5



○●○


 初めての出会いから数年。

 若手ながらも優れた味覚とセンスで既にフリーのバーテンダーとして名を挙げつつあった香田を、どんな手を使ったのか高田が『KARES』専属のバーテンダーとして雇い入れ、今年の春からは新米スタッフの雪矢が入って、昼はコーヒーをメインに高田と雪矢が切り盛りするカフェタイム、夜は香田の作るカクテルをメインとしつつ美貌の副店長・三上の淹れるコーヒーを目当てに飲み会帰りの客が通うバータイムという二部構成の営業体制となってからも、厳ついヤクザ顔の男は相変わらず、閉店間際の客の少ない時間帯を狙って三上の淹れるコーヒーを飲みに訪れていた。

 元々口数の少ない伍代相手に三上が積極的に話しかけることもなく、一言二言挨拶を交わしただけで、会話は途切れてしまう。
 ただ、静かな店の中で、自分の淹れたコーヒーを満足げに飲む男の顔を見つめるゆったりとした時間が、いつの間にか三上にとって心安らぐひと時になっていた。

 気品のある華やかな顔立ちが異性のみならず同性を惹きつけてしまうことの多い三上だが、自分がゲイではないという自覚はある。
 恐らく、伍代にもその手の趣味はないだろう。

 だから、コーヒーを落とす手元に注がれる視線に含まれる熱にも、伍代が立ち上がった瞬間に感じる寂しさにも、三上はずっと気付かない振りを続けていたし、この先も二人の関係が変わることはないと思っていたのだ。

 ――少なくとも、ほんの数か月前までは。


○●○


 カウンターの向こうから、男が厳ついヤクザ顔に困ったような表情を浮かべてチラチラと三上に視線を投げかける。

 それに気付かないふりをして閉店作業を続ける三上を見て、香田は気の毒そうな顔で伍代にサービスのカクテルを提供し、肩をすくめた。

「伍代さんが最近全然バータイムに顔を出してくれないんですっかり拗ねちゃってるんですよ、ウチの女王様」
「香田、余計なお喋りはしなくていい」
「毎日閉店間近にそわそわしてゴダイさんが来るのを待ってたくせに。素直になればいいじゃないすか」
「ふうん……またあの褌バーに出張バーテンダーとして派遣してもらいたいようだね」
「げっ!」

 変なところで気をきかせようとする後輩スタッフを黙らせようと三上が笑顔で口にした一言に、香田は顔を青ざめさせて黙った。

「副店長? じょ、冗談ですよね……?」
「どうかな。前回は褌バーのお客さま達にかなり好評だったみたいだからね。そういえば、是非また次のイベントに来て欲しいってマスターが言ってたんだった」
「勘弁して下さいよ〜」

 出張バーテンダーとして出向いた先の褌バーで何があったのかは不明だが、このネタはしばらく使えそうだと、三上は内心ほくそ笑む。

 いつものように香田をからかってじゃれ合っていると、カウンターの向こうからチリッと熱い視線が突き刺さった。

 伍代の凄みのある目の奥に微かな嫉妬の色を感じて、じわじわと甘い温もりが胸を満たす。

「伍代さんがお忙しいのは分かっていますから。別に、しばらく来店されなかったからといって、そんなことで拗ねたりはしません」

 ツン、と冷たい表情で突き放すように言う三上の横で、香田は「うわー」と呟いて何とも微妙な表情で二人を見守っているが、客に対しては失礼過ぎるその態度に、伍代は厳ついヤクザ顔を緩めて、ふと口元に笑みらしきものを浮かべたのだった。

「最近は社長が雪矢さんに会うために、カフェタイムを狙って通うので……しばらく顔を出せず、申し訳ありませんでした」



(*)prev next(#)
back(0)


(5/18)
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -