渡しそびれた大切な物(コトバ)〜8〜
悔しかった。
岬はあまり泣き言を言わない、昔っからなんでも我慢するタイプだった。
昔、岬がふらのに来た時に一緒にサッカーができる仲間が出来て嬉しかった。
しかも岬はうまい。だから俺が教わることも多かった。
それに、誰かが喧嘩した時、岬はいつも仲裁役に入り、上手くみんなをまとめてしまう。
どんな時も前向きで、明るいやつだった。
そんな岬が大好きだったし、尊敬してた。
だから、転校するって聞いた時はすごくショックだったのを、今も覚えてる。でも、そんな時も岬は笑顔だった。笑顔が絶えなかった。
だから・・・思わず聞きたくなった。
”お前は・・・辛くないのか?”って。
でも、それを聞いてどうにかできる問題じゃないってその頃にはもうわかってたし、だからそんなことよりももっと明るいことを言いたかった。
でも、お前はいつ、誰に”辛い”とか”嫌だ”とか言ってるんだよ?
俺は言えねえのかよ?って思って、悔しかった。
悔しかったし・・・心配だったんだよ。
***
目の前の岬は、目を丸めたまま何も言わなかった。
「わりぃ・・・」
俺は思わず掴んでいた胸倉を離した。
そして、なんだか申し訳なくて、岬から視線を逸した。
「・・・お前の本心が聞きたかったんだよ。」
「・・・僕の?」
「ああ」と小さく頷いた。
「お前は・・・いつも周りの人を気遣って自分を後回しにしてる感じもするし・・・辛い時とか、誰かに言えてんのか?って思って・・・」
「・・・」
「・・・今日の試合、泣いてたろ・・・?」
「・・・あ」
「見られてたんだ」とぽつりと呟く岬の声が耳に届いた。
多分あれは他のメンバーは気づいてない。気づいたとしたら、俺と、立花たちと・・・監督だけだ。
「・・・あれを見た時に思ったんだよ、お前はまた・・・何か我慢してんのかって。」
あの時、まさかお前らがそんなことを考えてるなんてわからなかった。でも、岬の涙をみて・・・こいつは何かを背負おうとしているのかって事だけ感じた。
そんな・・・涙を拭いたあとはそんな決意の溢れる目だった。
「だから、立花たちや監督に試合のあと聞いたんだ・・・そしたら、もう決めてたことだったんだってな・・・」
「・・・うん」
そう言って岬は返事をして、俯いた。
岬の方に視線を移す。
「・・・きっと岬はいろいろ背負って抱え込んでるから、責めないでくれって3人に言われた。」
そう言うと、岬の肩がピクリと震えた気がした。
―――――――――――――――――――
「渡しそびれた大切な物(コトバ)」の8話目です。
今回松山君サイドでちょっと短めです。
本当はもっと松山君を切れさせる予定でしたが、変更しました(笑)
/
[*prev][next#]