第4話 2



 心の中で文句を言っても仕方ない。
 さっさと褌を締めてみせて、帰ろう。

 ようやく腹を括った俺は、きちっと締め込んでいた六尺を解き、長い一枚の布に戻した。

「本当に一枚布なんですね。紐が通してあるのかと思ってました」
「越中とか黒猫はそうなってる」

 モノを覆うための布と腰に回す紐が最初から出来ている越中褌や黒猫褌は六尺褌より気軽に楽しむ事が出来るが、俺は一枚の布から褌を締めていくという、そのひと手間が好きだった。

「へぇ…」

 感心したような声に視線をやると、鮎川の目は六尺褌ではなく、俺の股間を凝視している。

「眞木さん、やっぱり男らしいですね」
「よ、余計なトコは見なくていい!」

 そんな風に見られると恥ずかしくて、あたふたと布の片方を左肩に掛け、手早く男の中心部分を覆って股を潜らせた。
 後ろから手にした布をぐるりと腰に回していく。

「ああ、横の紐みたいなところはそうやって作るんですか」
「後は、こうして…仮掛けして」
「なるほど」
「こっちを、もう一度…股下に、通して…」

 なるべく淡々と説明を済ませようと思っているのに、もたついて、いつものように要領よく締める事ができない。

 多分鮎川も気付いているはずだ。
 俺の身体は、本人の意思とは無関係に、ある変調をきたしつつあった。

 何もしていないのに、勃起している。

 一人で締めていて、こんな風になった事は今まで一度もなかった。

 原因は絶対に、鮎川の視線だろう。
 時々褌パに紛れ込む奴のようにギンギンに盛りのついた雄の目ではなく、涼やかな目元を崩さないまま、じっと見つめてくる。
 絡みつく視線が、身体に熱を与えて、気付けば股間は大変な事になっていて。

 ノンケさんの前で勃起なんてさせちゃ駄目だと分かっていても、下半身に集まった血は騒ぎっぱなしで落ち着かない。

「…で、捻り込んだら、完成」
「すごいな。そんな仕組みになっていたんですか」
「もし気に入ったなら、今度自分で試してみてくれ。ノンケでも…褌好きの仲間が増えるのは、嬉しいから」
「そうですね。眞木さんを見ていたら、何だか褌ってすごく格好イイ気がしてきました」

 本気か!

 というか、何で立ち上がってこっちに寄って来るんだ!
 近過ぎるだろ、距離が。

「じゃ…じゃあ、あの、俺はもう帰るから」

 一刻も早くこの場から逃れたくて、股間を勃起させたままギクシャクと部屋を出ようとする俺の腕を、鮎川の手が捕らえた。

「…っ、何だよ!」
「またあのフロアに戻るんですか。ココをこんなに勃起させたままで」

 一際低い声に、ザワッと胸の奥が騒ぐ。

 この流れは、何かおかしい。
 おかしいのは分かっていても、今まで誰かにこんな真っ直ぐな目で見つめられた事がなかったせいで、警告信号にどう反応していいのか分からず。

「あ…っ」

 引き寄せられるまま、俺はあっさり、背後から回された鮎川の腕に、捕まってしまった。



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