アンドロイドは涙を知らぬ


 新たに決まった仕事は、大ヒットした作品『Cybernetics Wars』の続編だった。前作はTHE 虎牙道とBeitが出演し、近未来都市を舞台に人間とアンドロイドの戦いを描いたものだ。
 つまり、続編も315プロダクションのアイドルがメインで、私は『Best Game』の時と同様脇役だ。そう思いながら、紅茶を片手に企画書を読み進めていると、信じられない位置に私の名前があって、二度見してしまった。

「……嘘でしょ?」

 動揺のあまり紅茶が喉ではなく器官に入るところだった。当たり前だ。だって今回の話は、『High×Joker』の冬美旬くんと『Jupiter』の天ヶ瀬冬馬くんのダブル主演で、なんとその次にヒロイン役として私の名前があったのだから。
 脇役でオーディションに参加した筈なのに、いくらなんでも責任重大過ぎる。しかも、人気作品の続編となれば期待値も初めから高いというものだ。
 果たしてこのプレッシャーに打ち勝つ事が出来るだろうか。とはいえ、尻込みして断るのは考えられなかった。とりあえず、台本に目を通してから考えよう。ダブル主演なら、きっとこのふたりの友情がメインで描かれて、私はヒロインといっても補佐的な役割で、恋愛要素はない。きっとそうだ。

 後日、台本を受け取った私は、一通り目を通して納得した。
 予想通り、この続編はアンドロイドの『ADAM』と人間の『リク』の絆がメインで描かれている。私は警官でリクの相棒『ウミカ』、ただしリクとの恋愛要素はほぼないと言っていい。

 正直、少しだけほっとしてしまった。天ヶ瀬くんが嫌というわけでは決してなく、まだそういうシーンを演じる勇気がないのだ。私より年下の役者は、恋愛ものの作品に出てキスシーンもちゃんとこなしているのに、我ながら情けないけれど。
 きっと、今回の作品には東雲も出演するから、それでほっとしているのもあるのかも知れない。……初めては、好きな人とが良いって思うし。

「っていうか、東雲はまた悪役か……」

 厳密には完全なる悪ではないのだけれど、そういう役柄が回って来る宿命なのか。まあ、たまたま私と共演する作品がそうだったというだけで、アイドルとしての東雲も、他の作品に出演する東雲の役も、好印象である事は皆分かっているだろう。寧ろ違う一面を見せて、表現の幅を広げるという意味でも、悪役を演じるのは東雲にとっては喜ばしい事かも知れないし。



 台詞の読み込みや、事務所のトレーニングルームで演技を練習する日々を送り、ついに顔合わせの日が訪れた。しかも番宣でテレビ出演するという、ある意味ぶっつけ本番みたいな状態だ。

「おはようございます! 今回はよろしくお願い致します」

 今回共演する冬美くん、天ヶ瀬くん、『Altessimo』の都築圭さん、『彩』の華村翔真さん――そして東雲に挨拶すると、五人は明るく挨拶を返してくれた。そして、東雲が一歩前に踏み出して声を掛けて来た。

「西篠さん、撮影頑張ってくださいね」
「ちょっと東雲〜……プレッシャーかけないでよ」
「ヒロインですしね。といっても西篠さんなら、なんだかんだでそつなくこなしそうですが」
「それはね、傍から見たらそんな風に見えてるだけ」

 東雲の誉め言葉を素直に受け容れられず、ついそう零してしまった。とはいえ、今回の話のメインはADAMとリクの友情だ。私はヒロインというより助演と呼ぶほうが正しく、冬美くんと天ヶ瀬くんのほうがプレッシャーはあるに違いない。
 ふと二人に顔を向けると、天ヶ瀬くんは笑顔を返してくれて、冬美くんは遠慮がちに頭を下げた。正反対のふたりだ。

「西篠さん、俺たちもプロの役者に負けないよう頑張ります!」
「天ヶ瀬くん、頼もしいね。315プロは演技指導もしっかりしてるし、私も負けてられないな」

 皆も事前にアクションシーンのトレーニングをしていると聞いているし、正直不安は何もない。続いて、遠慮がちにこちらを見ている冬美くんに私から声を掛けた。

「冬美くんも、よろしくね。役柄上絡みはあまりないけど、一緒に頑張ろう」
「はい。ご指導のほどよろしくお願いします」
「いやいや、指導なんて出来るほどのキャリアは詰んでないよ。まだひよっこで、毎日が勉強って感じだしね」

