
「あ、そっ」
「で? わざわざ呼び出した理由は何や?」
「花野さんのお見舞いに行きたいんだけど、謙也一緒に来てくれない?」


買ってきたカレーに勢いよく食いついていた謙也は一瞬その手を止めた。
私の方を見ると、口に入っていた分を飲み込んでふう、と息を吐いた。


「別にええけど……面会謝絶でもないし歌だけで行ってもええんやで?」
「いや、何かひとりだと明日明日って先伸ばしにしちゃいそうで」
「そうか?」
「そうなの。で、もう今日行こうかと」
「ええで。それと……財前はどないする?」
「!」
「……ま、先に花野さんやな。俺も呼び出しの後少し話したきりであいつと話てへんから」


私が答えに詰まったのをすぐに察して話を戻してくれた。
わかっている、財前くんとも話をしなきゃならないっていうのは……。
それでも彼のあの目を思い出すたびに、まだ怖いという気持ちが湧いてくる。


「……せや、あと白石にも礼言わんと」
「白石くん?」
「おお。色々気ぃ使ってくれてな。歌も会うたら礼言っとき」
「うん。あ、今日委員会があるから言っておくよ」
「……そや、白石そないなこと言うてたわ」
「あ、知ってたんだ。だから帰り待ってて?」


お弁当を食べながら謙也の顔を見たら、びっくりしたように目を丸くしていた。
私、何か変なこと言ったかな? 口の中のものを飲み込んでから聞いてみることにした。


「何、その顔」
「ぅえ?」
「変なこと言った? 私」
「あーいや、まさかお前から待ってろって言われるとは思わんかったから」
「!」
「……じゃ、終わるまで教室で待っとるから。終わったら来てや」
「う……うん」


言われてみればそうだ。今まで私はこういう時、先に帰っててと言っていたはず。
無意識に謙也と一緒にいたいって思っているんだろうな……。


(やばい……めっちゃ恥ずかしい)


その後は特に話をすることもなく無言になってしまった。
周りから見たらかなり変なふたりに見えただろう。
だってどっちも顔を真っ赤にして黙々とご飯を食べていたんだから。

prev  next
目次には↓のbackで戻れます。

BACK
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -