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「ずっと、触ってみたいなと思っていたんです」
「……触って面白い物でもないでしょう」
「この手触りは好きですよ。伍代さんの肩、大きくて硬くて……すごく男らしいですね。脱いだら更に逞しくて素敵なんでしょうね」

 何故この気まぐれなカフェの女王は、このタイミングで、服を脱ぐときの話をするのだろう。
 人が必死になって、裸の野獣になりたい気持ちを抑え、理性の人間であろうとしているのに。

「……っ」
「駄目。じっとしていて下さい」

 大人しく座ってなされるがままに肩を揉まれているのが奇跡ではないかというほど、既に伍代の理性は我慢の限界を迎えていた。

「気持ち良くなってきませんか?」

 気持ち良過ぎるから、困るのだ。

 肩に触れる指先から伝わる三上の熱が、際どい快感となって背筋を走り抜け、下半身に集まっていく。
 まさか、肩が性感帯になり得るとは。
 自分が肩を揉まれるだけでここまで興奮できる人間だったなんて、今まで知らなかった。

「ふふ、やっぱりココを強く押すと背中がピクッとするんですね」
「三上さん……もう、そのくらいで」
「ココが一番気持ちいいんでしょう。声、我慢しなくてもいいんですよ?」

 耳に吹きかけられる甘い吐息に、全身の血が沸騰しそうに熱くなる。

 熱を持って勃ち上がった雄の中心部分が窮屈そうにスラックスの下の黒いビキニを押し上げるのを何とか三上に悟られまいと、伍代の姿勢は、自然と前かがみになっていた。

 変に気を利かせてスタッフルームへと消えていった香田が、壁一枚隔てた向こうで今度はどのタイミングで出て行ったらよいのかと頭を悩ませていることなど分かっているのに、そんなことを無視して悪戯な猫の白い喉元に噛み付いてしまいたい衝動が湧き上がってくる。

 主の言うことを聞かず暴走してしまいそうな雄の器官を鎮めるために、伍代は敢えて上司の話題を持ち出した。

「――うちの社長の方が、日頃鍛えている分、身体も引き締まって揉みごたえがあると思いますよ」

 何しろ、可愛い恋人を相手にほぼ毎晩激しい運動を行っているのだから、嫌でも身体は鍛えられるはずだ。

 が、三上の返事はごくあっさりとしたものだった。

「あんなスケベ顔のエロ親父の身体には微塵も興味がありません」
「……」

 佐竹が三上を毛嫌いしているように、三上の佐竹に対する印象もあまり良くないらしい。

 見るからに堅気ではない雰囲気が滲み出てしまっているものの、同じ男である伍代の目から見ても十分に整った男前な顔立ちをしている佐竹をスケベ顔と切り捨てる容赦のなさに突っ込みを入れるべきなのかとも思ったが、最近佐竹が『KARES』を訪れるのはもっぱら雪矢の顔を見ることが目的になっているので、その精悍な顔に多少なりとも野獣じみた雄の下心が表れてしまっている可能性は否定できなかった。

 スケベ顔云々はともかくとして、エロ親父扱いされてしまった佐竹より自分の方が二歳ばかり年上であることの方がよっぽど、伍代の胸に深く突き刺さる。 

「エロ親父、ですか」
「毎晩うちの可愛い新人君に無理をさせているにも関わらず、仕事に託つけて昼にまでヤニ下がった顔で来店するなんて、エロ親父以外の何でもありません」

 さすがに、女王様は手厳しい。

 三上の淹れてくれたコーヒーを飲みながら不埒な妄想を膨らませ、肩を揉まれただけで股間を膨らませている自分など、三上にしてみればエロ親父を通り越してエロ爺に違いない。

「!?」

 こぼれ落ちかけたため息がギリギリのところで止まったのは、更に予測不能な事態が伍代を襲ったからだった。

 肩に感じる、心地好い重みと温もり。

「――三上さん?」

 三上が、伍代の肩に額をつけて体重を預けている。
 予想外の出来事に、鼓動はいまだかつてない勢いでペースを速めていた。

「無理をなさらないで下さいね」
「え?」

 それは、無理に欲望を抑えつけたりせず、今この場で押し倒してもいいということなのだろうか。

 ピッタリと背中に密着する体温が、どうしようもなく愛おしい。

 落ち着け、と自分に言い聞かせながらも忙しく動揺する伍代の耳に届く声は、微かに切ない響きを含んで聞こえた。

「佐竹さんの来店がカフェタイムになったことで伍代さんにお会いする機会が減ったことは寂しいですが、伍代さんに無理をさせたい訳じゃないんです」
「無理、というのは?」
「しばらくお会いできない日が続いて私が拗ねてしまって以来、翌日に仕事がある日でも、週に何度かはこうして店に来て下さるでしょう」



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