 真面目な顔でそんな事を言われて、つい首を横に振ってしまったけれど、心なしか冬美くんの表情が穏やかになったような気がした。



「本日はスタジオに『Cybernetics Wars』に出演する皆様にお越し頂きました!」

 軽やかな司会のトークの横で、六人揃って並んで、カメラに向かって軽く頭を下げて笑みを向ける。これまで仕事でちょくちょくこういった機会があったから、幸い緊張しなくて済んでいる。簡単な台本というかト書きも用意されているし、何の質問が来るかも分かっている。

「――では、最後にヒロインの西篠深雪さんに質問です!」
「はい! お答えできる範囲になりますが」
「単刀直入に……ウミカちゃんは、相棒のリクとの甘いシーンはありますか?」

 馬鹿正直に答えたらネタバレになるし、ここは思わせぶりな態度を取った方が良い。実際に見て期待外れと思わせてしまう可能性もあるけれど、アイドルと女優のそういうシーンを見たい人って……どのくらいいるんだろうか。正直、相手によっては絶対に見たくないファンもいるだろう。

「う〜〜〜ん……」

 眉を寄せて苦悶の表情を浮かべる私の横で、華村さんが茶化すようにフォローしてくれた。

「深雪ちゃん、言ったらダメだよ。ネタバレになるからね!」
「そうだね。一体何が起こるのか……皆、是非見届けてね」

 最後に都築さんが優しい微笑でそう言って、無事上手くまとまった。最後は六人で声を揃えて挨拶して、番宣はつつがなく終わった。
 その後、皆でテレビ局の人たちに御礼を言いに回っていると、東雲がぽつりと私にだけ聞こえるように呟いた。

「西篠さん、うっかり言ったらどうしようかと思いました」
「さすがにネタバレNGな事くらい分かるから」

 思わずそう言って軽く小突くと、東雲は不敵な笑みを浮かべていた。成程、確かに悪役は向いているかも知れない。

 それから数日後、ついに撮影が始まった。



「チッ、見失っちまったか……」

 私は天ヶ瀬くん演じる『リク』と共に、不正を働いた上司を掴まえる為に動いていた。追い詰めようとしたものの見失い、研究所のような場所に迷い込んでしまう。

「それにしても、ここは……何なんだ?」
「何かの研究所? バリィさんはここで一体……」

 困惑しつつも、リクと共に入念に周囲を見回していると、突然ひとりの少年が目の前に現れた。

「前方に人を発見……人に会った時は、まず挨拶ですね。こんにちは!」
「!? ……アンタ、誰だ!?」

 私たちは云わば侵入者だ。その割に、相手から敵対心はまるで感じられない。油断させる為なのか、それとも。

「演技……? でも、それにしては違和感が……」
「人間……だよな?」

 警戒しながら相手の様子を窺う私たちに、少年は悪意など一切感じられない優しい笑みで言葉を紡ぐ。

「僕はADAM。あなたの情報はデータベースにありません。はじめまして」

 その言葉で全てを把握した。彼は人間ではない、アンドロイドだ。
 このまま捜索を続けても、今のところ問題はなさそうだけれど、念には念を押して今のうちに撤退したほうが良いか。考えを巡らせていると、今度は科学者らしき男性が駆け付けて来る。

「ADAM! ここにいたのか。勝手に抜け出したらダメじゃないか」

 このアンドロイドを管理している科学者らしき男が、私たちの存在に気付く。普通は侵入者と見做して追い出すか捕らえるかのどちらかだろう。けれど、彼は思いも寄らない言葉を口にした。

「ん? どうして警官が……君たちは誰? もしかして、君たちも協力者なのかい?」
「……君たち『も』?」

 私はリクと顔を見合わせる。この話ぶりから、恐らくは私たちが追っている上司は、このラボと深く関わっているのだろう。
 私たちはこのラボで、本当は何をしているのかすら把握していない。それはゆっくり調べるとして……ここはひとつ、芝居に乗る事にしよう。私はリクに向かって微かに頷けば、アンドロイドの少年と科学者らしき男に顔を向けて、敵ではないと思わせるように笑みを浮かべた。

