秒針 | ナノ

忘れていたもの

「お前ら随分寛いでるけど…」

GWの課題終わったのか?と笑顔で問い掛ける縁ちゃんに、龍ちゃんとノヤっさんの顔が一瞬で凍りついた。悠長に漫画読んだりしてるから まさかとは思ってたけど、やっぱり終わってなかったんだね。

「やっべ!俺も持って来んの忘れた!」
「どうしよう!課題自体持ってきてない!」

2年生2人に続き、翔ちゃんも課題がある事をすっかり忘れていたようで、龍ちゃんと2人慌てふためいている。合宿前にコーチがあれだけ念押して言ってたのに…。連休全て合宿練習に当てるから課題は夜でもきちんとやっとけよ、と。

「俺はちゃんと持って来たぜ!ほら!」
「綺麗だな!どうせ他のも殆ど真っ白なんだろ」
「殆どじゃなくて全部だぜ!」

胸を張って言うノヤっさんに、縁ちゃんは呆れ果ててモノも言えないみたいだ。冷めた目で彼をジッと見ている。あんなに胸張って課題をやってないと言い切った人、初めて見たや…

「だからみんな夜、自学室に行ってたのか!」
「今さら気づいたのかよ…」

殆どの人は1階にある自学室に行っているのを見掛けている。今日は合宿3日目という事で、縁ちゃんのように初日の夜から課題を消化しに行っていた人は、ほぼ終わらせてしまっているようだ。

「影山、お前も自学室来てないみたいだけど、課題終わったの?」
「課題っスか?」

飛雄君は特に慌てた風でもなく、縁ちゃん達の方を見る。そういえば、自習室で彼の姿も見てなかった気がするけど、あの感じじゃどこかしらの時間で課題を終わらせたのだろう。あれで終わってなかったら…

「課題なんてありましたっけ?」
「課題という存在自体を認識してなかった!」

だから、休みが半分過ぎた今でもこんなに落ち着いていられる訳だ!
思わず突っ込んでしまったことから、聞いていただけの彼らの会話に加わる。

「よしッ!今から写させてくれ、力!」
「何が、よしッ!だ!少しは自分でやれよ!」
「チクショー、課題持って来てたら俺も写せたのに!」
「ルーズリーフあげようか?」

カバンからルーズリーフを数枚取り出し、龍ちゃんに渡した。そしたら、いつもからは想像がつかないほど感謝されてしまった。なんか何とも言えない気分だ…

「2人は?ルーズリーフいる?」
「いるいる!!」
「すみません!」

翔ちゃんと飛雄君にもルーズリーフを渡した。ルーズリーフにこんな使い道があったとは…

「山口に見せてもらおっと!」
「フライングすんな日向ボゲェ!!」

彼らはルーズリーフを受け取るや否や、それだけを持って自習室に走って行ってしまった。2人とも筆記用具1つ持って行かなかったように見えたのはきっと私だけだよね!

「「お願いします写させて下さい縁下先輩!」」
「だから土下座やめろって!」

一方、この2人は土下座で交渉中のようだ。そんな暇あるなら少しは自力ですればいいのに…

「やっと課題終わったべー、って何やらせてんの縁下!!?」
「ち、違うんですスガさん!俺がやらせてる訳じゃなくて…!!」
「「お願いします縁下先輩!!」」

その後、縁ちゃんはスガさんの誤解を解くのに、苦労したとかしてないとか…



(そういや、なまえも自学室に行ってないよな?)
(うん、休みに入る前に終わらせたからね)
(今回早めに課題提示されたし、出来ない事もないか)



2014.09.14−2014.11.18



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