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○●○


「庄司、待てってば!」
「何を待つんですか」

 抑揚のない声と、危険な光を孕んだ鋭い瞳に、思わず言葉を失う。

 メロンパンを食べ終わった後は屋上でのんびりひなたぼっこして昼休みを過ごそうと思っていた俺は、何故か庄司に腕を掴まれ、薄暗く湿った地下の物品庫に連れ込まれていた。

 どうしよう。
 國吉さんの冗談を真に受けちゃったのか、庄司の放つ怒りのオーラが怖い。

「國吉さんは……新人研修の時の教育係っていうだけで、何でもないからな。あの人、昔からああいう冗談が好きだから」
「まだ何も言っていないのにそんな風に言い訳されると、逆に疑いたくなってしまいますよ」
「そんな!」

 じゃあ、どうすればよかったんだ。

 庄司の迫力に気圧されて後退りすると、ひんやり冷たい金属のラックが首筋に触れて、俺の身体はふるり、と震えた。

「ちょっと目を離した隙に他の男に餌付けされるなんて、柏木さんにはお仕置きが必要ですね」
「お仕置き?」

 何だかこの状況は、ものすごく嫌な予感がする。

 國吉さんとは本当に何でもないし、そもそもあの人はノンケなんだけど、言い訳を重ねれば重ねるだけ泥沼にハマりそうな気がして、俺は黙って庄司の言葉を待った。

「自分で下を脱いで、可愛いお尻を出して下さい」
「ええっ!」

 もしかして……という予感はあったけど、やっぱりそういう“お仕置き”をするつもりなのか。

「無理だよ、庄司。こんなトコで……誰か入ってくるかもしれないだろ」

 すがるような目で背の高い年下の恋人を見上げても、本気で怒っているらしい庄司は涼やかなツリ目を僅かに細めただけで、俺を許してはくれなかった。

「鍵はかけました」
「総務の人がスペアキーを持ってるじゃないか」
「その時は諦めて下さい」
「っ!」

 会社で尻を出して、部下に折檻されている姿なんて同僚に見られたら、人生そのものを諦めなきゃいけない。

 確かに國吉課長との会話は多少誤解を招くような内容だったかもしれないけど、いつも冷静なこの男が、たったそれだけのことでこんなに怒るだろうかと思ったとき、最近庄司の様子がおかしかったことがふと脳裏を過ぎっていった。

 浮気だなんて、疑いたくない。

 でも、もし庄司に気になる誰かができて、わざと俺に冷たくして別れようと思ってこんなことを言い出したんだとしたら……。

「――分かった、脱ぐ」

 微かに震える声でそう言って、俺はベルトに手をかけ、スラックスを脱ぎ始めた。

 庄司の不審な態度の、本当の理由は分からないけど。
 この身体で、庄司がまだ少しでも興奮してくれるなら、どんなお仕置きでも受け入れられる。

 だって、本当に好きなんだ。

 庄司は、今まで恋愛から逃げてばかりいた俺がやっと“信じたい”と思えるようになった、大切な恋人だから……。

「これで、いいだろ」

 上半身はスーツを着たまま、スラックスと下着を膝まで下ろした三十路リーマンのフルチン姿なんて、あまりに間抜けで哀し過ぎる。

 股の間をスースーと冷たい空気が流れていくのが何とも落ち着かなくて、シャツを引っ張り縮こまったブツを隠しながら、俺は涙目で庄司の顔を見上げた。

「隠しちゃ駄目ですよ、柏木さん」
「隠すよ! 恥ずかしいだろ、こんなの!」
「恥ずかしくないとお仕置きにならないでしょう」

 そう言って、切れ長の目を微かに細めた庄司は股間を抑えて隠していた俺の手を掴み、万歳をするように上に高く上げさせて押さえ付けてしまった。

「……っ、しょうじ……!」

 腕が高く上がったことで、シャツも引き上げられて、恥ずかしい雄の器官が丸見えになってしまう。

「まだ何もしてないのに感じちゃってるんですね」
「見るな!」
「柏木さんの可愛いペニス、どんどん勃ち上がってきましたよ」

 実際、直接触れられた訳でもないのに、冷たい外気と視線に晒された俺のペニスはむくむくと成長して勃ち上がり始めていた。

「お仕置きに期待しているんですか?」
「してないっ!」
「会社でこんな格好になって勃起しちゃうなんて、エッチですね、柏木さんは」

 お前がこんな格好にさせたんだ、と言いたくても、庄司の怒りのオーラが怖くて反論することができない。

 徐々に角度を上げつつあったペニスを指先で突いて、庄司はそのままソレを握ったりすることもなく俺の身体をくるりと半回転させ、ラックに手をついて庄司の方にお尻を突き出すような恥ずかしい格好にしたのだった。

「庄司っ!」
「可愛いペニスの方はしばらくおあずけです」
「ひっ、……あンッ」

 お仕置きはこっちから、と呟いて。
 意地悪な年下の男は、どこから取り出したのか、冷たいジェル状の液体を俺の尻に垂らし、塗り込めるようにして小さな穴の周りを撫で回し始めた。



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