「……あ、ああ、そんなところだ。俺はリク」
「私はウミカです。お察しの通り、協力者と思って頂いて問題ありません」
「ところで、こいつは……?」

 挨拶もほどほどに、早速科学者の男に向かって訊ねるリクに、男は隠す素振りも見せずに、はっきりと口にした。

「ADAM。感情を搭載した初めての自律型アンドロイド。僕の……人類の希望だ」

 この出会いを機に、ADAMとリクの友情は始まったのだった。



 カットの声が入り、天ヶ瀬くんは真っ先に冬美くんに声を掛けた。

「いい感じだったぜ、旬。何度もセリフ合わせしたおかげでバッチリだな!」
「冬馬くん……ええ! この調子で、次の撮影も頑張りましょう」

 本当にふたりの息はぴったりだった。練習をいくら重ねても、ウマが合わなければぎこちなくなってしまう。掛け合いは阿吽の呼吸が必要だと、私も経験を重ねて痛感している。
 本当に315プロのアイドルたちは仲が良い。良き友人としてだけでなく、良き仕事仲間、そして良きライバルとして信頼し合っているのだろう。

「冬美くんも天ヶ瀬くんも息ぴったりだったね!」

 そう声を掛けると、ふたりとも笑みを返してくれた。

「西篠さんも凄かったですよ! 簡単にしかセリフ合わせしてなかったのに、演技じゃなくて本当に『ウミカ』がそこにいるって感じでした」
「やはり本業の方は違いますね。努力を重ねて今の西篠さんがあると、東雲さんが言っていました」
「……東雲が?」

 一体私の居ぬ間に、高校生の男子たちに何を話しているのだろう……ちょっと不安になってしまったけれど、顔に出ていたのか、冬美くんがすぐにフォローした。

「変な話はしていませんよ。西篠さんの事を尊敬している、と」
「尊敬……私が東雲を尊敬するなら分かるけど」
「へえ、西篠さんがそんな風に思ってるって知ったら、東雲さんもすごく喜ぶと思いますよ! お互いに尊敬し合あう関係……最高だぜっ!」

 なんだか惚気話をしているようで、気恥ずかしくなってしまったけれど、別に東雲はそういう意味で言ったわけじゃないだろう。果たして私に尊敬するところがあるかは置いておくとして、非常に雰囲気の良い環境で仕事が出来そうでなによりだ。
 私たちが演じる人たちに、過酷な運命が待ち構えているだけに。



「バリィさん……アンタの不正、突き止めちまったよ。俺、信じてたんだぜ……」

 ついに私たちの上司――東雲演じるバリィという刑事を追い詰め、私とリクは彼と対峙する。

「アンタがラボに裏金を流していることはわかってる。だから……!」
「リク、君は警察官としては優秀だが、部下としてはいまひとつのようだ」

 バリィはそう吐き捨てれば、私を見遣って溜息を吐く。

「ウミカ、君が付いていながら……君はもう少し利口な子だと思っていたが」
「不正を見逃す事が利口だとは思えません」

 私の言葉は届かず、バリィは首を横に振れば、饒舌に語り始めた。

「私は法を犯して得た金を、法で裁けぬ悪を滅ぼすために使っている。アンドロイド開発もその一環だ。リク、ウミカ、正義とは一枚岩ではない」

 そして、バリィの視線がリクに向かう。

「それに……リク。君とADAMとの友情は、その金があってこそ、続けられている。事実を公表すれば、彼はドクター共々、世界から追放されるだろう」

 不正を公表する事は、リクとADAMを引き離す事になる。私たちは返す言葉が思い浮かばず、リクは苦悶の表情を浮かべている。
 そんな中、バリィの携帯電話が鳴り響いた。

