青城からの帰りのバスが動き始めた頃にいきなりそう問いかけられた。何の心配をされてるのだろう。
「ん?何が大丈夫?」
プリ○ツを頬張りながら、通路を挟んで隣に座る飛雄君の方を見る。やっぱサラダ味が一番美味しい。
「いや、日向が及川さんと話してるの見たって言ってたから…」
それに試合前にも会ったみたいな事言ってたし…とモゴモゴと彼は言う。翔ちゃん私が及川さんと話してる時、何度も振り返ってたもんね。
「あぁ、その事!大丈夫大丈夫、連絡先交換しただけだから」
「え!?もう連絡先交換したんスか!?それ早く消した方がいいです!」
飛雄君が慌てて、携帯貸して下さい!と言うので画面ロックを解除して渡した。うん。渡したのまでは良かったんだけど…
「……この画面いっぱいに並んでる四角いの何ですか?」
折りたたみ式の携帯を使う彼にはスマホの使い方がイマイチ分からないようだ。
「それはアイコンっていうアプリを起動させるボタンみたいなやつで…」
「アイコン?アプリ?」
「うん、これをタッチしたら…ほら、こんな風に」
写真のマークの入ったアイコンをタッチすると、画面がパッと変わり、保存した画像や撮った写真が写し出される。
「何かよく分かんねぇけど凄ぇ…!」
飛雄君は画面を食い入るように見つめる。バレー以外に飛雄君が何かに興味示した姿見たのって初めてだ。なんか新鮮!意外とこういうの好きなのかな。
「じゃあアドレス帳っぽい絵のアイ…アイ…」
「アイコン」
「…アイコンを探して押せばいいんスね!」
彼は不慣れな手つきで画面を左右にスライドさせる。アイコンの下にアプリ名が表示されてるとはいえ、元のアイコンをアプリで自分好みのアイコンに変えているから分かりにくいかもなー、なんて思いながらも一生懸命、目的のアイコンを探している飛雄君の姿がおかしくて微笑みながら見守る。
「アドレスっぽいのアドレスっぽいの…」
「思ったけど、なんでそこまでして及川さんの連絡先消したいの?」
試合中に、あの人は中学の時の先輩って飛雄君は言ってたけど、そこまで敵視する理由が分からない。同じポジションだから?
「あの人が月島以上に性格が悪いってこと、試合の時言いましたよね?」
「うん、言ってたね」
アイコンを探すのを中断し、飛雄君は不愉快そうにこちらを見る。
「関わると絶対みょうじさんにとってロクなことがないと思うので」
「もしかして私の心配してくれてる?」
冗談で言ったつもりが、はいッ!とハッキリ返事をされた。な、なんて良い後輩なんだ…!
「もしみょうじさんに何かあって、バレー教われなくなったら俺困るんで」
「いやそっちの心配!?」
予想はしてたけどね!?でも少しは先輩自体の身も案じて欲しいな!?って…
「飛雄君その何かあって、の何かって一体なに!?」
「えーと、前に岩泉さんが…今日の練習試合で青城の主将してた人が、及川さんが昼休みにしょっちゅう女子を泣かしてる、って言ってたんで」
「あー…その理由分かったかも…」
要するに告白して玉砕した女子に泣かれる時が多い、という事か。モテる人も苦労してんだなぁ…
「くっそ!どれがアドレス帳なのか分かんねぇ!」
「アイコンの下に小さく字が書いてあるよ?」
「でもアドレス帳≠チてのはねぇっス」
しかめっ面で画面とにらめっこしている飛雄君から携帯を奪う。トップ画面のアイコンが多すぎて見にくかったみたいだ。
「はい、タイムアップ!ちなみにアドレス帳はこれね!」
「それアドレス帳って意味だったんスか!」
「……んん?!」
Address≠ニそのまま書かれたアイコンは指差せば、何故だか感心した様子の飛雄君。…まさか読めなかった…とか…?
「あのさ飛雄君…」
英語が苦手だったりする?と聞けば、日本人に英語が分かる訳ないじゃないですか!と返された。
…あぁ、英語が苦手な人の典型的な返しだ…
「とにかく!及川さんの連絡先、消した方がいいです!」
結局、飛雄君に押し切られる形で、私は及川さんの連絡先を消した。
2014.06.30
The second hand
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