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○●○


 まさかの社内お仕置きプレイをされてしまった後で。
 庄司が手際よく後始末を済ませ、すべての痕跡を消し去る様子を、俺は物品庫に置かれた段ボール箱に座ってぼんやりと眺めていた。

 激しい行為の最中は快感に流されて思考も半分麻痺してたけど、冷静になってみると色々なことが頭に浮かんでくる。
 気付けば目はじんわり潤んで、大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちていた。

 もし庄司に、好きな人ができていたら、俺はどうしたらいいんだろう。
 終わらない恋なんてないと思っていたけど、庄司との恋を終わらせたくない。
 だって、こんなに大好きなのに……。

「柏木さん!?」

 俺が泣いていることに気付いた庄司が慌てて駆け寄り、顔を覗き込んでくる。

「すみません、一時の感情に任せて酷いことをしてしまいました。辛かった……ですよね」
「辛かったら、あんな風に感じてイッたりしない」
「こんなに震えて、泣いてるじゃないですか」

 ギュッと身体を抱きしめられて、嗅ぎ慣れた匂いと優しい温もりに、俺の胸は苦しくなった。

「こんな風に泣かせたい訳じゃなかったんです。柏木さんが誰を好きでも、俺には貴方だけだって分かってもらいたかっただけなのに……本当にすみません」
「國吉さんはただの先輩だって言ってるだろ。そんなこと言って、他に好きな人が出来たのは庄司の方じゃないか!」
「俺ですか!?」

 そんな風にとぼけたって無駄だ。

 自分ではどうすることもできない涙を溢れさせ、よく整った顔をキッと睨みつけると、庄司は驚いた表情を見せて切れ長の目を見開いた。

「俺が柏木さん以外の誰かを好きになるはずがないじゃないですか」

 年下の恋人は本気で呆れたようにため息をついて「どこからそんな誤解が出てくるんですか」と、責めるように俺の額に自分の額を軽くぶつけてくる。

 あれ? もしかして、浮気疑惑は俺の勘違い……?

「だって、最近様子がおかしかっただろ。話しかけてもうわの空だし、え……えっちなことも、全然してなかったし」

 失礼な勘違いをしてしまったのかもしれないと、気まずくなってごにょごにょ呟くと、庄司は一瞬目を泳がせて「ああ、それは……」と口を開いた。

「柏木さんが、無理して俺と付き合っているんじゃないかって、不安だったんですよ」
「え?」

 俺が、何で庄司と付き合うのに無理をしなきゃいけないんだ。

 さっぱり話の流れが見えず、首を傾げて庄司の顔を見上げるけど、年下の恋人は気まずそうに顔を逸らしてこっちを見てくれない。

「元々は俺がしつこく餌付けして、強引に身体から迫って付き合うことになった訳ですし……」
「別に、本気でお菓子だけに釣られたって訳じゃない」
「柏木さん、本当は國吉課長みたいなタイプの男の人が好きでしょう」
「はっ!?」
「俺は全然好みのタイプじゃないみたいだから、きっと強引に迫られて断れなかったのかなって思っていたんです」
「ええっ!」

 それこそ、どこからそんな誤解が生まれたんだという話だ。

 職場の先輩としては好きだし尊敬もしてるけど、俺は國吉さんみたいなガチムチ兄貴は全然好みじゃない。
 というか、庄司と付き合うようになってからは他の男を好みとかそうじゃないとかいった目で見たことがなくて、俺の頭の中はいつだって庄司でいっぱいなのに。

 何をどう突っ込んだらいいのか分からない誤解に俺が絶句していると、気まずそうに顔を逸らしていた庄司がポツリと衝撃の事実を呟いた。

「見るつもりはなかったんですけど、見ちゃったんです。その……柏木さんの書棚に並んでいた、そういった感じの人達のグラビアみたいな雑誌を」
「……っ!!」

 声にならない悲鳴、というのは、まさに今のコレだろう。

「み、見たって、全部?」
「はい。全部中まで見てしまいました」
「ひいぃいっ!」

 庄司の腕に抱かれたまま、俺は羞恥のあまり気を失ってしまいそうになっていた。

 恥ずかしさの度合い的には、さっきのお仕置きプレイを同僚に見られてしまうこととそう変わらない。
 まさか庄司に、あんな物を見られてしまうなんて!

 庄司が見てしまったというその雑誌は、数少ない俺のゲイ友達が冗談でプレゼントしてくれた、ガチムチ兄貴系のハードなゲイ雑誌だった。

 内気で恥ずかしがり屋の俺にはオカズ本を買うこともできないだろうと、悪ノリで選んでくれた、見ているだけで恥ずかしくなるほどの露骨な雑誌である。
 それこそ筋肉好きの國吉課長が喜びそうなムキムキ兄貴達が大人の玩具を装備したり、縛ったり縛られたりしているような写真ばかりで、真性ゲイの俺でも全部読み終わる前にリタイアしてしまうほどの代物を、庄司が……!



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