「……着信か。どうした。……ADAMに戦闘用コマンド? ……アレを組み込んだのか!?」

 物騒な単語に、私はリクと顔を見合わせ、息を呑んだ。

「貴様、それで誰を狙うつもりだ……!? まさか、ケヴィンを……? そんな話は聞いていないぞ……ふざけるな! イーサン!!」

 バリィは呆然とする私たちなど構いもせず、走り出した。逃げるのではない、きっとADAMを止めに行ったのだ。
 暫しの間を置いて、リクは覚悟を決めたように頷けば、私に強い眼差しを向けた。

「ウミカ、お前は署に戻ってこの事実を上に報告してくれ」
「え!? それってリクも一緒だよね? ……まさか」
「俺はADAMを止めに行く!」
「何言ってるの、危険過ぎる――リク! 待ってよ!」

 私の訴えも虚しく、リクもバリィに続いてこの場から走り去ってしまった。
 取り残された私は、リクを追い掛けようか悩んだものの、彼の指示に従うべきだと決意して、警察署へと戻ったのだった。

 一先ず『ウミカ』はいったんここで退場し、終盤に再登場する。そう、恋愛要素はおろか、これから繰り広げられるアクションシーンに加わる事もない程度のポジションなのだ。



「toeten、toeten、toeten、toetentoeten……」

 華村さん演じるイーサンに戦闘用コマンドを仕組まれたADAMが、自身を作り上げた都築さん演じるケヴィンに襲い掛かろうとした瞬間、駆け付けたバリィが咄嗟に彼を庇った。

「ケヴィン、危ない……! ……ぐあぁぁ……!」
「バリィさん……!」

 バリィに続いて駆け付けたリクが、ADAMを止めようと声を荒げる。

「やめろADAM! ケヴィンはお前の親みたいなもんだろ!」
「……オ……ヤ……」
「そうだ……親だ、家族だ。大切な人を傷つけるな、ADAM!」
「toeten……チガ……僕は、誰も傷つけたく……な、あ……アアアアアアア!!!!」
「やめろ! ADAM! ぐあぁぁぁあ……!!」

 そしてリクも致命傷を負い、意識を失ってその場に倒れ込んだ。
 時を同じくして、バリィが最後の力を振り絞って、ケヴィンに想いを伝える。

「ケヴィン……よかった……今度は君を、守ることが……できた……」
「今度……もしかして、君……そんな、ウソだろう……死んだと思っていたのに」

 そうして、バリィは息を引き取った。

「こんな……近くにいたなんて……嫌だ! ……また君を失いたくない……!」

 ADAMというアンドロイドは、ケヴィンが亡き友人をモデルに作ったのだった。けれど、その友人は実は生きていて、今の今までケヴィンを見守っていたのだ。不正を行って巨額の資金をラボに提供し、彼が研究を全う出来るように。



 東雲の出番はここで終わりだ。正直もう少し見ていたかったけれど、インパクトとしては充分だ。

「東雲、お疲れ様」
「ありがとうございます。西篠さんはまだ見せ場が残っていますね」
「ちょっとだけどね。それより皆、アクションシーン凄いね……役者顔負けだよ」
「ふふっ。皆で特訓しましたから」

 そんな事はない、と謙遜するのではなく、はっきりとそう言い切るあたり、本当に皆で頑張ったのだろう。

「いいなぁ。私にもアクションシーンがあったら皆と一緒に練習したかったな」
「気持ちは分かりますが、男性数名の中に女性ひとりは少々問題ですね」
「……確かに」

 いずれアクションシーンのある仕事が来るかも知れないし、どこかでタイミングが合えば東雲にちょっと教えて貰おうかな。Best Gameの時も凄かったし。
 とはいえ、それは今する話ではない。まずは先に撮影を終えた相手を労おう。

「東雲、バリィさんかっこよかったよ。私、ああいう本人なりの正義がある悪役、かなり好きかも」
「ウミカの好みはリクではなくバリィでしたか」
「なんでそうなるの! そういうストーリーじゃないでしょ」

 ウミカの好みは知らないけど、私の好みは――いや、これ以上考えたら顔に出るからやめておこう。



 東雲に続き、都築さん演じるケヴィンもイーサンの手によって葬られ、ふたりはこれで出番終了となった。撮影は順調に進んで行き、終盤は暴走したADAMと、イーサンによって改造されたリクが、激しい戦いを繰り広げた。

