秒針 | ナノ

とある昼休み

町内会戦の翌日、昼休み。
烏野男子バレー部の2年のなまえは、同じく2年の西谷・田中に呼び出され、3組に来た。

「お待たせー」
「おぉ、来たな!それじゃあ始めっか!ノヤッさん」

田中に対し、おう!と返すと西谷は何冊かの分厚い辞書を勢い良く机にドンと置いた。
勉強嫌いな西谷とは不釣り合いなそれに、なまえは顔をしかめる。そんな彼女の反応がどうであろうが関係ないといった様子で、西谷は机をバンと叩いた。

「それでは今からTシャツにプリントする言葉についての会議を始める」
「だから辞書なんだ。…って、あれ?それって皆で決めるんじゃなかった?」

目の前にある辞書の使い道がやっと理解できたなまえは、新たな疑問を口にする。昨日の試合をきっかけに東峰と西谷が部に復帰し、これを機に皆でお揃いのTシャツを作ろうという話になっていた。

「あぁ!!けど、俺達の意見も大地さん達の参考になればなぁ…と思ってな!」
「なるほど!確かに0から考えるより多少なりとも候補挙げてた方が、大地さん達も考えやすくなりそうだしね!」

なまえは手元にある辞書を手に取って行く。どれも使い込んであるようなそれは、恐らく図書館から借りられた物なのだろう。

「英和、漢和、四字熟語、慣用句…何か色んなジャンルのがあるなぁ」

パラパラ辞書を大雑把に見ながら、西谷達も辞書を参考に考えるだろうと彼女が思っていれば、彼らは唐突に1枚の紙を取り出した。

「そんでよ!」
「?」
「俺達だけで言葉と色考えて来てみたんだけど…」
「え?今から決めるんじゃないの?」

じゃあこの辞書達いらないじゃん。てか、私も来なくていいじゃん。
なまえは辞書を机の端に積み上げながら思う。

「まぁまぁ、取り敢えずこれを見たまえ」
「ノヤっさん、いつも以上にノリノリだね」

未だ会議気分で話す西谷に冷静に突っ込みつつ、なまえは渡された紙を受け取る。

「どうだどうだ!?」
「完璧なのは分かってっけど、大地さん達に見せる前にお前の意見も聞いてやらなくもない!」

無言で紙を見ているなまえを2人は自信満々といった感じで見つめる。

「うん…カラーは全然いいと思う」

言葉の候補の横に小さく書かれた それぞれのTシャツの色については、納得したようだが、でも!となまえは力強く紙を机に置いた。そして、

「なんで私のイメージ言葉が横行闊歩!?」

と、目を三角にして2人に文句をつける。

「いや、なんでって言われても…つーか、その…オウコカッポ?って、どんな意味だったけか…?」
「そこから!?おうこうかっぽ!勝手気ままに振る舞うこと!または振る舞う人のこと!」

意味分かった上で決めたんじゃないの?と彼女は再び心の中で突っ込む。

「モロお前の事じゃねぇか!なのになんで怒るんだよ!」
「勝手気ままって自己中な奴って言ってるようなもんじゃん!あとこれ!」

なまえは3年の東峰と1年の影山のところを指差す。

「A HAPPY NEW YEAR!って何!?ただの新年の挨拶を英語にしただけだし、TANSAIBOUって何!?ただローマ字表記にしてるだけじゃん!ていうか、この場合Uいらない!」

他にもキャプテン!めがね!162cmのバネ!、などツッコミどころ満載の言葉に、早口でまくし立てるように彼女は指摘していく。その早口の指摘についていけていないのか、西谷と田中の頭上には?マークが浮かんでいる。

「猪突猛進とか弱肉強食とか自分達のだけカッコイイし!」
「じゃあお前も何かカッコイイやつにすればいいだろ!?OUKOUKAPOとか!!」
「何でもかんでも横文字にすればカッコイイわけじゃ、」
「龍!Pが1つ足りねぇぞ!」
「そうそう、それだと おうこうかぽに…って、突っ込むとこそこ!?それにUいらないって!」

息継ぎする暇なく話し続けたなまえは、一度深呼吸して自分自身を落ち着かせる。

「大丈夫か?」
「ほら、さっき買ってきたジュースだ。お前にやるよ」
「あ、ありがとう…」

田中からジュースを受け取り、ストローを挿してそれを一口口にすると、なまえは言葉候補の書かれた紙を田中達の方に向け直す。

「…取り敢えず、プリントする言葉の種類を統一しよう」
「お…おう」

疲れた面持ちで提案するなまえに負い目を感じたのか、2人はまず英語にするか日本語にするかについて話し始めたのだった。



(大地さんスガさん!俺達言葉の候補考えてきてみました!)
(おぉ!どれもよく考えられてる!このままでも良くないか!?)
(私が2人がイメージする言葉を四字熟語に変換しました!)
(それで2人が知らないような言葉も入ってる訳か。あれ?それよりなんで影山だけ3文字?)
(それが…単純明快だと自分達よりカッコイイ気がするから却下!って言い張られて…)
(あいつら言葉の響きだけで判断して、意味までは理解してないんだろうな…)




2014.07.16
The second hand



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