渡しそびれた大切な物(コトバ)〜9〜





「・・・岬」

顔は見えないけど、松山の声が聞こえる。

もう、やめてよ。
これ以上そのことについて言われると・・・もう我慢ができなくなっちゃう。
もう・・・聞きたくない。

そう思っても、僕の足はそこから動かなかった。・・・動けなかった。
そう思ってたら、松山が急に近づいてきて、僕の体を抱きしめた。

「・・・辛かったろ?苦しかったろ?」

そう言って、僕の背をポンポンと優しくあやす様に叩いた。
その瞬間、僕の中からいろいろな感情が溢れ出てきた。もう堪えきれなかった。

「・・・っ!・・・う・・・あぁぁ・・・っ!!」

・・・本当は、嫌だった。
勝つ為とはいえ、仲間を犠牲にするなんて・・・僕が翼君みたいに強かったら、こんな自体起きてなかったかもしれないのに・・・!!
僕のせいだ・・・ずっと、そう思ってた。
僕があそこでシュートを決められていたら・・・
僕がもっと強かったら・・・!!

何度もそう思って後悔した。
でも、そんな顔はみんなに見せられない。これ以上、心配かけてはいけない。
僕が見たいのは、みんなの笑顔だから。

でも、それでも・・・今回の決断は本当に辛かった。
ずっと念願だったオリンピックへの切符・・・それすら、汚いものに思えてしまって・・・
どうしたらいいか、わからなかった。

小さい時も・・・松山が言ったように、ふらのから・・・いろいろな仲間の所から離れるのは、本当は嫌だったし、辛かった。でも、父さんに笑っていて欲しかったから、父さんについて行きたかったから・・・

「・・・っ」

いろいろな気持ちがこみ上げてきて、もうどうしようもなかった。
松山はそんな僕の体をずっと支えてくれていた。
たまに「お前はがんばったよ」と言ってくれながら・・・

***

「・・・ありがとう」

一通り泣いたら、いろいろとすっきりした。
そう思ったら、今度は松山に体を貸してもらってたことを思い出して・・・何だか恥ずかしくて、気まずかった。
「もう大丈夫だから」と言って体を離した。

「・・・おう、ならいいんだ。」

そういう松山の顔を見ると、嬉しそうに微笑んでいた。

「・・・何?」
「いや・・・岬がそうやって本音を見せてくれたのが嬉しくってな」

そう言って「へへっ」といつもみたいに無邪気に笑っていた。
僕は、やっぱりちょっと恥ずかしかったこともあって、むっとした表情になった。

「・・・今日は調子がおかしかっただけだよ」
「・・・ま、どうでもいいけどよ」

そういった松山は立ち上がり、背伸びをしていた。

「・・・すっきりしただろ?」
「・・・うん」

そう言うと松山は満足そうに笑った。

「じゃあ、もう少ししたら会場に戻って・・・改めてお祝いのやり直ししようぜ!」
「・・・そうだね」

楽しそうにいう松山に、こっちもつい笑顔になってしまう。

「・・・なあ」
「・・・ん?何?」
「・・・また、何か辛いことがあったら・・・言えよな?」
「・・・松山」

まだ心配そうにチラチラと見てくる松山に、思わず顔が緩んでしまう。

「・・・まあ、松山には隠せそうにないしね」
「そういう理由かよ!」

「ま、いいけど」と言いながらも、肩をすぼめる松山が面白くてしょうがない。
クスリと笑いながら、そっと口にしてみる。



「・・・信頼してる友達だから言うんだよ。」



「何か言ったか?」
「ううん、別に。」



松山には聞こえなかったみたい・・・でも、僕は松山のことずっと信頼してるからね。
ありがとう、松山。




―――――――――――――――――――
「渡しそびれた大切な物(コトバ)」のラスト、9話目です。

最後岬君を泣かせちゃってごめんなさい!!
でも、友情でも抱きしめるの有りかと!
松山君なら、やっちゃいそう!!(笑)

今回は岬君の辛さを一緒に分かり合いたい松山君、そして小さい頃に言いそびれてしまった言葉を今言いたい・・・そしてそこに深まる友情の話が書きたくて、書きました。
少しでもそんな雰囲気が読んでいる方に伝えられたら、と思っております。

松山君と岬君はある意味一番大事な友達だと思ってます。
”一番”の種類はいろいろありますが・・・その中でも”ある意味”一番な、二人しかわからない一番な友達だといいなと思っています。

ここまで見てくださって本当にありがとうございました!!(`・ω・´)







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