「リク、未来を託します……ヒトと機械が、ボクタチのヨウに、分かりアエル、ミライを……」
「……お前は最悪の親友だ。だから絶対に忘れねぇ、絶対にだ」

 ADAMはリクのプログラムを書き換え、そして自身を討つよう願った。

「ADAM!」
「……ありがとう……リク……ボクの大切ナ……シン、ユウ……」

 リクは大切な親友の望みを叶える為、その手でADAMを破壊したのだった。
 打ちひしがれるリクの元に、諸悪の根源であるイーサンが現れる。

「ADAMに邪魔されたことは誤算だったが……貴重なデータは手の内さ。何も問題はない……新たなプロジェクトに移行するとしよう」

 呆然とするリクの携帯電話に、一通のメールが届く。

「……このメール……ケヴィンからだ。何かが添付されている……これは……ADAMのデータと、バリィさんが裏金をプールしていた口座の情報……」

 ケヴィンはイーサンに始末される前に、証拠をしっかり残してリクに届くようにしていた。リクがADAMと友情を築いたからこそ、成し得た事だ。

「そうだ。まだ終わっていない。ADAMに託された未来も、ヤツとの決着も」

 そう言って決意を新たにするリク、そして逃亡しようとするイーサンの背後に、何台ものパトカーが駆け付ける。
 そのうちの一台のドアが開き、出て来たのは私――ウミカだ。

「イーサン、逃げようとしても無駄です。証拠はすべて揃っています。ケヴィンさんが……私たちに真実を伝えてくれました」

 ヒロインと呼べるような活躍をしていなかったウミカは、一体今まで何をしていたのかというと、リクを救い出す為、彼女なりに裏で動いていたのだった。





「お疲れ様でしたー!!」

 無事クランクアップを迎え、出番がなくなった後も最後まで見届けてくれた東雲や都築さん、そしてエキストラを含めた一同が労いの言葉を掛け合った。
 私も早速、一番アクションシーンが大変できつかったであろう主役のふたりに声を掛けた。

「冬美くん、天ヶ瀬くん、最後まで本当に頑張ったね。お疲れ様!」
「ありがとうございます。演技の先輩である西篠さんと共演出来て、貴重な経験を積む事が出来ました」
「俺もだ! また西篠さんと共演出来るよう、これからも頑張るぜ!」

 若さって眩しい……と年寄りじみた事を思ってしまったけれど、私より年上の人がいる場でこの発言は禁句だ。
 でも、高校生の時にしかないキラキラした雰囲気がふたりにはある。Café Paradeの咲ちゃんや巻緒くん、それに他の高校生のアイドルたちを見ていても思うけれど、果たして当時の私はこんな風に輝いていただろうか。ちょっと自嘲したくなるくらい、315プロのアイドルたちは輝いて見える。

「華村さんも普段の御姿からは考えられないくらい迫力があって、凄かったです……!」
「ふふ、嬉しい事言ってくれるじゃないか」

 華村さんはさすが歌舞伎役者で私より遥かに実績があるだけに、本当に引き込まれた。共演出来た事を光栄だと思うし、贅沢を言えばまた一緒にお仕事をする機会があれば良い。

「西篠さんも頑張ったね。朝の澄んだ空気のように透き通る声をしていると感じたけれど……君も歌の仕事をしているのかな?」
「あ、ありがとうございます……そうですね、舞台で歌う事もあります」

 まさかAltessimoの都築さんからお褒めの言葉を頂けるとは。例えお世辞でも嬉しすぎて、つい顔が熱くなってしまった。

「……西篠さん。私が褒めてもそんな態度取ってくれませんよね」

 突然背後から聞こえた東雲の声に、びっくりして思わず肩を震わせてしまった。

「ちょっと、東雲! 真後ろでいきなり声掛けるの禁止!」
「刑事たるもの、そんな体たらくではいけませんね」
「もうクランクアップしたでしょ! バリィさんは大人しくしててっ」

 果たしてこれは演技なのか素なのか、どちらかは神と東雲のみぞ知る。とはいえ、こうして東雲とまた共演出来て嬉しかったし、いつかは東雲と恋愛シーンを演じる日が来るのだろうか……なんて、邪な事を少しだけ考えてしまった。

2023/10/13

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