渡しそびれた大切な物(コトバ)〜6〜





「でも、本当勝てたんだね。」

岬をみると、ぼんやりと外の風景を見ながら話していた。俺はそんな岬を横から眺めて黙って聞いていた。

「・・・オリンピックにいけるんだ。夢に一歩、近づいたんだ。」

そう言う岬の言葉は嬉しそうだったが、俺の目には岬の表情が本当に嬉しそうとは映らなかった。
いつもの俺ならきっとここで、何か嬉しそうに一声返せたのかもしれない。・・・でも、今日はそれができなかった。

「・・・松山?」

ずっと何も言わない俺を不思議に思ってか、岬は俺を呼んだ。そしてこっちを見てハッとしていた。
きっと、俺がずっと真剣な目で岬を見ていたからだ。

「・・・どうしたの?」

おかしそうに笑いながら、困ったように岬が声をかけてきた。そりゃそうだろうな。こんな嬉しい日に、急に何も言わずに真面目な顔で見つめられてるんだから・・・そりゃ困るよな。

「・・・この前、夢を見たんだよ。」

俺も外の景色に視線を向けてそう切り出した。

「・・・昔の、夢。」
「・・・昔の?」

なんで突然そんな話を?という感じで、岬は俺を不思議そうな顔で見た。

俺の頭に蘇ってきた夢とは、そう、あの時の・・・―――

「・・・お前がふらのから転校する時の夢。」

「え?」と岬の声が聞こえた。

今の俺たちにとっては、だいぶ昔の・・・もう10年くらいになるんじゃないのか?・・・そのくらい、昔の話。
でも俺の記憶からはずっとその時のことが心に残っていた。
岬にあの時言いたかったことが・・・言いそびれた言葉があって、それが俺の中でずっと引っかかっていた。
岬にすりゃ、そんなことはいつものこと、ちっぽけなものだったかもしれない。

でも、俺にとってはとても後悔した出来事だった。

「・・・そっか。」

「懐かしいね。」そうポツリと岬は呟いた。
岬からすれば俺の話は本当に不思議だと思う。何故今急にそんな話になるのか?そんな疑問を言われてもおかしくない。
でも、岬はそう言わなかった。
だから俺は続けた。

「・・・その時お前に言いそびれてたことがあった。」
「・・・え?」
「ずっと、言いたかった。」

俺はまた岬の顔を見た。岬も俺の顔を見た。

このことを言ったら、岬はどうなるのかわからない。
もしかしたら、岬が作り上げてきたものを壊すことになるのかもしれない。あの頃から少し成長した俺は、あの時の岬の気持ちが少しわかるようになって、そんな不安もあった。このまま言わないままでもいい、そう思うこともあった。
でも・・・あの瞬間の岬をみて、俺の心は固まっていた。

「お前さ、本当は・・・辛かったんじゃないのか?」

「・・・え?」

岬の顔が固まった。俺はそのまま続けた。

「あの時・・・本当は、行きたくなかったんじゃないのか?転校したくなかったんじゃないのか・・・?」

もしかしたら俺は見当違いなことを言ってるかもしれない。
それでも、そう言わずにはいれなかった。
俺の脳裏に今も焼きついているあの頃の岬に、そして今目の前にいる岬に・・・そう問わずにはいられなかった。

岬は少し固まっていたかと思ったら、急に笑い始めた。

「・・・っあはは!松山・・・急に何を言い始めるの・・・っ」
「・・・俺は本気だ。」

笑う岬に、少しむっとする。
その空気を感じ取ったのか、岬は笑うのをやめた。

「・・・確かに、行きたくないって気持ちもあった。でも・・・仕方がなかったんだ。」

そういって、岬は俺を見た。
俺はそんな岬に対して、憤りを感じた。

「・・・っ仕方がない?じゃあ今回もそうやって自分の中で片付けるつもりなのかよ!?」

思わず立ち上がって叫んでしまった。
岬は、「松山?」と俺の名前を呼んで、驚いて困惑していた。
それでも俺は止まらなかった止められなかった。

「今回の立花たちの件だって、そうやって自分の中で片付けるつもりなのかよ!?」

思わず体が動いて、気がついた時には岬の胸倉を掴んでいた。

そんな俺に対して岬は・・・ただ、目を丸くしていた。




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「渡しそびれた大切な物(コトバ)」の6話目です。

ついに松山が動き出しました!
さて、岬くんをどう動かすべきか(笑)

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