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 あんな物が俺の趣味だと誤解してしまったなら、庄司が挙動不審になるのも無理はなかった。

「しょ、庄司……アレは友達が冗談でくれた物で、俺が買ったんじゃないし、俺の好みでもない」
「……」
「本当だってば!」

 生温い疑いの眼差しを向ける庄司に、必死で弁解して、訴える。

 庄司が浮気をしていた訳じゃなかったんだ……。
 恥ずかしい雑誌を見つけられてしまったことはともかく、お互いの誤解が解けた安堵感に、俺は庄司の胸に顔を埋めて目を閉じた。

「何だ、じゃあ、庄司は勝手に人の恥ずかしい雑誌を見て、誤解した挙げ句社内であんな破廉恥なことをしてきたんだ」
「すみません」
「もうすぐ昼休みも終わるのに、お尻が痛くて午後からの仕事が辛い!」
「……本当に、言い訳のしようもありません」

 文句を並べながらも、本当は、庄司が國吉課長との関係を誤解してヤキモチを焼いてくれたんだということが、嬉しくて仕方なかった。

「今夜は國吉さんと飲みに行くからな」
「柏木さんが國吉課長を何とも思っていなくても、課長の方はどうだか分からないでしょう」
「あの人はただの筋トレ好きのノンケだってば」
「あんなにいかにもな兄貴がノンケだと言われても、俺には信じられません」

 俺にも信じられないというか、本人が気付いていないだけで実はゲイなんじゃないかと思う時もあるけど、一応女の子と付き合いたい願望はあるらしいから、今のところはノンケなんだろう。

「あの屈強な身体で襲い掛かられたら、柏木さんの細い身体では抵抗できませんよ。二人で飲みに行くのは危険です」
「俺を襲ったのは庄司だろ」
「!」

 何とか俺を思い止まらせようとして必死の説得を続ける庄司の腕から抜け出し、ジメジメした物品庫のドアを開けると、吹き込んできた爽やかな空気が乾いた涙の後を撫でていった。

 デスクに戻る前に、休憩室に寄って顔を洗っていこう。

「柏木さん、待って下さい」
「もう休憩時間が終わるぞ」
「本当にあの筋肉兄貴と二人で飲みに行くつもりですか」

 真剣に俺のことを心配してくれる庄司の言葉が、今の俺にはどんな口説き文句よりも甘く、胸の奥をくすぐっていた。



 いつも甘い言葉と優しさで俺を包み込んでくれる、年下の恋人。

 心がすれ違うことがあっても、不安になっても、やっぱり大好きだから。

 早めに飲み会を切り上げたら……。
 庄司が大好物だと言っていた肉まんを買って、急いで帰ろう。

 そして、今夜は俺の方から奇襲をかけて、ヤキモチ焼きな年下の恋人を餌付けしに行こうと思った。


end.


(2012.9.1)




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